自由帳
どうも、おはこんばんちわ。
星野弧絵です。
ローマ字で書くとHoshino Koeです。
ライトノベルを書いています。
ライトノベルを書いていきます。
頑張りますのでよろしくお願いしますです。
というわけで、ここは自由帳です。
なんか自由になってます。
ご意見ご感想ご質問ご提案ご苦情ご非難等ありましたら、遠慮なくコメントして欲しいです。
Update 2007.05.09 星野弧絵
どうも、おはこんばんちわ。
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Update 2007.05.09 星野弧絵
「鼻毛出てるよ」
高崎さんが、そういった。
オレは、彼女がなにを口走ったのか、すぐには理解できなかった。
鼻毛。
彼女の口から出た言葉は、オレの耳が確かなら、鼻毛。
顔を上げると、高崎さんの視線が向かう場所は、オレの顔面のほぼ中央近辺だった。
机を挟んだ向かい側に、彼女は座っている。距離にして、一メートルもない。確かに、オレの鼻毛を鑑賞するには、絶好の間合いだ。
オレの鼻から、鼻毛が出ている。
否。そんな馬鹿な。このオレが、鼻毛が鼻から出ていることに気づかないまま、授業を終え、このマンガ・イラスト研究部の部室に足を運び、先にきていた高崎さんを相手に、昨日徹夜で考えたロボットものの設定を、意気揚々と話していたというのか。机に広げたノートに、同じく昨日考えたロボットの絵を描きながら、興奮気味に話していたというのか。
ありえない。嘘だ。
オレは、そう結論付けた。
いや、まてよ。
即刻、オレはオレ自身に反論する。
高崎さんは、嘘をつくような女子じゃない。彼女が嘘をついたという話なんか、聞いたことがない。
そうだ。彼女はちょっと天然なところがあり、普通口に出さなくていいようなことを、あっけらかんということがあるのを、オレは思い出した。
ということは、やはり。
オレは瞬間的に青ざめ、息を呑んだ。
なぜなら、オレは高崎さんのことが、気に入っていたのだ。いや、自分をごまかしても詮方ない。はっきりいおう。オレは高崎さんのことが好きなのだ。
ぶっちゃけ、彼女はそんなに可愛い方ではない。上の下というか中の上。若干釣りあがり気味の目は一重だし、胸の膨らみもワイシャツごときに潰されるくらいの平らさだ。他の同級生と比べても、見掛けは劣る。 成績だって、そんなにいい方じゃない。全教科赤点ラインギリギリの低空飛行を得意とするオレよりは、遥かにマシだが。
彼女の魅力は、声だ。上ずった鼻声みたいな彼女の声は、アニメの声優のようで、凄くいい。一人称を「ボク」とかいわせてみたい衝動に駆られる程だ。
あと、おでこが広いのもジャストミートである。幼児体系なのも、実は好みの範疇だ。こうして机ごしに対面しているだけで、オレのハートはドッキンドッキンと激しいビートを刻んでいた。
それなのに、だ。
鼻毛が出ているだと。
微笑を浮かべながら、オレの話を真面目に聞いていたのかと思ったら、鼻毛を凝視していただと。 興味深そうに身を乗り出していたのは、オレの鼻毛がそよぐのを、観察するためか。
信じられない。本当なのだろうか。
本当だとしたら、とてつもなく最上級に恥ずかしいことだ。
しかし、本当である確率はほぼ百パーセントだ。何故なら、高崎さんは嘘つきじゃない。
ここまで、オレは約0.二秒で考えた。
高崎さんの顔は、「鼻毛が出てるよ」と口にした時点から、変化がない。
オレは、更に思考する。
この部室にいるのは、オレと高崎さんだけだ。マンガ・イラスト研究部の部員は、幽霊部員が多い。毎日顔を出すのは、オレと彼女と、今は補習を受けている部長くらいなもんだ。
ふたりだけの部室。
ふたりだけの空間。
