Home > 第1回 迷宮の樹
プレイ日:2009年4月25日
セッション第1回目は、「アリアンロッドRPG 基本ルールブック」についていたシナリオ、『迷宮の樹』です。
最初だし、まだ慣れてないし、ショートシナリオだし、せっかくついてるんだし、丁度いいと思いました。
ていうか、実はわくわくが激しすぎて、冷静な思考能力を失い、シナリオ作ることができなかったんです。どんだけー。
事前に少しだけ、セッションがありました。
NyagonがTRPG初心者だったので、キャラクターを作って、戦闘を練習してみたのです。
こっちも「アリアンロッドRPG」は初心者だったので、練習しときたかったし。
それにしても、今から思えば、ストーンコールドの【モンク/アルケミスト】は、ない。なさすぎる。
【ショートストーリー】
金色の巻き髪をなびかせたエルダナーンの魔術師タルトは、どこからどう見ても美少女にしか見えないけど、男性でした。過去の記憶を失っていて、自分が誰なのかわからないのに、まったく気にしていません。
わかっているのは、名前と、まだ未熟な魔術師だということと、お金が大好きなこと。
そんなタルトが、のほほんと道を歩いていると、ハゲ頭の男が、立ち塞がってました。
身長2mはある巨漢のドゥアンです。筋肉ムキムキです。拳から鋭利な爪が生えてます。
「貴様、強いな! わしにはわかる!」
「は? おいはぎ?」
「違う! わしは、さすらいの格闘家、ストーンコールドだっ!」
「やっぱ、ただの暴漢じゃない」
「問答無用! てやぁーっ!」
ハゲが殴りかかってきます。
タルトは、迎撃します。《ウォータースピア》を放ちました。
水の槍が、すぶどばばしゃーん! とハゲの腹を貫きます。
「げぼはぁっ! ……だ、だが、これしきではわしは倒れんっ! この強靱なわしの爪を、受けてみよっ!」
ハゲの拳に生えた爪が、タルトに命中しました。
でも、ダウンさせるほどの威力はありません。
「……痛いわね」
ぴきっ! とタルトの口元が引きつりました。
タルトは再び、《ウォータースピア》の呪文を唱え始めます。
「ま、待ったぁ! この勝負、引き分けだな!」顔面蒼白のハゲは、偉そうにいいました。
「は?」
「貴様の実力は、よくわかった。確かに強い。だが、この世界には、もっともっと強いヤツがいるのだ! ようし。いいだろう。わしが一緒についていってやるぞ! がーっはっはっは!」
「……え。まじで?」
「まじで」
ストーンコールドは、タルトの実力を認めたみたいです。
タルトは、すごい嫌そうな顔でした。
【プリプレイ】
こっから、セッション第1回です。
プレイヤーは、Kayata、Tiki、Nyagonの、3人です。
場所は、Takeon邸です。Takeonの家なのに、彼はセッションに参加しないというヘンテコな状況でした。
Nyagon以外のプレイヤーは、キャラクターを作成しました。
経験点0からです。
事前にスキル表をしっかりコピーしてスクラップブックを作っておいたので、すんなり作成できたと思います。
構成は、アコライト/シーフ、ウォーリア/サムライ、メイジ/アコライト、モンク/アルケミスト。
ひとり間違ってますけど、一通り揃っていると思います。
ヒューリン族がひとりもいないという、亜人間パーティーです。
【オープニングフェイズ】
タルトとストーンコールドは、冒険者が集まるという、”遺跡の街”ラインに向かっていました。
「おっ金っ! おっ金っ!」タルトは、報酬目当てです。
「むふふふ。強いヤツが待っておればいいがな」ストーンコールドは、かぽーんかぽーんと、脇を鳴らしています。
街の城壁が見えてくるとこまでくると、丘の上に、異様なほど巨大な樹が生えていることに気付きました。
「む。なんじゃ、あれは?」
「なんだろ。でも、お金の予感!」
ピキューン! とタルトの目が輝きました。
同じ頃、ルディオン山脈からおっこちてきたカヤタも、てくてくとラインを目指していました。
彼はドゥアン有角族です。頭部には立派な角が生えており、身長はすらりと高いです。
