Home > 第2回 妖魔の洞窟 前編

プレイ日:2009年5月5日

妖魔の洞窟 前編

「アリアンロッドRPG」セッション第1回目から、一週間後に、第2回目が行われました。
『迷宮の森』の続きになる、「シナリオ集1 ファーストプレイ」の『妖魔の洞窟』を、べースにしました。
 前半に、ショートシナリオがあり、後半に、『妖魔の洞窟』です。
 場所は、Takeon邸です。

【プリプレイ】

 今回から、プレイヤーが4人になりました。
 Takeonの参戦です。
 Takeonの作ったタケオンは、小さな人類、フィルボルです。やっぱり、亜人間です。結局、パーティーにふつーの人間がいません。
 クラスは、シーフ/サモナー。本職のシーフです。

 キャラクターたちに、設定を追加しました。
 チキの父親は、反神聖帝国軍の隊長、リヒトです。彼女は、軍資金に悩むリヒトに頼まれ、冒険者となりました。何故かリヒトは宝石魔人ジュエリーザの弱点を知っており、チキも教えてもらってます。
 カヤタは、”久遠の森”に住む封印守護の一族です。何者かに、崖の上から突き落とされましたが、運が良かったので生きています。せっかくなので、そのまま冒険者になっちゃいました。
 記憶喪失のタルトは、魔術を使って大暴れする夢を見ました。過去の記憶がちょこっとだけ蘇り、スキルをひとつ習得しました。
 タケオンは誕生したばかりなので、まだ考えてません。
 ストーンコールドはNPCだから設定なんかいりません。

 今回から、ギルドを使います。
 ギルド名は、Tikiがいろいろと悩んだ結果、「花鳥風月」となりました。
 キャッチフレーズは、「我々は花鳥風月! お金に困っている!」。すさまじい自己紹介です。

【オープニングフェイズ】

 大樹で妖魔を倒した、その翌日です。
 大通りの宿屋に一泊したチキたちは、ライン神殿の神官長ランディアに呼び出されました。
「……嫌な予感がするね」チキは、浮かない顔です。
「……あの男、魔法学校で張ってるなんて、卑怯だわ」タルトが愚痴ります。
「むっふっふ。まあ、わしに任せておけ」ストーンコールドは、無駄に自信満々です。
「僕たち、同じギルドになるんだよね? 昨日、丘の上で出逢うまで、顔も知らなかったのに、なんだか不思議ー」カヤタは笑顔です。
「ギルド、か。ギルド名、”花鳥風月”で、本当によかった?」
 チキは、自信なさげです。徹夜で書いた書類を、ちらちら見ています。
「ま、いいんじゃない? チキがリーダーだし」
「それも、いいの? 私がリーダーで」
「だって、あの卑怯な神官長のご指名でしょ?」
「自信を持てい! タルトがリーダーになると、強盗ギルド”現金歓迎”、とかになっちまうぞ!」
「うっさいハゲ! 死ね!」
「さ、神殿についたよー!」
 ラインの神殿の前で、チキたちは足を止めます。
「妙なことに、ならないといいな……」
 しかしそれは、叶わぬ願いでした。

