Home > 第2回 妖魔の洞窟 後編

プレイ日:2009年5月5日

妖魔の洞窟 後編

「アリアンロッドRPG」セッション第2回目の後編です。
 ベースはあくまでも、「シナリオ集1 ファーストプレイ」の『妖魔の洞窟』です。

【ミドルフェイズの続き】

 欲望の女神マハディルグの神殿を暴いた日の、次の朝。
”花鳥風月”の一行は、”遺跡の街”ラインの門を出ました。心地よい青空の下、みなさん馬に乗っています。
「さ、気楽に行きましょう。なにごともなければ、なにも起こらないわ。ちょろい仕事よ」馬上のタルトは、気持ちよさそうに長い金髪を払いました。
「聖都ディアスロンドまで、30日くらいかかるんだっけ。世界って、広いんだねー」カヤタは、眩しそうに空を眺めます。
「30日か……。それって、なにもなければ、だよね。心配だなあ……」
 チキは狼耳を伏せて、嘆息しました。背負った箱が、とても重く感じます。
「元気を出さんかい、チキ! お前は、わしらのリーダーなのだぞ!」でかい声で、ストーンコールドはいいました。
「そうだよ。なんかあっても、僕が護るよ!」
「まあ、なるようになりますって。先は長いんですし、今から心配してたら身体がもちませんよ」小柄なタケオンは、小さな馬の上でにこにこしてました。
「ありがと、みんな。……うん。私がヘコんでちゃいけないよね」チキは、力のない笑みを浮かべます。
「チキ。死相出てるわよ」
「ええーっ!? やだやだ! どーしよう!」
「あはっ。冗談よ。チキって、からかうとおもしろーい」
「……あ、ありがとう」
「……そこは怒るとこだとわしは思うぞ」
 とかやってる間に、大樹が生えていた丘のそばに通りかかりました。あれほど大きかった大樹は、すっかり枯れ果てています。
 カヤタの肩に留まっている彼にしか見えない鳥が、チチッと鳴きました。
「どうしたの、トビー?」カヤタは、丘の上を見ます。
 さっと、小さな黒い影が、枯れ果てた大樹の向こうに消えるのが、見えたような気がしました。
「ぬ。なにかあったか、カヤタ」
「うん。なんか、こっち見てたやつがいたみたい」
「わしらをか? ふふん。そうか。きっと、追っかけだな。モテる男はつらいぜぇ」ストーンコールドは、つるつるの頭をつるっと撫でました。
「なにいってんの、バカハゲ。死ねばいいのに」タルトが、ぼそっといいました。
「なにをーっ! 貴様ーっ!」
「うっさいハゲ! 死ね!」
「ま、また始まりましたねえ」タケオンは、冷や汗を流します。
「……なんかもう、私の手に負えない」
「あはは。仲がいいよねー」
「いいわけあるか――っ!」タルトとストーンコールドは、同時に叫びました。

 なだらかに続く川沿いの街道を、4人は南に向かって進んでいます。
 なにごともなく、3日が経過しました。
 このまま街道を南下すると、”水の街”クラン=ベルにたどり着くことになります。
「”水の街”、か。綺麗なんだろうなー。ねえ、タルト。狙われてるかも知れないから、大きな街には寄らない方がいいんだよね?」残念そうな顔で、チキがいいました。
「無理よ。補給しなくちゃいけないわ。ベッドで眠りたいし、お風呂にも入りたい。それに、クラン=ベルで他に報酬のでかい話があれば、そんな魔剣捨てちゃえばいいわ」
「え」
「……さらっと酷いこといったな」ストーンコールドが、渋い顔をします。
「あれ? みんなー、馬車がいるよー」先頭にいたカヤタが、振り向きました。
 道の向こうで、大きな荷馬車が止まっているのが見えます。
 どうやら、車輪が深い轍にはまってしまったようです。
 荷馬車のそばには、商人風のでっぷりした男と、狼族の若者がいます。ふたりとも額に汗を浮かべ、近づくカヤタたちを期待のこもった目で見ていました。
「我々は花鳥風月! お金に困っている!」カヤタが、ババーン! と叫びました。
 商人風の男と狼族の若者は、びくっと跳び上がりました。
「ええっ? ご、ごごご強盗っ!?」
「ち、違います違います! あやしい者じゃありません!」チキが、フォローを入れます。
「自分であやしくないっていうひとって、あやしいわよね」
「ちょ、タルト!?」
「ええと。ボクたちは見ての通り、ただの冒険者です。害はありません」タケオンが、にこやかにいいました。
「困っているみたいだね。僕が押しますよー。力仕事は得意なんです」カヤタが、馬から下りました。
「旅は情けだ。わしも手を貸すぞ」
「ありがとうございます!」
 彼らは、見かけどおりの商人だったようです。ラインから、”水の街”クラン=ベルへ帰る途中だといいます。
 カヤタとストーンコールドが荷馬車を押して、轍からを助け出しました。
「よっし! これでもう大丈夫だね!」
「いやあ、申し訳ない。とても助かりました!」商人は、ぺこぺこと頭を下げます。
「ど、どうも……」狼族の青年は、なぜか目をそらします。
「あんたたち、クラン=ベルに行くんでしょ? あたしたちと同じだわ。せっかくだから、護衛してあげましょうか。この辺りって、物騒よ。ゴブリンとか――」
「あ。報酬とかはいりませんので」ささっと、チキが割って入ります。
「えっ!? チキぃ!?」
「そうだな。どうせ、同じ方向だしな。報酬を取ることでもあるまい」ストーンコールドは、頷きます。
「旅は道連れ、ともいいますしね」と、タケオン。
「うん。護衛するよー」
「……ったく、ひとがいいんだから」
 タルトは不満そうですが、商人の荷馬車と一緒に進むことになりました。