それなのに、鼻毛。
いつも部長のことを邪魔だなと思っていたのだが、まさか鼻毛にまで邪魔をされるとは。
鼻毛、なんという残虐な響きだ。
間抜けさと、情けなさと、無様さが混じる、絶妙な存在。 生物学上必要なものかも知れないが、なくても構わない、いやむしろない方がいいとさえ思える物体。
この鼻に鼻毛があるということを、オレは恨む。オレの鼻に鼻毛を植えつけた親を、いや、神を恨む。 好きな女の子の前で迂闊にも飛び出すなど、言語道断だ。
悲観していても仕方がない。オレは、どうすればいいか、考える。 最良の方策を、考える。
「えーまじー鼻毛出てたーあははー」などといいながら、ぷちっと抜くか。しかし、鼻毛を抜くシーンなんか見られたくない。それに、抜いた鼻毛はどうすればいいのか。まさか、ぽいっとその辺に捨てるわけにもいくまい。ゴミ箱は、部室の隅だ。そこまで歩いていき、ぽいっと捨ててうわああ……。
だめだ。耐えられない。ゴミ箱に行くまでの間、オレの背中を彼女はどんな目で眺めるのか、想像もしたくない。 想像したら最後、間違いなく気を失うだろう。
ではどうするか。
「ファッションなんだよーえへへー」って、アホか。
「鼻毛で三つ編みって結えるかな?」って、結えるわけがない。
「鼻毛真拳~」って、ボーボボか。
いいアイディアが出ない。
まずい。なにも思いつかない。
ここまで、オレは約0.四秒で考えた。
高崎さんは、まだ瞬き一回としていない。
しかし、そろそろ一秒が経過する。高崎さんが、次のアクションを起こすかも知れない。今は微笑を浮かべているが、それが嫌悪の顔に変わるかも知れない。
窮地だ。
追い詰められた。
オレは自分の無力さを呪った。こんなことになるくらいなら、毎日鼻毛チェックをかかさず行えばよかった。鼻毛カッターを買えばよかった。ああ、自分が恨めしい。
「ちょっと待ってね」
ついに、高崎さんが動いた。
オレの思考は、鈍くなっていたようだ。
そうと気づき、愕然とした。
どれくらいの間、オレは固まっていたのだろう。どれくらいの間、鼻毛を凝視されていたのだろう。 オレの心臓は、さっきまでとは違った、乱れに乱れた困窮のビートを刻む。
高崎さんは、わきに置いた鞄を膝の上に乗せ、なにやら物色し始めた。
そこから、なにを取り出すというのか。
緊張のあまり、耳鳴りがする。オレは、唾を呑み込んだ。
「あった。いいかな?」
オレの大好きな、高崎さんの声。
キラリと、彼女の手の中で、なにかが光った。
銀色の輝き。
高崎さんの持つそれが、オレに近づく。オレの鼻に向かって、どんどん近づく。
なんだ。これはなんなのだ。オレは困惑する。なにが自分の身に起ころうとしているのか、認識できない。それくいらい、オレはパニクっていた。
パチン。
「はい。切れましたー」
はらりと、ノートの上に鼻毛が落ちた。
意外に太い、毛。
その刹那、オレは理解した。
高崎さんが、ハサミでオレの飛び出た鼻毛を切ってくれたのだ。
「あ、ありがとう」
オレは引きつりまくった顔で、呻くように、そういった。
高崎さんは、可愛らしく首を傾げると、アニメの声優のような声で、
「エヘ」
なんていった。
その仕草により、オレの緊張は解除された、というか爆砕された。
可愛い。むっちゃ可愛い。彼女が至上の天使に見える。こんなに可愛い高崎さんが、オレの飛び出た鼻毛を、私物のハサミを使って切ってくれるだなんて、信じられない。素晴らしい。なんていい娘なんだ、高崎さん。彼女の優しさと壮絶なまでの献身っぷりに、オレは惚れた。あらためて、惚れ直した。高崎さんは、素敵だ。素晴らしい女の子だ。こんなにいい女子なんて、世界中探してもいないに違いない。 宇宙規模で好き好き大好き。
オレは、意を決した。