 ちょうどその時、タケオンは神殿にいました。
「あのー。実はですね、冒険者の登録をしにきたのですが」
 神殿は、冒険者の管理をしています。仕事の斡旋も、神殿がやっているのです。市役所と警察とハローワークがひとつになったよーなもんです。
「……じゃあ、書類書いて提出してください」受付にいる猫耳の女の子は、何故か不機嫌そうです。
「実は、書いてきたんですよ。これで、お願いします」
「……用意周到ですね。……ふーん。タケオンさんは、シーフですか。悪の手先ですね」
「ち、違いますよ!」
「冗談です。……ふーん。レベル2だなんて、もう立派な冒険者じゃないですか」
「それが、まだ冒険には出たことないんですよ」
 タケオンの両親は、有名な冒険者でした。幼少の頃から一緒にいた彼は、いつの間にかレベル2になっちゃってたのです。
「冒険に出る前にレベル2になってるだなんて、うさんくさいです。やっぱり、悪の手先です」
「ええーっ!?」
 タケオンが冷や汗を垂らしていると、ぬおっと大きな人影が現れました。
「おいおいおい。フィリス。子どもを、いじめるなよ」偉そうな、ハゲ頭のドゥアンです。
「はっ! そ、その声は、汗臭いハゲ人間!」
「誰がハゲ人間だっ!」
 ストーンコールドに続き、チキたちが、ぞろぞろと神殿の中に入ってきました。
「おはよう、フィリス。ギルド登録の書類、提出するね」
 チキは、受付の席に座るフィリスの前に、書類を差し出しました。
「あ、あなたたちっ! 酷いですよーっ!」フィリスは顔を真っ赤にして、立ち上がりました。
「え? ど、どうしたの?」
「チキさんっ! わたしが手柄を独り占めするはずだったのに、ランディアさんに、バラしたでしょう!」フィリスは、ぷりぷり怒ってます。
「あ……。で、でも、仕方ないじゃない」
「そうよ。あの卑怯な神官長が、待ち伏せしてたせいだわ。文句があるなら、あいつにいって!」タルトも、不機嫌そうな顔でいいました。
「あのー。ボク、子どもじゃないんですよね」タケオンは、ストーンコールドの脚をつつきます。
「おおっと! フィルボルだったか。これは失礼だったな。すまない!」
「ねえ、フィリスさん。僕たち、ランディアさんに、呼ばれてるんですけどー」カヤタがいいました。
「……わかりました。じゃあ、ちょちょっと書類を片づけますから、待っててください」
 フィリスは、ぶちぶちいいながら書類を整理し始めました。カキカキと、ペンを動かしてます。
 ピタリと、ペンが止まりました。
「……あ」
「どうしたの、フィリス? どこか、書き間違えたとこ、あった?」
「……ギルドメンバーのとこに、タケオンさんの名前、書いちゃった」
「え? タ、タケオンって?」
「実は、ボクのことなんですが……」
 チキたちは、ばばっ! とタケオンを注目します。
「で、でもでもっ! あなたたちのギルドには、ちょーど、本職のシーフがいなかったから、好都合ですよねっ! これは、わたしのナイスアシストですよぉ!」
「なにが、ナイスアシストよ! ただの、書き間違いでしょ!?」
「ええと。……タケオン、くん? いいの、かな?」
「はい。実は、どこかのギルドに、登録しようと思ってまして。せっかくなので、よろしくお願いします」ぺこりと、タケオンは頭を下げました。
「やった! 仲間が増えた! 僕は、カヤタ! よろしくねー」
「じゃあ、いい、か。私は、チキ。一応、リーダーです」
「ちょっと待ってよ! いいの? 本当にいいの? 今ここで逢ったばかりのひとよ? 書類、書き直せばいいじゃない!」タルトは納得できないみたいです。
「僕たちだって、昨日出逢ったばっかだし。同じだよー」
「カヤタのいう通りだ。これも、なにかの縁。お前は、報酬の分け前が減るのが気に入らないだけじゃないのか? がめついやつめ」
「うっさいハゲ! 死ね!」
「み、みなさん、仲がよろしいようですね……」
「うん。いつも、こんな感じ−」
 そんな訳で、タケオンが5人目の仲間として登録されてしまいました。