 翌日の早朝です。
 遠くに見える山脈から、朝陽が登ってきました。空が、明るくなってきます。
 くすぶるたき火の前で、野営当番のカヤタはうーんと伸びをしました。
「トビー。今日も、なにごともなければいいねー」
 そのトビーが、チチッと鳴きました。
「え?」
 振り向くと、人影がありました。荷馬車で寝ていたはずの、狼族の青年です。
 毛布にくるまっているチキに、手を伸ばします。彼女の隣には、長方形の箱があります。中に、魔剣カーディアックが収められた箱です。
 ガシャッ!
 狼族の青年は、箱を奪うと全力で走り出しました。
「な、なんで? どういうこと!? 待てーっ!」
 カヤタは、困惑しつつも追いかけます。しかし相手は狼族。足が速い。差が開くばかりで、追いつけません。
 丘の上に、うっすらと狼煙が見えました。彼は、そこへ向かっているようです。
 カヤタの叫び声で、チキは眠い目をこすりながら起き上がりました。
「……むにゃ。なぁに?」
「あっ! チキさん! 箱! 魔剣がありませんよ!」タケオンが、跳び起きます。
「え? そんなことないよ? ここにちゃんと……。あーっ! な、ないっ! 魔剣の箱が、ないーっ!」
「……うるさいわねぇ。なによーもー」
「タルトさん、たいへんです! 魔剣が奪われました。カヤタさんが追いかけてるみたいですよ!」
「タルト、起きて! 追いかけなくちゃ!」
「……あたし、朝は弱いのよね」
「それどころじゃないのーっ!」
「ボク、先に行きますね! うわっ!?」
 走り出そうとしたタケオンの前に、商人が立ちふさがりました。いきなり、土下座します。
「すんません! ほんと、すんません! 許してくださいーっ!」彼は、額を地面に押しつけて泣き叫びます。
 チキとタケオンは、顔を見合わせます。
「ちょっと。どういうこと?」不機嫌そうな声で、タルトがいいました。
 そんな騒ぎの中、ストーンコールドは鼾をかいて寝ていました。
 一方その頃、カヤタは丘の上に現れた影を相手に、カタナを抜いていました。
 相手は、複数のゴブリン。カヤタの方に、にじり寄ってきます。
「ゴブリンか。……ただ襲いにきた、ってわけじゃなさそうだね」
 狼族の青年は、丘のてっぺんまでたどり着いていました。彼の隣に、背の高い人影が現れます。朝陽が逆光になって、よく見えません。
 キラリと、朝陽に黒い刃が光りました。
 ザシュッ!
 青年は悲鳴をあげ、ばったりと倒れました。彼の持っていた箱は、背の高い人影の手に渡ります。
「ケケケケッ! 魔剣は手に入れたァ! キサマは、用なしだァ!」甲高い声。
「お、お前! なんてことするんだーっ!」
「ケッ! オロカな人間め。キサマにも、用はないッ!」そいつは背を向け、丘の向こうに行ってしまいました。
 代わりに、ゴブリンたちが襲いかかってきます。数は6体。まとまって、突撃してきます。
「弱いくせに、邪魔するなーっ! 《トルネードブラスト》っ!」
 バギャァッ!
 カヤタの振るうカタナの一撃は竜巻を起こし、ゴブリンたちをまとめて吹き飛ばしました。
 けれど、間に合わず。
「くそっ! 逃げられた!」
 丘の上に行くと、さっきのやつが、馬に乗って走り去るのが見えました。森の方へ、向かっています。
 足下には、狼族の青年が血まみれで倒れています。まだ、息はありそうです。
「よかった。チキ−っ! 早くきてーっ!」
 カヤタは、丘の下に向かって叫びました。