旅の友は、肩に留まっている、カヤタにしか見えない鳥。
やはり彼も、丘の上にそびえる巨大な樹を見かけました。
「おや? ずいぶん、大きな木だなー。さすが、都会。行ってみようか、トビー」
物珍しく思ったカヤタは、丘を登ります。
そのすこし前。ヴァーナ狼族の少女チキは、新人アコライトとして、ライン神殿を訪れていました。
手続きを済ましたところで、神官長ランディアに、いきなり呼び出されます。
「君か、新しくこの神殿に所属することになった、新人のアコライトは」
ランディアは、髪の長いエルダナーンでした。威厳があり、美しい顔立ちをしています。
「は、はい。チキといいます」
「うむ。実は街の外に、とんでもなく巨大な樹が、突然現れたのだ。すでに大樹へは、調査の為、冒険者が向かっているのだが……。嫌な予感がしてならんのだ。すまないが、様子を見に行ってくれまいか」
「はー。初仕事ですね。了解です!」
張り切って、チキはでかけました。
こうして、大樹の前で、4人はばったり出逢いました。
そこには、もうひとり。
大樹の太い幹には扉があり、その前で、僧侶の出で立ちの猫耳娘がおろおろしていました。
「はわわわわ。どーしましょ。どーしましょう」
「あ、あの。どうしました?」チキが猫耳娘に話しかけます。
「はわっ!? あ、あなたは、アコライトですね! ということは、ライン神殿からきたのですね! どうですか、この超推理!」
「え。いや、まあ、そうなんですが……。新人のチキです」
「チキさんっ! このひとたちは、あなたが連れてきてくれた、新たな犠牲者……じゃなくて、冒険者さんですねっ!」
「え。いや、まあ、違うんですけど」
「は、ハズレれましたかーっ!?」
「おいおい。今しれっと、酷いこといわなかったか?」ストーンコールドが割ってはいります。
「わわっ! 汗臭いっ! なんですか、この卑猥なハゲ人間は!」
「なんだとぅ――っ!?」
「うっさいから、黙ってて、ハゲ! で、なにかお困り?」タルトが話を戻します。
「はっ! そうでした。わたしは、ライン神殿所属のアコライトで、フィリスと申します。実は、冒険者にこの大樹の調査を依頼しまして、ここで、帰ってくるのを待っているんですけど、帰ってこないんです。それどころか――」
そのとき、大樹の上の方で悲鳴があがりました。
なにかが降ってきます。
どちゃっ!
それは、冒険者の死体でした。
大樹を見上げたカヤタは、窓のように空いた穴の向こうに人影を見ました。悪いやつが中にいるみたいです。
「ふーん。物騒なことになってるみたいね」タルトが、ほくそ笑みました。
カヤタの肩に留まった彼にしか見えない小鳥が、大樹にくちばしを向けて、チチッと鳴きました。
「トビー、どうしたの? ……あれっ? この木、成長してる?」カヤタは大樹から距離を取ります。
大樹はメキメキと音を立て、枝を伸ばし、幹を太くしていました。地面もわずかに揺れています。
「こ、これは、一大事です! あなたたち、せっかくだから、中に入って調査してきてくださいっ!」フィリスは涙目で叫びました。
「なんだそりゃ。わしら、初対面だぞ」
「僕は、いいですよー」
「私は、もともと調査にきたので、皆さんさえよろしければ」
「調査してきてあげてもいいわよ。で、報酬はっ!? もちろん、報酬あるわよねっ!?」タルトが目の色を変えました。
「え、ええと……。チキさん。ランディアさん、なんかいってましたか?」
「いえ、なにも」
「うーん。でも、さっき依頼した冒険者さんに支払う報酬が、浮きましたので、それでどうでしょう?」
「……また、しれっと酷いこといったな」
「まあ、いいわ。それで受けましょう。いいわね、ハゲ!」
「おう。何故かわしには、決定権がないみたいだからな」
「それじゃあ、行きましょーか。あ。僕の名前は、カヤタです。サムライです。よろしくお願いしまーす」
「そっか。自己紹介が、まだでしたね。私は、アコライトの、チキです」
「さすらいの格闘家、ストーンコールドだ!」
「魔術師のタルトよ。ちょっと、あんた。フィリスっていったっけ? あんたもきなさい。ひとりでも戦力は多い方がいいわ」