 神殿の奥の部屋に通されると、神官長ランディアが、大きな机の向こうで待ち構えていました。
 沈痛の面持ちで、チキたちを睨みます。
「……遅かったな。それに、ひとり増えているようだが?」
「あ。初めまして。タケオンといいます」
「文句あるなら、あんたの部下にいいなさいよ。ったく、ろくでもない神殿ね」タルトは、まだ不機嫌そうです。
「そうか……。まあいい。チキ。カヤタ。タルト。タケオン。ストーンコールド。これから話すことは、他言無用だ。決して、口外するな。……世界のためにな」
「世界? ふん。いきなり、話がでかくなったわね」タルトは鼻で笑います。
「なんでもいい。とっとと、話してくれ」偉そうな態度で、ストーンコールドは促しました。
「お前たちが、昨日手に入れた剣は、魔剣カーディアックという。……この魔剣は、フォモールの王、エラザンデルの心臓を封じたものだ」
「は?」
「フォモールの王?」
「エラザンデル?」
 チキたちは、顔を見合わせます。
「エラザンデルは、フォモールを率いる、最悪、最強の、魔王だった。300年前、多くの犠牲を出しながら、やっとのことで封印に成功した。あまりにも強力だった故、倒すことはできなかったのだ。封じる時、エラザンデルを6つに分けた。カラッポの肉体。3つの宝珠。そして、ふたつの剣」
 しんと、水を打ったように静かになりました。
 300年前に存在した、魔王。
 どれだけ恐ろしい存在だったのか、みんな、想像すらできません。
「ふたつの剣は、300年の間に、フォモールどもに奪われていた。魔剣カーディアックは、そのうちの、1本だ。もう1本は、魔剣セレブリック」
「で? あたしたちにどうして欲しいの?」タルトが、そういいました。
「この神殿には、宝珠がある」
「宝珠? エラザンデルを封じている?」
「そうだ」
 ランディアは、背後の棚から長細い箱を取り、机に置きました。
 開くと、黒く禍々しい剣が収まっていました。魔剣カーディアックです。昨日までカヤタのものだった、ブロードソードです。魔剣は、ブルブルと小刻みに震えています。
「これは……。共鳴?」
「鋭いな、タルト。そうだ。宝珠と魔剣が、呼び合っている」
「確かに、ここに置いておくのは危険だわ。宝珠に施した結界の効力が、薄まる可能性がある。一刻も早く、離れた場所まで持って行かないと。できれば、封印の処置も施したいわね」
 すらすらと出るタルトの台詞に、チキたちはぎょっとしました。
「話が早いな。つまり、そういうことなのだ」
「そして、それを頼めるのは、この秘密を知ったあたしたちだけ。そうでしょ?」
 ランディアは、頷きます。
「そうだ。聖都ディアスロンドまで、送り届けて欲しい」
「ディアスロンド? 長旅になるわね。それに、フォモールに襲われる心配もあるわ。狙われているのだから、大きな街にも入らない方がいい。でしょ?」
「ふふふ。こんなに話がわかる者とは、久しぶりに話をする。気に入ったぞ、タルト」
「じゃあ、それも加味して」
「加味? なににだ?」
 その時、タルトの目が、キュピーン! と輝きました。
「報酬に決まってるでしょぉ――っ!」
 ババァーン!
 タルトは、大声で、叫びました。
「結局、そこか――い! この、金の亡者めっ!」
「うっさいハゲ! 交渉してるんだから、引っ込んでて! 神官長さん、これは非常に危険な任務よ。普通じゃないわ。だから、報酬も破格を要求するわ。ひとり10万G! どう!?」
「じゅ、10万だと!? バカな! そんなに出せるわけないだろう!」
「たった10万Gで、世界の平和が守れるなら、安いもんだと思うけど。ことの重大さが、わかってないんじゃない?」
「なんといわれようと、出せないものは、出せない! ……5000Gで、どうだ?」
「はぁ? 安っ! 信じらんない! 5000G? 世界の平和が? たったの、5000Gぽっち? ひっどい! 非常識すぎる! 意味わかんない! あんた、バカぁ!?」
「……し、神官長に、バカとかいってる」チキは、おろおろしてます。
「ど、どういうひとなんですか、タルトさんって……」タケオンは、目をまん丸に見開いています。
「すごいねー、タルト。でも、お金には困ってるし」
「だからって、あれはない。あれじゃあ、ただのカツアゲだ」
「聞こえてるわよ、ハゲっ! ランディアさん。5万Gまで、まけてあげるわ。一気に半額。どう?」
「……8000G。ひとり8000Gだ。5人で4万G。これで、どうだ!」
「だめ。話になんない。口止め料にしかならないわ。交渉決裂。剣の処置は、他をあたって。たった8000G程度でこんな危険な依頼を受ける冒険者なんて、世界中のどこを探したっていないだろうけどー」
「くっ! ……ご、5人で、5万G。ひとり1万Gだ。前金で3000G、出そう。……頼む。これ以上は、無理なのだっ!」
「へー。世界の平和が、たったの1万G? それが、あんたの価値観? ライン神殿の正義?」
「な、なんといわれようと、これ以上は、……無理なのだっ! すまないが、頼むっ!」
 ぐっと、ランディアは唇を噛み、頭を下げました。
「ふん。……仕方ないわね。それで、受けましょう」
 その瞬間、ランディアは力が抜けたのか、がくっと膝を落としました。
 タルトは、ニヤリと笑います。
 タルトの勝ちです。完全勝利です。それは、誰の目にもあきらかでした。
「……いいのかなあ?」チキは、まだおろおろしてました。
「いいんですかねえ? なんだか、大変な旅になりそうですが」タケオンは、不安そうです。
「なるほど! あーすれば、お金に困らなくなるんだね!」カヤタは、興奮気味にいいました。
「学ばんでいい! 守銭奴になってしまうぞ!」
「うっさいハゲ!」
 よろよろと、ランディアは立ち上がりました。
「……で、では、こちらも準備するから、君たちは外で待っていてくれ。チキ。お前だけ残ってくれ」
「え? は、はい」
 チキを残して、満足げなタルトを先頭に、みんな部屋から退出しました。
 ふたりきりになると、ランディアは鬼のような顔になります。
「チキ! お前は、この神殿に所属するアコライトだな!」
「ひっ!? そ、その通りですっ!」
「じゃあ、報酬はいらないな! お前の賃金は神殿が払う! 保険も、老後も、墓も、全部神殿に任せておけ!」
「え? え? ほ、報酬、なし?」
「お前には保証がある! だから安心しろ! いいな!」
「……はい」
 可哀そうなチキは、ランディアの迫力に怯えてしてしまい、狼耳を伏せて、頷いてしまいました。
「ふー。しかし、あのタルトとかいう娘……。今後も、強敵になる予感がするな」
 その予感は、当たるのでした。