ガタンと椅子を弾き飛ばしながら、鼻息荒く、オレは立ち上がる。
「高崎さん! オレと付き合ってくれ!」
オレがこの一年間胸に秘めていた熱い想いを吐き出すと、高崎さんは驚く素振りすら見せず、ハサミを持ったまま、笑顔を絶やすことなく、こう答えた。
「鼻毛、また飛び出してきたね。おもしろーい」
オレは、死のうと思った。
あたしは、脇の下からビームが出せる。
特別、変わったことじゃないと、あたしは思っている。あたしはオタクである。腐女子である。マンガやアニメ、ゲームにライトノベルと、さまざまなジャンルの作品に触れてきた。その中には、脇の下からビームを出せる女子高生なんて、ざらにいる。今のところ、そんな女子高生が出てきた話なんて読んだことはないが、きっといる。いるはずだ。いて欲しい。
あたしは、変じゃない。
でも、そう思い込もうとするのには、限界がある。
繁華街の暗く湿った裏路地で、あたしは男を見下ろしている。
気を失った男は、顔面に酷い火傷の跡を作り、金髪をくすぶらせながら倒れている。
あたしが、やったのだ。
あたしが、この柄の悪そうな金髪頭の不良を、退治したのだ。
脇の下から出るビームで。
この男は、悪人だ。気が弱そうで華奢で貧弱な女子高生であるあたしをみつけると、ニヤニヤ笑いながら肩を抱き、強引に裏路地に連れ込んだ。ひと気がないのを確認すると、ぷるぷる震えるあたしの頬を撫で、舌なめずりをして、胸を鷲掴みにした。だから、こらしめた。
脇の下のビームで。
いいことをした、と思う。悪人をやっつけたのだ、と思う。
だけど、自己嫌悪。
ここまでやることはなかったんじゃないか、と思う。顔面を火傷したこの男の未来を思うと、罪悪感が沸く。眼球は焼け爛れており、鼻梁もなくなっている。親が見ても、すぐには誰だかわからないだろう。
脇の下のビームは、融通がきかない。あたしの感情が、モロに反映される。嫌悪感が、威力に変換され、セーラー服の脇を破り、射出される。 まだ未熟なのだ。
まあいいや。ビームでやられることなんて、よくあることだ。
あたしは、その場から逃げるように、走り去る。
裏路地から出ると、あたしは素知らぬ顔をして、繁華街の通りを歩く。午後の繁華街は、ひと通りが多い。雑踏にまぎれ、あたしは駅へ向かう。あたしは変じゃない。あたしは悪くない。ビームなんてありふれている。そう、頭の中で繰り返しながら。
もうじき、駅前に出る。電車に乗って、二十分。そこから自転車で十分走れば、家に着く。それまでの間、脇をしっかり閉め、穴が開いていることを誰にも悟られないようにしなくちゃいけない。セーラー服の脇に穴を開けた女子高生なんて、恥ずかしすぎる。 あたしは、ひと一倍、恥ずかしがり屋さんなのだ。ついでに、ひと見知りも激しい。
「君。待ちたまえ」
突然、ぐいっと、肩を掴まれた。
あたしはびっくりして、脇の下に熱い衝動が訪れるのを覚えた。 ぐっと我慢して、振り返る。
若い男が立っていた。
背が高く、がっちりした体系の男だ。黒い趣味のいいスーツを着ている。精悍そうな顔つきで、こけた頬にはまばらな髭が生えている。
彼は、眉根を寄せていた。瞳には、困惑の色が見て取れる。
「君が出てきた裏路地に、火傷をした男が転がっていた。あれは、君が?」
少し、ビームが出た。
両手を脇に突っ込んでいなかったら、地面を焼いていただろう。あたしのビームは、何故かあたし自身には効果がない。
「知りま、せん。……なんの、ことですか?」
あたしは、うつむいた。自分の声が震えているのがわかる。
「知らない、ってことはないだろう。君が出てきた路地だ。なにを見たんだい? 誰がいたんだい? 教えてくれないかな」
男は声を潜めると、顔を近づけてきた。鼻を突くコロンの匂いに、あたしは顔をしかめる。