「ええーっ!? わたしもですかーっ!?」
こうして、チキたち4人とフィリスは、大樹へ入ることになりました。
いいのかこれで、って悩むくらい、かなり脚色しちゃってます。
実際は、マスターもプレイヤーも照れ照れでした。
特にマスター。
なにしろ、15年ぶりのマスターだったので、段取りが悪く、以前できたことができなくなってて焦りました。
アドリブでどーにでもできるぜー! とか思ってたのに、なんもできません。
バラバラだったキャラクターが初めて出逢ってパーティーを組む、っていうオープニングじゃなくて、最初からパーティーだった、ってしとけば、楽でした。
Tikiも、すんごい久しぶりですし、Nyagonなんて、完全な初心者です。
そんな中で、Kayataのテンションが高くて、とても助かりました。
実は、このセッションでは、オープニングフェイズとか、ミドルフェイズとか、明確に区切ってませんでした。
まだ「アリアンロッドRPG」のシステムを、よく理解していなかったからです。
昔風の、先の見えないだらだらプレイです。
【ミドルフェイズ】
大樹には、ちゃんとした扉がついてます。
ガチャリと開けて中に入ると、けっこう広い部屋になってました。部屋には、階段と扉があります。
「どーなってんのよこれ? まるで塔じゃない」タルトは、不審そうな顔をします。
「そーなんですよっ! この大樹、昨日突然現れて、気付いたら、こんなにおっきくなってたんです! きっと、悪い悪魔の仕業です!」フィリスがいいました。
「良い悪魔なんているのか?」と、ハゲ。
「……とにかく、あやしさ満点ですね」チキは、油断なく見回します。
「とにかく、行こーう!」ずんずんと、カヤタが歩き出しました。
すると、階段からフォモールたちが降りてきました。カタナを抜いて、襲いかかってきます。
「ふん。妖魔か。雑魚め。わしの爪で八つ裂きにしてくれるわーっ!」
ストーンコールドが、吠えました。拳から生えたアイアンクローを輝かし、振りかぶります。
「そいじゃあ、いくよー! 《トルネードブラスト》っ!」
ズバシュウッ!
カヤタのブロードソードから放出された、凄まじい竜巻で、フォモールどもは一瞬で吹き飛ばされました。
ストーンコールドは、大見得切って振り上げた拳を、どーしたらいいかわかりません。
「……カ、カヤタ。貴様、見かけによらず強いじゃーないか」
「そう? ありがとう!」
「へえ。これは、心強いね」チキは、声を弾ませました。
みんなで階段を登って行きます。
チキは、慎重に扉を調べたり、器用に罠を外したり、テキパキと働いてます。
「ほほう。最近のアコライトは、シーフの技も覚えてるのか?」ハゲが、いいました。
「そーなんですよ! アコライトって、すごいんです!」と、フェイリスがいいました。
「ほほう。お前もなのか?」
「あれ? わたしは、シーフの技なんて、覚えてませんよ?」
「そこのふたり! なにボケてんのよっ! 敵だわ!」タルトが身構えます。
階段を登ったところで、インプが1体、飛んでいました。部屋の奥、でっぱりで陰になっているところへ、さっと姿を隠します。
「よっし! また、僕が……って、うわっ!?」
カヤタの足が、床にしきつめられたトリモチに、みっちりと固定されてしまいました。
トラップです。
インプが、くひひひひと笑ってます。
「ぬわははは! 迂闊だったな、カヤタ。今度はわしに任せろ。こんなもの、跳び越してくれるわーっ! ……あ」
びちょん。
ストーンコールドも、トリモチにくっついちゃいました。
「ほんっと、口ばっかりね、あんたは」タルトは《ウォータースピア》を撃ちます。
けれど、それだけじゃ敵は沈みません。
前衛ふたりの戦力を削られて、ピンチです。
そのとき、チキが、メイスを持って飛び出しました。
「任せてっ!」
彼女はヴァーナ狼族です。足が速く、素早いのです。
跳び上がったチキは、ストーンコールドの背中を蹴って、向こう側へ――
つるっ。
「きゃあっ!?」
「むおっ!?」
どっすーん!