「これで、よしっと」
 チキが、重傷を負った狼族の若者を《ヒール》で治癒しました。
「すいません、すいません。怪我まで治していただいて、本当にすいません」商人は、さっきから平謝りです。
 丘の上に、みんな集まっています。
 空は、すっかり明るくなりました。
「で? どーいうことなのよ?」タルトは髪をときながら、不機嫌を隠そうとしません。
「それよりも、わしの口の中に土を詰め込んだのは誰だ」
「商人さん。私の持っていた箱、ずっと狙ってたんですか?」と、チキ。
「逃げたやつ、魔剣のこと知ってたよ」
「ええー! 知ってて取ったんですか。でも、どうして知ってたんですかねえ?」タケオンが、首を傾げます。
「……先ほどの、あいつです。名は、ゴルダウといっていました。あいつに、脅されたのです。仲間を人質に取られ、あなたたちから黒塗りの魔剣を奪えと、命令されました……」商人は、悔しそうに顔をしかめました。
「ふーん。で、大事そうにチキが抱えていた箱の中に、魔剣が入ってるって思ったのね」
「はい。……他に剣を持っているひともいなかったので」
「誰なんだ。泥を入れたのは」
「ゴルダウって、何者? カヤタ。見なかったの?」
「……逆光で、よく見えなかった。背は、僕と同じくらいだと思う。人間の言葉を喋ってた」
「じゃあ、ゴブリンじゃないわね。魔剣のことを知ってたってことは、こないだのエイスファスの仲間かしら」
「ラインを出たとき、誰かに見られてた。ゴルダウとかいうやつの、仲間だったのかも……」
「ふーん。見張られて、先回りされて、罠にはめられた、ってわけね。……ムカつくわ」ペッ! と、タルトはつばを吐きました。
「ああ、ムカつくな。お前だろ。わしの口に泥を詰め込んだのは」
「うっさいハゲ! いつまでも鼾かいて寝てるからでしょ? 死ね!」
「白状したな! この、極悪守銭奴がっ!」
「やめなよっ! 今は喧嘩してる場合じゃないだろっ!」
 カヤタの珍しい怒鳴り声に、タルトとストーンコールドは固まりました。
「……僕の責任だね。護るために野営してたのに、大切な魔剣を奪われちゃうなんて。見張られてるのも、気付いててよかった」
「そ、そんなことないですよ。不可抗力ですよ」
「カヤタ。油断してたのは、私だよ。だから――」
「行こう」
 カヤタは、丘を降ります。野営していた場所へ向かって。
「え? カ、カヤタ? どうするの?」
「馬で追うんだ! 商人さんの仲間も、助け出す!」
「ふん。そうね。魔剣なんてどうでもいいけど、やられっぱなしなのは、気にくわないわね」タルトが、続きます。
「馬で去ったのなら、跡が残ってると思いますよ」タケオンも、歩き出しました。
「よくわからんが、強いヤツがいるのなら、行かないわけにはいかんな」ストーンコールドは、かぽーんかぽーんと脇を鳴らしながら、ついていきます。
 商人と狼族の若者は、ぽかんとした顔で、カヤタたちの背中を眺めていました。
「ふ。商人さん。そういうわけです。捕らわれた仲間は、何人ですか?」
 チキは、にこっと優しく微笑みます。
「従業員が3人です! ……い、いいんですか? わたしらは、あんたたちを騙したのに……」
「悪い奴に脅されただけです。あなたたちは悪くない。……できるだけのことをしますから、希望は捨てずに!」
 そういい残して、チキも駆け出しました。
「じゃあ、行くよ! タケオン、蹄の跡、よろしくね!」馬にまたがったカヤタが、いいました。
「任せてください!」
”花鳥風月”の5人は、走り出しました。