「……お、大声出しますよ?」
一歩後ずさりながら、あたしは精一杯の声でそういった。 蚊の鳴くような声とは、きっとあたしみたいな声をいうのだろう。これでも、頑張った方なのだ。さっきの金髪の不良相手には、 悲鳴ひとつあげられなかった。
「いや、本当に見てないのかい? まいったな、やっと手がかりが掴めたと思ったのに。妖怪ビーム人間……いや、なんでもない。気にしないでくれ」
男は苦笑すると、スーツの胸から名刺を取り出して、あたしに差し出した。
あたしはゲップを押しとどめるみたいにぐっと我慢して、脇から手を離すと、名刺を受け取った。
名刺には、
『私立探偵 高麗川太郎』
と、印刷されていた。
「俺は、こういう者だ。怪しい者じゃない。驚かせて、済まなかったな」
「……探偵さん、ですか?」
「そうなんだ。この辺りで頻発している、ある事件について調べている。連続火傷事件、とでもいえばいいかな。君も聞いたことがあるんじゃないか? 顔に酷い火傷を負わされる事件。模倣犯のようなものかな。被害者は、柄の悪い若者が多いんだが」
「はぁ……」
「知らない、か。でも、なんか思い出したことがあったら、そこに書いてある電話番号に連絡してくれ。なんでもいいんだ。情報を集めている。報酬も出すよ。じゃ、よろしくね」
男はそういい残して、去っていった。
あたしは、男の背中をぼんやりと見送る。彼は、もう一度被害者を確認しようと思ったのか、さっきあたしが出てきた裏路地に、躊躇なく入っていった。
あたしは、ふーっと息を吐き出した。
そして、すぐにむっとした。
あたしは、妖怪なんかじゃない。妖怪ビーム人間だなんて、酷い。
あたしは腐女子なので、「はやく人間になりた~い」というフレーズが、当然のように頭の中に浮かんできた。あのジャズ調の主題歌が、頭の中で鳴り始める。
冗談じゃない。闇にまぎれて生きてなんかない。あたしは、妖怪でもミュータントでもホムンクルスでもないのだ。十代の突然変異忍者亀でもない。普通の女子高生だ。ちょっとだけ、脇の下からビームが出せるだけだ。
憤慨しながら、あたしは駅に向かう。あんな失礼な男、もう二度と会いたくない。名刺は、その場で破り捨てた。
大型スーパーや銀行などが立ち並ぶ、駅前のロータリーは、ざわついていた。
寄り集まったひとびとは、みな興奮気味で、なにかについて熱く語り合っているようだ。よく見れば、あたしと同じ学校の制服を着た学生も、ちらほら見える。
なにごとかと思って、あたしは耳をそばだてる。
そのとき、
「おい、あれを見ろ! 空だ!」
と、誰かが叫んだ。
みんな、見事なくらい一斉に、空を見上げた。
あたしも、空を見上げる。
蒼く澄んだ空に、ひとの姿があった。
そのひとは、空を飛んでいた。背の低い雑居ビルの間を、器用に飛び抜ける。
尻から、虹色に輝くビームを出しながら。
「おお! ビームマンだ!」
「キャー! ビームマンよ~!」
「さっき、銀行強盗を倒したんだぜ! オレは見てたぜ! 必殺の尻ビーム乱れ撃ちで、一網打尽だったぜ!」
「ビームマン! ビームマン!」
「すっげえ! ビームで飛んでるぜ!」
「写メ! 写メ撮らなくちゃ!」
「いつも思うんだが、彼は痔にはならんのかね?」
騒ぎの中、あたしだけが背を向ける。 あたしの顔は、まっかっかだ。
尻の穴からビームを出し、空を飛ぶ、正義のヒーロー。
彼は、あたしのパパだった。
ちなみにあたしのママは、乳首からビームを出せる。兄は、股間から。
そう。ビームを出せるなんて、普通のことなのだ。
我が家にとっては。
あたしはため息をつきながら、改札を通った。
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