 タケオンの合流は、我ながら無理矢理でした。
 タルトのがめつさは、ガチでした。初心者なのに、この食いつきはスゴイ。
 それにしても、長いオープニングフェイズになってしまいました。実際のプレイでは、さらっと流したんですけども。

【ミドルフェイズ】

 新参ギルド”花鳥風月”の5人は、ラインの街に出て旅支度を始めました。神殿でもらった3000Gの前金で、馬を買ったり装備を調えたりします。
 賑やかで活気のある、商店街です。武器や防具なども、露天に並んでいます。
 チキは、背中に長方形の箱を背負ってました。その中に、魔剣カーディアックが収まっています。細かな振動が伝わってきて、とても気分が落ち着きません。
「よしっ。だいたい、準備できたわね」タルトが、いいました。
「でも、どーなるんですかね、この旅って」タケオンは、まだ不安そうです。
「冒険には、困難がつきものだ! むしろ、強い敵と戦えるかも知れん。好都合だ!」ストーンコールドは、嬉しそう。
「3000Gって、すごい金額かと思ったら、あっという間になくなっちゃったねー」
 カヤタは、軽くなった財布をぷらぷらさせています。
「まあね。全然足りないわ。ていうか、なんでチキだけ、神殿から馬を支給されてるのよっ! ひいきだわ!」
「ご、ごめん、タルト。……でも私、……報酬、……なしだから」
「は?」
「あ。いいんだよ、タルト。私、納得してるから。だって、私はライン神殿のアコライトだし。ランディアさんの部下だし。責任あるし。運ないし……」
 遠い目で空を眺めるチキの狼耳が、ぺこっと伏せました。
「……あ・の・クソ神官長ーっ! いつかシめてやるわっ!」
「本気でやりそうだな。全世界指名手配とか、勘弁しろよ」
「うっさいハゲ! 死ね!」
 と、その時。痩せた男が、タケオンにぶつかりました。
 タケオンは、ピン! ときます。さっと腰に手をやると、財布が抜き取られていました。
「あらっ? 財布、スられてしまいました」
「な、なんですってぇーっ!?」クワッ! とタルトが目を剥きました。
「た、たいへんだー!」カヤタが、ばたばたします。
「どこのどいつだっ! あいつかっ!」ストーンコールドが、早足で逃げる男を、指さしました。
「え? お、追うの?」チキは、おろおろします。
「いや、ちゃんと中身はふたつに別けておきましたから、全財産を盗まれたわけじゃないので。……って、もう追いかけてるし!」
 カヤタを先頭に、みんな全力疾走してました。
 タケオンは、慌てて駆け出します。なんてお金に敏感なギルドなんだ。そう思いながら。