 追跡は、難なく行えました。森の中でも、タケオンが蹄の跡を見誤ることはありません。
 蹄の跡は、崖肌にぽっかりと開いた洞窟に続いていました。そばには、木に結びつけられた馬がいます。
「ここだね」カヤタは、馬から飛び降ります。
「カヤタ、感情的にならないでね」チキが、いいました。
「わかってるよ。みんなのいうことに従うから」
「どこのどいつだか知らないけど、”花鳥風月”に喧嘩売ったこと、後悔させてあげましょう」タルトは、さっと金髪を払います。
「じゃあ、行きましょうか。ボクが前に立ちますね」
「うむ。任せたぞ、タケオン」
 タケオンを先頭に、暗い洞窟内へ足を踏み入れました。
 通路の角を曲がった先に、奥に小柄な人影を発見しました。ゴブリンです。
 タケオンが下がり、カヤタとストーンコールドが前に出ました。すると、奥から数本の矢が放たれました。なんとかかわしましたが、ゴブリンどもが走り込んできます。
「このーっ!」
 突っ込んできたゴブリンを、あっさり撃破します。しかし、矢は止みません。
「くそっ! 進めないじゃないかー!」
「ああっ! カヤタさん、足下にワイヤーがありますよ!」
 タケオンが、罠を発見しました。カヤタが足に引っかけてるワイヤーがトリガーとなり、矢が放たれていたのでした。
「カヤタ。こんな単純なトラップに引っかかるとは、まだ冷静ではないな」と、ストーンコールド。
「……そ、そかな?」
「非常にいいにくいんですが、ストーンコールドさんも引っかけてます」
「ぬわにいっ!? ぐはあっ!」
 ぶすっ。
 ストーンコールドの背中に、矢が刺さりました。
「治すよ、治すよ」チキがストーンコールドに《ヒール》をかけます。
「ふん。気に入らない洞窟だわ。みんな、気を緩めないで!」
「罠が多そうですねえ。ボクの責任、重大だ」タケオンは、気を引き締めました。
 Y字路の先で隠し扉を発見しましたが、後回しにしました。もう一方の道を進むと、扉がありました。
 タケオンが罠と鍵を外し、カヤタがドアを開けます。そこは、奥にある扉以外なにもない部屋でした。
 しかし、落とし穴だらけでした。
 いくつかはタケオンが発見し無力化しましたが、残っていた落とし穴にカヤタがずっぽりと落っこちてしまいます。
「……落とし穴、嫌いっ!」
「その怒り、あとに取っとけ」ストーンコールドが、カヤタを引っ張り上げました。
「治すよ、治すよ」チキがカヤタに《ヒール》をかけます。
「ふん。稚拙な罠ばかりだわ。きっとここのボスは、知能の低いやつね」
「……全部引っかかってごめんなさい」
「ゴルァ! タルト! カヤタがへこんじゃったじゃないかっ!」
「だってそうじゃない!」
「ここの罠は、仲を裂く効力もあるみたいですねえ」
「仲よく、仲よくね」チキが、いいました。
 T字路を左に曲がると、扉がありました。タケオンが聞き耳を立てたら、ゴブリンのものらしき話し声が聞こえます。
「どうします? 一応、鍵は外しましたけど。まだ、こっちには気付いてないようです」
「行く。我々は花鳥風月! お金に困っている!」ドカーン! とカヤタがドアを蹴破りました。
 大部屋には、ゴブリン数体とバグベアーが2体いました。一斉に、襲いかかってきます。
 でも、鬱憤の溜まったカヤタたちの敵ではありません。あっさりと、駆逐します。
 部屋を探査すると、タケオンがテーブルの下に隠し戸を発見しました。
「罠もないみたいですし、ボクが開けてみます」
「気をつけてね、タケオン」
 チキが心配そうにそういった、次の瞬間。
 ズドバガーン!
 隠し戸が、大爆発を起こしました。テーブルごと、タケオンはすっ飛びます。
「……やっぱり、引っかかりすぎよ」タルトは、嘆息しました。

 実は、後編開始早々、すんごい焦ってました。
 今回のシナリオ、みんなが馬に乗ってるのを想定してませんでした。長旅になるから馬は必須だってわかってたのに。
 なので、魔剣が奪われるあたりはアドリブでした。
 たぶん、プレイヤーには丸わかりだったと思います。かなりアセアセだったし。