距離を見誤ったチキは、ストーンコールドのハゲ頭でつるりと滑り、ふたりはそのままもんどり打って倒れてしまいました。
しかも、運が悪かったのか、チキの顔面とストーンコールドの顔面が、むちゅっと衝突してしまいます。
「うわーん! び、病気が移るーっ!」可哀そうなチキは、口を拭きながら泣き叫びました。
「し、失礼なことをいうなぁーっ!」
「……あーあ。ご愁傷様」タルトは顔を背けます。
「やった! 抜けられた!」
やっとのことで、カヤタがトリモチから脱出しました。
トリモチの中でぬちょぬちょしているチキとストーンコールドを尻目に、タルトの魔法と、カヤタのブロードソードが、インプにとどめを刺しました。
「ふう。なんとかなったねー」カヤタは額の汗を拭きます。
「ねえ、カヤタ。さっきから気になってるんだけど、あんたサムライなのに、どうして剣使ってるの?」タルトが、いぶかしげな顔で訊きました。
「あはは。実は、《カタナマスタリー》は習得してるんですが、《スピリッツ・オブ・サムライ》は、まだなんですー」
つまり、カタナの扱いは得意だけど、サムライの心、カタナを持っていない、ってことです。
「……大丈夫かしら、このパーティー」タルトは、ため息をつきました。
大樹の中は、本当に塔のようでした。
扉があり、部屋があり、階段があります。エレベーターまで、完備してました。
「ほほう。最近の木は、エレベーターまでついてるのか」ストーンコールドは、感心します。
「んなわけないでしょ!」
作戦会議室らしき部屋で、書類を発見しました。
どうやら、魔の大樹を異常成長させ、根を伸ばし、ラインの街に侵入するつもりらしいです。
「な、なんという、壮大な作戦! これは、なんとしてでも、食い止めなければっ!」驚愕したフィリスは、叫びます。
「……つか、無茶な作戦だなあ」チキは呆れ顔です。
「くっだらないわね。でも、一応、この書類、持ってく?」
「うん。持っていきましょう。私が預かっておきます」チキは書類を受け取り、カバンの中に入れました。
「あと行ってないのは、このエレベーターでしか行けない、上の階だね」
カヤタは、天井を眺めました。
ダンジョンマップは、シナリオの通りです。
エレベーター完備の大樹ってどうなのよ、なんて思いつつ、そのまんま進めました。
しかし、鍵が開かないものだと思い込んでミスってしまったところがあり、部屋を1個追加してつじつま合わせたりしました。
久しぶりのマスターだと、文字すら読めなくなるようです。
フィリスは、いるんだかいないんだかわかんないような感じでした。
NPCですから、こんなもんで十分です。
ストーンコールドなんて、むしろ足引っ張ってました。
【クライマックスフェイズ】
「ククク。わざわざ死ににくるとは、バカな連中よ」
大樹の最上部の部屋には、豪奢なローブを着た青白い顔の男が、待ち構えていました。
「ふん。あんたが、ボス? フォモールの魔術師、といったところね。名前だけは訊いといてあげるわ」タルトが、高飛車な態度でいいました。
「いいだろう。我が名は、エイスファス。キサマらは、名乗らずともよいぞ。どうせ、私に切り刻まれて、顔すらわからなくなるのだからなぁーッ!」
エイファスの手から、疾風が放たれます。風属性の攻撃魔法、《エアリアルスラッシュ》です。
「くっ! 行くぞ、カヤタ!」ストーンコールドが、駆け出します。
「トリモチ、ないよね? あれ、嫌いなんだ」
「私も、行く!」チキも、飛び出しました。
飛び交う魔法。剣戟の響き。
エイスファスは、手強いです。そう簡単には、倒れません。
「ちっ! 種切れよ!」タルトが、悔しそうに吐き捨てました。MPが尽きたのです。
しかし、度重なる攻撃で、エイスファスは肩で息をしています。
「……人間ごときが、よくもッ!」
「僕たちの、勝ちだ――っ!」
ザシュッ!