 裏路地の奥にある、怪しげな下水道に、たどり着きました。暗くてくさくて、じめじめしています。
 ラインは”遺跡の街”と呼ばれるだけあって、地下に多くの遺跡が沈んでいます。下水道にもその痕跡が見えます。
「ぬうっ! あのスリ野郎、消えたぞ! どこ行った!?」
「待って、ハゲ。どこかに、隠し通路があるはずよ」
「じゃあ、ボクが探します」
 タケオンが壁に張り付いて探査すると、隠し扉を発見しました。罠のたぐいは、なさそうです。
 きっと、ここに違いありません。
「僕が開けるよ! てやーっ!」
 ドカンと、カヤタがドアを蹴破しました。どどどっと、中へなだれ込みます。
「我々は花鳥風月! お金に困っている!」カヤタが、ババーン! と叫びました。
「ちょ!? な、なにそれ!?」チキが、困惑します。
「ギルドのキャッチフレーズ。どうかな?」
「どうかな、というか、どうかと思うぞ」
「無駄口はあとにして! さっさと確認しなさいよ!」タルトが、ストーンコールドを前に押し出しました。
 隠し扉の中は、明るい部屋になっていました。  壁には剣や盾が飾られ、さまざまな鎧が並べられています。
「……む?」ストーンコールドは、首を傾げます。
「なんじゃい、お前らはーっ!」
 奥から、怒鳴り声が轟きました。
「ねえ、ここって……」
 そこは――武器屋でした。どこからどう見ても、武器屋です。
 怒鳴り声の主は、店主のようです。がたいのいいヒゲもじゃの男が、汚れたエプロンをかけて、カウンターに立ってこちらを睨んでいました。
 冷静になって店主に話を訊くと、ここは珍しい武器や魔法具などを扱う隠れ武器屋だそうです。カヤタたちがなだれ込んでくる前には、誰も入ってきてないといいます。
「ったく、ふざけたやつらだ。なんか買ってけよ! 買うまでは、帰さんからな!」
 店主は、ぷりぷり怒っています。
「お金に困ってるのになー」カヤタは、口を尖らせます。
「諦めろ、カヤタ。商人は、横のつながりが強いからな。無茶はできん」
「うーん。ボクの財布も、諦めましょう」
「ごめんね、タケオン」
 しぶしぶ、チキたちは物色します。
 でも、チキたちに扱えるものが、ありません。しかも高価で、手が出ません。
「なにこの店! ぼったくりじゃないの?」
「ちょっと、タルト! しーっ!」
「聞こえてるぞっ! ……チっ。ビギナー冒険者かよ。初心者用のは、奥だ!」
 店主は、カウンターの奥の扉を親指でさしました。
 チキは、足を向けます。
「え。行くんですか?」と、タケオン。
「仕方ないでしょ? 迷惑かけたんだから」
 扉を開けて、みんなで奥の部屋へ移動します。薄暗く、かび臭い部屋でした。
 ばたん。
 背後でドアが閉められました。しかも、開きません。
 閉じ込められたのです。
「やっぱりなー!」
 タルトとタケオンが、声を揃えていいました。
「ええっ!? 予測済み? 先にいってってよぉーっ!」チキは、顔面蒼白です。
「だって、あきらかにあやしいじゃない」
「品物の中にも、いくつかまがい物がはいってましたし。もしかしたら、全部偽物かも」
「そ、そんな……」
「気にしない、気にしない。先に進もうー!」カヤタが、元気な声を出しました。
「……前向きだね、カヤタは。なんか、ありがとう」チキの目に、ほろりと涙。