 割愛しましたが、洞窟に入ってすぐに、「バルバロッサ」という粘土ボードゲームを挟みました。
 粘土でなにかを作り、他のプレイヤーに当ててもらう、というゲームです。
 1988年に、ボードゲーム大賞を受賞したほどの、おもしろゲームです。知名度ゼロですけど。”バルバロッサ”でググると、けっこー出てきます。
 ちなみに、1位がカヤタで、ビリはチキでした。
 この時は、毎回「バルバロッサ」をシナリオの中に混ぜようと思ってたんですけど、時間的に無理なので、以後出てこなくなりました。

 洞窟の構成は、だいたい、シナリオ通りです。
 タケオンが大爆発したとこはトラップなかったんですが、サイコロ4つ振って全部1というまさかの特大ファンブルだったので、サービスしちゃいました。

【クライマックスフェイズ】

 洞窟内を、あらかた探索しました。
 残るは、最深部に位置する扉。
「ゴルダウとかいうやつは、ここよ。嫌な気配を感じるわ」タルトが、吐き捨てるようにいいました。
「みんな、怪我はない? 治すよ、治すよ」
「大丈夫だ。MP取っといてくれ」
「罠と鍵は、外しました。いつでも行けます」と、タケオン。
「じゃあ、行くよー!」
 カヤタが、ドカーン! と扉を蹴破りました。
 そこは、奥行きの長い部屋でした。  いちばん向こうに偉そうな椅子があり、背の高いやつが脚を組んで座っていました。ニヤニヤと、笑みを浮かべています。
 彼の周りには、ゴブリンが数体いました。みな、手練れそうな顔つきをしています。
「ケケケケ。なにしにきたァ、人間ッ! わざわざ、殺されにきたのかァ!?」
「我々は花鳥風月! お金に困っている!」
 ババーン!
 カヤタの怒声が、響き渡ります。
「な、なにィ!? ……えっ?」
「カヤタ。ボスを困らせてるんじゃないわよ。えーと。あんたがゴルダウ? 何者なの?」タルトが、高飛車な態度でいいました。
「……さ、さぁなァ。ケッ! テメぇらに教えてやるギリはねェなァ。ケケッ!」
「頭の悪そうな口調ね。言葉を覚えたてのゴブリンみたい。頭の中身は野蛮で粗暴なまんま。無理に頑張って喋らなくていいわ。耳が腐りそうだし。いつもどおりに、下劣な言葉でウゴウゴいってれば?」
 ブチイッ! と、ゴルダウの眉間の血管が切れました。ガタガタ震えて、ガチガチと歯を鳴らしています。
「……お、女ァ! キ、キサマァ! 楽に死ねると思うなよォ!」
「あら。あたしのこと心配してくれるの? 優しいのね。クルミサイズの脳しか持たない下等生物のくせに」
 ブチブチブチイッ! と、ゴルダウの血管が切れまくりました。
「クソブチヤロウがァッ! オメぇら、ヤっちまえぇーッ! ウゴウゴガーッ!」
 ゴルダウは立ち上がり、黒い剣をつかむと、ずばっと空を斬って合図しました。部下のゴブリンが、散らばります。
「ふん。あいつ、ゴブリンだわ。なんらかの方法で、知能を得たのね。そしてあの黒い剣は、魔剣よ」
「私の魔剣!?」
「……いつの間にチキの所有物になったのよ」
「ねえ、行っちゃてもいい? まだ?」カヤタは、カタナを抜いて足踏みしてます。
「指示を待つまでもない。行くぞおーっ!」
「あ! ちょっと待ってください! 床に罠があります!」タケオンが、叫びました。
「なぬぅ!?」
 ゴルダウのいる場所の手前の床が、つるつるに磨かれていました。幅は6メートルくらいで、左右の壁まで続いています。
 磨かれた床の向こう、左右に分かれたゴブリンから、矢が放たれました。剣を構えたゴブリンは、威嚇するだけで近づいてはきません。
「また罠? 腹立つなー!」カヤタは、ギリッと歯ぎしりしました。
「構わん。滑らなければ、問題ないっ!」
 ストンコールドは地面を蹴り、ジャンプしました。6メートルを、跳び越そうというのです。
 ひゅー。すとん。ずべっ。どしゃ。グキッ!
「ぎゃあああーっ! 滑ったぁーっ! 首捻ったぁーっ!」
「……お約束なやつ。ハゲは放っておいて、早くなんとかして!」
 タルトは、《ウォータースピア》を撃ちます。弓を撃つゴブリンに命中しましたが、一撃では倒れません。
「僕も飛ぶっ! ごめんよ、ストーンコールド!」
 カヤタは、地面を蹴りました。ばったり倒れたストーンコールドを蹴って、向こう側へ着地しました。
「わ、わしを踏み台にしたぁ!?」
「ナイスカヤタ! 私も、行くよっ!」と、チキ。
「あ。チキはやめといたら……」
 タルトの制止は遅く、ヴァーナ狼族のチキは俊敏にジャンプしました。カヤタと同じく、ストーンコールドを蹴って――
 つるっ。
「きゃあっ!?」
「むおっ!? またかっ!」