カヤタが、ブロードソードを振り上げ、渾身の一撃を与えました。
けれど、まだ倒れません。ギリギリでこらえています。
「うわははははーっ! ここで、わしの出番じゃーいっ!」
ガブッ! ガブッ!
なんと、ストーンコールドは、弱ったエイスファスの目の前で、錬金術で作り出していたHPポーションをがぶ飲みし始めました。どうだ、うらやましいだろう、といわんばかりの目で、エイスファスを見下ろします。
「ちょっ!? なにやってんのよ、ハゲ! あんた、バカぁ!?」
「なにをいう! 敗者に向かって、徹底的に屈辱を与えているのだ! 邪魔をするな!」
「あーもう! 私が、やるっ!」
チキが、メイスを振りかぶり、思いっ切りフルスイング!
スカッ! と外れたかと思いきや、一回転してエイスファスの腰骨を粉砕しました。
「ギャァ――ッ! エラザンデル様ァ――!」
エイスファスは、ばったりと倒れました。
この大樹を操っていた、フォモールのボスをやっつけたのです。
「わあ! みなさん、すごいです! てっきり、全滅するかと思いましたぁ!」フィリスが拍手喝采します。
「……今、しれっと酷いこといわなかったか?」
「酷いのは、あんたでしょっ!」
タルトは、ストーンコールドを殴りました。
「あれ? ……止まらない?」
カヤタは気付きました。
エイスファスを倒しても、大樹の成長が止まりません。みちみちと音を立て、ぎしぎしと震えています。
「上に、なにかある!」
チキが指さす先、天井の真ん中に、巨大な心臓のようなものが張り付いていました。黒い剣が突き刺さってます。
「大樹の心臓? ……刺さってる剣、普通じゃないわね。きっと、あの剣のせいで、暴走してるんだわ」タルトが、唸りました。
「どうするんだ? わしはもう動けんぞ」
「誰も、あんたなんかに期待してないから」
「はわわわ! たいへんです! 止めないと、いけません! 世界が滅んでしまうかもですよーっ!」ばたばたと、フィリスが暴れます。
「壁、よじ登れそうだね」
カヤタは、壁に手を触れました。血管のようなものが縦横に張り巡らされた壁を伝えば、天井まで行くことができそうです。
「カヤタ。お願い、できるかな?」チキが、申し訳なさそうな顔で、そういいました。
「うん。僕が、やってみる! 力仕事は、得意なんだ!」カヤタは、壁を登り始めました。
ぼてっ。
ずてっ。
ごすっ。
「……カヤタ。どこが得意なんだ?」
「いてて……。お、おかしいなあ……」
カヤタは、3連続で壁登りに失敗しました。落下のダメージで、ズタボロです。エイスファスと戦ってたときより苦戦してます。
彼にしか見えないトビーは、ストーンコールドのハゲ頭の上に留まってます。
「仕方がない。わしが、肩車をしてやろう」
「ありがとう!」
ハゲが肩車して、やっとカヤタは壁登りに成功しました。
「き、気をつけてねー!」チキは、おろおろしてます。
「わしが肩を貸してやったんだ。まあ、大丈夫だろ。あとは、剣を抜いて――」
ずぽっ。
「あっ!」
剣を抜いたカヤタは、ずるっと手を滑らせ、天井から落下しました。
「わしに、任せ――ぐぼはぁっ!」
すでででっ!