 部屋の奥には、階段がありました。地下へ続いているようです。
 長い階段を下りきると、下水臭い通路が延びていました。どうやら、遺跡を利用した地下迷宮のようです。
 慎重に進みます。
 途中でタケオンが、隠し扉を発見しました。でも、とりあえず行けるとこまで直進することにしました。
 突き当たりにきました。扉があります。「宝物庫」と書かれています。
「さて。チキさん、どうしましょうか?」タケオンが、指示を仰ぎます。
「……あやしいね」
「とりあえず、行こう! 開けるよー!」
 ドカンと、カヤタがドアを蹴破しました。
「あああ……。い、いいのかな。じゃあ、入ってみよう」
 中は、広い部屋になっていました。生臭く、床には黒い染みが広がっています。壁にも、染みが点々と飛び散っていました。
 全員が入ると、背後でドアが閉められました。しかも、ガラガラガシャーン! と鉄格子まで落ちてきました。
「やっぱりなー!」
 タルトとタケオンが、声を揃えていいました。
「だから、先にいってよぉーっ!」チキが、涙目になりました。
「入っちまったもんは、しゃーない。それより、お客さんだぜ」
「お客さんは、こっちじゃない?」タルトは、杖を構えます。
 部屋の奥には、鉄格子がありました。その向こうから、グルルという、唸り声が聞こえてきます。
 ガッシャーン!
 奥の鉄格子が開くと、馬のように大きな黒い犬が出てきました。口元に、炎がくすぶっています。
 鉄格子は、再び閉まりました。
「ふん。ヘルハウンドよ。物騒なもの、飼ってるじゃない。おまけに、逃げ場がないわ」
「ここは、僕に任せてーっ!」
 飛び出したカヤタは、腰からカタナを抜きました。《スピリッツ・オブ・サムライ》です。昨日の冒険で成長した彼は、サムライの心を学んだのです。
「ぬお!? カヤタ、抜け駆けするんじゃなーいっ!」ストーンコールドも、飛び出します。
「まあ、敵じゃないわね」タルトが、水の槍を放ちました。
 ズパッ! ボゴッ! バッシャーン!
 実にあっさりと、ヘルハウンドは倒れました。
「やった! 僕たちの、勝ちだーっ!」カヤタが、カタナを掲げました。
「わあ。皆さん、お強いんですね」タケオンが、感心します。
「……出番なかった」チキは、寂しげな顔でつぶやきました。
 しばらくすると、ヘルハウンドが出てきた鉄格子が開きました。
 ガラガラガシャン!
 ぬっと、人影が現れます。
「……へ? お、お前ら、なんで生きてんだ?」
 武器屋のオッサンでした。
 彼は、チキたちを見て、目をぱちくりさせてます。
「我々は花鳥風月! お金に困っている!」カヤタが、ババーン! と、叫びました。
「自己紹介してる場合じゃないでしょ!? ハゲ、あいつを取り押さえなさい!」
「ふんがーっ! って、わしはお前の下僕かっ!?」
「命令に従え! ハゲ! 死ね!」
「わしは死なーん!」
「いい争ってる場合じゃないですよ!」
 タケオンのいう通りで、武器屋のおっさんは、脱兎のごとく逃げ出していました。
 カヤタを先頭に、一斉に追いかけます。
 鉄格子の先は、通路になっていました。進むと、両開きの扉が開けっ放しになっています。
 そこは、なにやら怪しげな雰囲気が漂う広間でした。椅子が並べられ、奥には祭壇があります。
 そして、両手に斧を持った巨大な女神像が、鎮座していました。
「げげっ! なによ、マハディルグの神殿じゃない!?」タルトが、顔をしかめます。
「なんじゃいそれは」
「バカハゲ! そんくらい知ってなさいよね! 欲望の女神マハディルグ。つまりここは、邪教の神殿よ! 街の地下に信者たちが潜んでいるって、噂では聞いてたけど、こんな規模だったのね」
「じ、じゃあ、あの武器屋も信者だったのかな?」
「そうよ、チキ。タケオンの財布をスったやつもね。どーりであのスリ、追跡しやすく逃げてたわけだわ」
「ははあ。罠だった、というわけですね。生け贄を、求めていたのでしょう」タケオンが、ぽんと手を叩きました。
「でも、逃がしちゃったよー」
 カヤタが指し示す方向には、開け放たれたままの扉が、ギィギィ音を立てて揺れていました。
「いいわ。こんな場所に、長居は無用よ。脱出しましょう」
「そうだねー。ちょっと物足りないけど」
「そんなことないわよ、カヤタ」
 タルトの目は、あやしく光っていました。