 どっすーん!
 ストーンコールドのハゲ頭でつるりと滑ったチキは、もんどり打って倒れてしまいました。しかも今回は、ストーンコールドの尻の谷間に顔を埋める格好になってしまいました。
「ひぎぃ! くさいよー! 病気になっちゃったよー!」可哀そうなチキは、泣き叫びました。
「し、失礼なことをいうなぁーっ!」
「……不憫な子。ったく、なにやってんのよ」タルトは顔を覆いました。
 向こう側に渡ったカヤタは、ゴブリンに斬りかかります。タルトの《ウォータースピア》と、タケオンの《サモン・カトブレパス》の援護で、1体、また1体と、倒していきます。
「ゴルダウ! 剣は、返してもらうからねっ!」カヤタは、ゴルダウを睨みます。
「ケケッ! そう簡単に、渡すかよォ!」
「うおるぁあーっ!」
 ゴスン! と、ストーンコールドがゴブリンを殴り倒しました。
 彼は頑張って、滑る床を越えてきたのです。涙目のチキも、たどり着いています。
 部下をすべて失ったゴルダウは、3人に囲まれます。
「覚悟してね」チャキっと、カヤタはカタナを構え直します。
「魔剣、返してもらうから!」チキは涙を拭いて、メイスを構えます。
「うーん、美味い! これから死にゆく者の前で飲むポーションは、最高の味だ!」グビッグビッと、ストーンコールドは錬金術で作り出したHPポーションを飲みました。
「……あのハゲ、死ねばいいのに」タルトは、やる気をなくしました。
「まあまあ。あいつを倒せば、終わりですから」タケオンは、タルトを励まします。
 ゴルダウは黒い剣を構えたまま、一歩また一歩と下がります。
 ついに、壁際まで追い詰められました。
「グゥ……。こ、この剣はァ、渡さんぞォーッ! 魔剣セレブリックッ! オレ様に、この素晴らしィ知能を授けてくれたァ、大切なァ剣ッ! 絶対にィーッ! 渡さなァいーッ!」
 ガバッ! と黒い剣を振りかぶり、ゴルダウは突撃してきます。
 その瞬間、《ウォータースピア》と《サモン・カトブレパス》がゴルダウを貫きました。
 ふらつくゴルダウの懐に、カヤタが滑り込みます。
「容赦しないよ」
 ズバァッ!
「グゲエェェェ――ッ!」
 一刀両断。カヤタのカタナで、ゴルダウは即死しました。ガランと、黒い剣が床に落ちます。
 カヤタは、ふーっと息をつくと、カタナを腰に収めました。
「魔剣! 魔剣を回収しなくちゃ!」チキが、転がった黒い剣に手を出そうとします。
「チキ待って!」タルトが、止めます。
「え?」
「そこのハゲ。そっち行くから、あたしの為に橋になりなさい!」
「誰がなるかーっ! ゴブリンの死体をしいてやるから、待ってろ!」
 どっさどっさと、ストーンコールドが滑る床の上にゴブリンの死体を投げて、橋をつくりました。
「ふん。ありがと」
「……あんまり気持ちのいいものではありませんねえ」タケオンは、拝みながら渡ってきました。
 5人が、揃いました。
 タルトは、床に転がった黒い剣を無視して、偉そうな椅子の背後を探りました。パカッと、椅子の背を開きます。
「低脳のすることなんて、すぐわかるわ。めっけたわよ」
「なにを?」
「あなたの魔剣よ。うんしょっと」
 タルトが引っ張り出したのは、長方形の箱でした。
「わあ! 私の魔剣! ……え? じゃあ、ゴルダウが使ってた剣は?」
 箱を受け取ったチキは、箱の中の剣がブルブルと震えていることに気付きました。
 共鳴です。
「魔剣セレブリック! この低脳が、自分でいってたじゃない。聞き覚えあるでしょ? フォモールに奪われたもう1本の魔剣の名前よ。魔王エラザンデルの封印のひとつ。カーディアックが心臓だったら、セレブリックは知能を封じているのかもね」
「……ということは、魔剣が2本になってしまったというわけですねえ」タケオンが、半笑いでいいました。
「ほほう。旅の危険度も2倍になったということか」ストーンコールドは、ニヤリと笑います。
「え? え? どうするの? そっちも、持ってくの?」
「当たり前でしょ。でも、一緒にするのはまずいわね。タケオン。さっき大爆発した隠し戸の中にあった異次元バックに、入れておいてくれない?」
「傷をえぐりますねえ……。了解しました」
 タケオンは、魔剣に触らないように注意しながら、ささっと袋の中に入れました。
「ど、どうしよう。魔剣が増えるだなんて……。ランディアさん、なんていうかな?」
「ふふふ。報酬増やせるわね」
「がめついやつだ」
「うっさいハゲ! 死ね!」
「まだだよ、みんな。商人さんの仲間がいない。この洞窟の中にいなかった。どこだろ」
 カヤタは、まだ緊張を解いていませんでした。