落下地点で、ストーンコールドが受け取ろうとしたのですが、見事に失敗しました。
ふたりとも、床で目を回しています。
「……ったくぅ。役に立たない男たちね」タルトは、肩をすぼめました。
「でも、木の動きが、止まった?」
大樹の震えが、止まりました。しんと静まりかえっています。
「やったー! わたしのお蔭で、一件落着ですっ!」フィリスが、喜びます。
「あんたは、なんもしてないでしょーがっ!」
「ほらほら! カヤタさんと、この汗臭いハゲに、《ヒール》してますよっ! 大活躍ですっ!」
「あ、ありがとう。……あれ? うわっ!?」カヤタは、目を見開きました。
ぎゅぬっ! ずちゅるるっ!
大樹の心臓に刺さっていた黒い剣が、カヤタの持っていたブロードソードに、浸食しました。黒々と、姿を変えます。
「ぼ、僕の剣が!? なにこれこわい!」
「……ど、どうしよう」チキは困惑顔で、タルトを見ました。
「うーん。マニアになら、売れるわね」
「だめですよぉ! これは、なにか重要なアイテムに違いありません! 神殿に、持って行かないと!」
「そうだよね。カヤタ。神殿に渡しちゃって、いい?」
「うん。僕、それ触るの嫌だから!」
仕方がないので、チキは、剣を慎重に布でくみます。
「あたしが持っててあげるわ」タルトが、剣を預かります。
「ありがとう。じゃあ、出ましょうか」
チキたちは、その場をあとにしました。
シナリオだと、エイスファスがベラベラと極秘情報を喋るのですが、いくらなんでも喋りすぎというか、わざわざバラすなんて不自然だろうと思い、全カットしました。
その後の、大樹の核との戦闘も、蛇足っぽかったので割愛しました。
カヤタが魔剣を持つのを拒否したのは、20年前にやってたキャラクターで、似たようなことを経験してたからです。そーいや、そんなこともありました。
【エンディングフェイズ】
大樹から出たところで、タルトの目が、ピキューン! と輝きました。
「ねえねえ、チキ。やっぱこの剣、売っちゃわない? 高値で売れると思うのよねー」
「え。で、でも……」チキは、困り顔。
「なんだなんだ。どうしたどうした」
「どうしたのー?」
「どうしたんですかぁ?」フィリスも、首を傾げながら近づいてきます。
「あっ。ね、ねえ、フィリス。あの冒険者の死体、どうしようか」チキは、フィリスにそういいました。
「わわっ! すっかり忘れてましたぁ!」
チキは、タルトに目配せすると、フィリスを連れて離れます。
「やるわね、あのコ! ねえ、カヤタ。この剣、売っちゃおうと思うんだけど」
「そんな気持ち悪い剣、買ってくれるひと、いるの?」
「ラインの街って、けっこーでかいんでしょ? 魔法学校とかあるはずだし、きっと、物好きがいるわよ!」
「買ってくれるひとがいるなら、いいと思うよ。そんな剣、もういらないし」
「つか、タルトは、金のことばっかだな」
「うっさい、ハゲ! じゃあ、決まりね!」
タルトとカヤタとストーンコールドは、そそくさと丘を駆け下りました。
「あっ! あのひとたち、どこ行くつもりですか? ま、まさか、あの剣、売りに行く気じゃないでしょうね!」フィリスが、気がつきました。
「まあまあまあ。ほら、フィリス。これ預けるから」
チキはフィリスに、大樹の中にあった妖魔たちの作戦書類を、手渡しました。
「こ、これは……。はっ! わたしのお手柄にしてくれるんですね!」
「う、うん。これで、黙っててくれる?」
「仕方ないですねー。じゅる。特別ですよぉ!」フィリスは、書類を懐にしまい込みました。