 扉を出て、出口を探していると、事務所のような部屋に出ました。
 教典や、帳簿や、信者のリストなどを発見します。タルトの指示で、タケオンがそれらを押収しました。
「ふーん。この街には、あんまし信者はいないみたいね。立派なのは、器だけみたい」書類を投げ捨てながら、タルトがいいました。
「……欲望の女神、か。ひとの弱いとこにつけ込むんだね」チキは、ぶるっと身体を震わせました。
 すると、奥の扉が開き、痩せた男が入ってきました。
 タケオンから財布をスった男です。
「……え? あ、あんたら……」
「我々は花鳥風月! お金に困っている!」カヤタが、飛びかかりました。
 今度は、しっかりと捕獲成功しました。
 スリを引きずって、ライン神殿まで連行します。
「フィリス! いる?」神殿に入るなり、タルトは叫びます。
「はれ? タルトさん、それにチキさん……。みなさん、まだラインにいたんですかあ?」受付にいたフィリスは、あんぐりと口を開けました。
「なんでもいいから、ランディアを出しなさい」
「はっ! 緊急事態が起こったのですね! わかりました!」
 フィリスは、ばたばたと駆け出しました。
「……ね、ねえ、タルト。ど、どうするの?」
 チキは、不安そうな顔です。背中の箱の中で、魔剣がカチカチ鳴っています。
「決まってるでしょ? ふっふーん」
 ほくそ笑むタルトの前に、神官長ランディアが現れました。ひくひくと、口元を引きつらせています。
「……なにをしているのだ、お前らは。ラインから、旅立ったのではなかったのか?」
「ふん。あんたらが、手をこまねいている治安維持に、協力してあげたわ。カヤタ。そいつを出して!」
「はーい!」カヤタは、スリをずるずると引きずり出しました。
「これもですかね」タケオンは、押収した書類を机の上に広げます。
「な、なんだこれは?」
「欲望の女神マハディルグの神殿を、私たちが発見したわ! こいつは、その信者。神官と思わしき人物は取り逃がしたけど、リストがあるから、特定できるでしょ?」
「な、なんだと?」
「邪教の神殿を探し当て、犯罪を行っていた信者を逮捕。証拠品も、押収したわ。お手柄じゃない? でしょ?」
「……なにがいいたい?」
 その時、タルトの目が、キュピーン! と輝きました。
「報酬に決まってるでしょぉ――っ!」
 ババァーン!
 タルトは、大声で、叫びました。
「また、それか――い! この、守銭奴がっ!」
「うっさいハゲ! 死ね!」
「あの、すいません。ほんと、すいません」チキは、ぺこぺこ頭を下げます。
「いやあ、すごいギルドですねえ」タケオンは、冷や汗を流します。
「我々は花鳥風月! お金に困っている!」カヤタが、叫びました。
「ええーい! 報酬は出すから、とっとと、この街から出ていってくれ――っ!」
 ランディアの声が、神殿中に響き渡りました。

 ここで、いったんプレイを区切りました。
 経験値は、15点+使用フェイト。だったと思います。
 レベルアップに足りる経験値なので、みなさん、レベル3になっていただきます。クラスチェンジしていたストーンコールドだけ、レベル2です。

 後編につづく。

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