 実際のプレイでも、なんともあさありしたボス戦でした。
 そりゃそうです。ゴルダウの強さは、レベル1〜2用のシナリオのまんまだったのです。雑魚エネミーのレベルも、そのまんまでした。
 調整ミスです。
 レベル3の5人パーティーにとっては、弱すぎる敵でした。
 ヘコー。

【エンディングフェイズ】

 カヤタたちは洞窟から外に出て、森の中を探すことにしました。
 すると、嫌なにおいが漂ってきました。まさかと思いつつ先に進むと、人間の死体が3つ転がってました。
「酷いっ!」チキは、顔を覆います。
「……くそっ! 間に合わなかったのか!」
「カヤタ。気落ちしないで。間に合うわけなかったのよ。だって、さらわれたその日のうちに殺されてるわ」
「そうみたいですね。もう、腐り始めてますよ」
「胸くそ悪いわ!」
「……ゴウダウって、エイスファスの仲間だったんだよね。まだ他にも、仲間がいる」
 カヤタは、ぎゅっと拳を握りしめました。
「当たり前でしょ。魔王エラザンデルを復活させようとしている組織があるわ」
「こんなの、もう嫌だよ……。そいつら、ぶっ潰したい!」
「いい気概ね。でも、情報がないわ。次に襲いかかってくるやつがいたら、拷問して訊き出してもいいわ」
 タルトは、さっと背を向けます。
「おい。どこ行くんだ?」
「帰るのよ。……チキ。つらいけど、商人に報告してあげて」
「うん。私の仕事だね。わかった。でも、ちょっと待ってて。このままにしておけない」
 チキは、地面に穴を掘り始めました。
 なにをしているのか察したカヤタが代わり、ストーンコールドも手伝います。タケオンは、丁度いい木を捜しに行きました。
 死体のためにお墓を作り終えると、チキは祈ります。
「……私たちのために、ごめんなさい」小声で、ささやきました。
「仇は取ったけど……。もうこんなこと、繰り返させないから」カヤタも、祈りを捧げます。
 ずーんと重くなりながら、チキたちは馬に乗り、商人たちが待っている丘へ向かいました。

【アフタープレイ】

 酷いエンディングでした。
 酷いのは、マスターです。なにしろ、すっかり人質のことを忘れてました。慌ててアドリブでつじつま合わせようとしたら、こーなりました。ひぎぃ。
 難易度も低かったですし、反省点がたくさん出たセッションでした。

 経験値は、25点+フェイト、だったと思います。全員、レベルアップできるくらいです。
 2回のセッションを終えて、”花鳥風月”のメンバーはレベル4になりました。
 ちょっとレベルアップのペースが早い気がしますが、世界を崩壊させるほどの壮絶を極める驚異と戦う一騎当千のスーパー冒険者がレベル8とかだと、森にいるただのトラがレベル12なので、まったく雰囲気が出ません。
 全10回のセッションが終了するまでには、ただのトラと同じくらい強くさせたいです。

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