タルトたちは、ラインの街に入りました。
大きな街です。遺跡の街というだけあって、古い建物や、いわくありげな建造物が、あちこちにあります。冒険者の姿も、ちらほら見かけます。
「魔法学校、あっちだって!」
道を訊き出したタルトは、るんるん気分で魔法学校を目指します。
すぐに到着しました。立派なたたずまいの塔です。
「すいませーん。魔法具の知識に長けてるお金持ちの研究者は、いませんかー?」
タルトがそういうと、受付にいた女性は目をぱちくりさせました。
「いえ、あの、その……。どんな、ご用件でしょう?」
「とてもいいブツが手に入ったのよ。口外無用でお願いしたいわ」
「ええと。でも、そういうことは……」
「あんたじゃ、らちが明かないわね。責任者出して!」
タルトは、ごね始めます。ねちねちと、受付のひとを追い詰めてます。
「……ねえ、ストーンコールドさん。タルトさんって、いつもああなんですかー?」カヤタが、ぽそっといいました。
「うむ。なんでか知らんが、金の亡者だ」
「でも、お金が欲しいのは、僕も同じですよー。お金に困ってます」
「それにしても、あいつはエゲツない。親の顔が見てみたいぞ」
「うっさいハゲ! 聞こえてるわよっ!」
「どういたしました?」
髪の長い聡明そうな男が、現れました。エルダナーンのようです。理知的で、目の輝きがひととは違います。
「あーら。あなたなら、この剣の価値、わかってくれそうね」
「剣? ……ふむ。奥の部屋へ、どうぞ」
髪の長い男に従って、奥の部屋に入ります。
タルトは剣を机の上に置き、どれだけ苦労して手に入れてきたか、事細かに話します。
「……よく、わかりました」髪の長い男は、頷きました。
「で、いくらで買ってくれるの?」
髪の長い男は、冷たい目でタルトをにらみつけます。
「自己紹介が遅れたな。私は、ライン神殿の神官長、ランディアだ」
「……は?」
「フィリスとチキは、私の部下だ! 大樹の調査も、私が依頼した!」
「……え? う、うっそーっ!?」
ガッカリするタルト。ぐったりとして、膝をつきました。
「ありゃまあ。残念」カヤタは肩をすぼめます。
「ふふん。庶民は、地道に働けばいいのだ」
「うさい、ハゲ!」
「それは、そうと……」
ランディアは、顔色を曇らせました。
「どうしましたー?」
「……うむ。間違いない。これは、魔剣カーディアックだ。……キミたちは、とんでもないものを手に入れたようだな」
「え?」
「ま、魔剣、ですかー?」
どうやら、なにかいわくありげな剣だったようです。
魔剣を売ろうといわれた時は、ぶったまげました。
しかも、戦闘時には見せなかった見事な連係プレイまでやってくれちゃいました。なんというか、さすがです。
このシナリオは、ここで終了。セッションも、終了です。
続きは、「アリアンロッドRPG シナリオ集1 ファーストクエスト」になります。
はてさて、どうなることやら。
錆び付きまくった、マスタリングの腕を、磨いておかないと。
【アフタープレイ】
経験値は、10点+使用フェイト。
みなさん、揃ってレベル2になりました。
カヤタは、《スピリッツ・オブ・サムライ》を習得しました。これでやっと、カタナを持ったサムライです。
ストーンコールドは、セッションが終わってちょっと経ってから、クラスが間違っていることに気付きました。仕方がないので、【ウォーリアー/アルケミスト】ということになりました。
次回から、ギルドを作ることになりました。
ギルドマスターに選ばれたチキは、うんうん唸りながら、ギルド名に悩んでいました。