Chapter 3:奇跡の勝利

2012年02月28日 20:33:14 | 【カテゴリー: ファイナルファンタジー・トレーディングカードゲーム
この記事の所要時間: 約 24分5秒

 これは、とあるカードゲーマーの家にある12個のデッキから生まれた物語である。
 もちろん、オールフィクションであり、脳内妄想であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありませんし、精神に異常をきたしてもいません。

FFTCG
Chapter 3:奇跡の勝利

 ファイナルファンタジー・トレーディングカードゲーム第4回ワールドプレミアム大会決勝第1戦、ダークネス・鈴木対禿野道房の1回戦目が終わった。
 結果は、1対8でダークネス・鈴木の圧勝だった。道房はほとんどいいところがなく敗れた。
 蟹座スリーブに包まれたデッキに、すまない、と道房は胸の中で謝る。
 ファイナルファンタジーVIIIのファンデッキ。たかがファンデッキで世界大会に挑むなんて、といわれれば返す言葉もないが、このデッキでずっと戦ってきた。好きなのだ。好きだからこそ、続けてきてこられた。そもそもベースがファイナルファンタジーなのだから、すべてのデッキはファンデッキであって当然なのだ。
 しかし1回戦目では、主力となるはずのスコールがフィールドに出てこなかった。出せなかった。
 デッキに宿る魂が、道房の声に答えてくれない。勝つ気力が足りないのか。覇気が満ちてないのか。こんなもんじゃないはずだ、このデッキは。
 対するダークネス・鈴木のデッキは、6コストのエクスデスを中心としたイミテーションデッキだった。引きもよく、序盤から圧倒されっ放しだった。
 だが、完全に勝敗が決まったわけではない。
 勝負は、2回戦で行われる。次の戦いで勝利すれば、五分。1勝1敗に持っていける。
 不運は1戦目で使い切った。
 残るは幸運のみ!
 道房は、自分とデッキを信じることにした。

『デッキクリエイト!』
 天の声が叫ぶ。
 今回の特別ルールの中で最も異質なルールがこれだ。
 2戦目は、カードをシャッフルしないまま行う。その特別ルールは、こうなっている。

   (2)2戦目開始時は、デッキのシャッフルを行わない。
    (2-1)以下の手順で2戦目のデッキを構築する。
     (2-1-1)残ったデッキをAとする。シャッフルしたり、カードを確認してはいけない。
     (2-1-2)ダメージゾーンのカードをBとする。シャッフルしたり、カードを確認してはいけない。
     (2-1-3)ブレイクゾーンのカードをCとする。シャッフルしたり、カードを確認してはいけない。
     (2-1-4)フィールドに置かれたフォワードのカードをDとする。
     (2-1-5)フィールドに置かれたバックアップのカードをEとする。
     (2-1-6)手札をFとする。
     (2-1-7)D、E、Fを任意の順番でまとめ、Gとする。
     (2-1-8)除外エリアのカードをHとする。シャッフルしたり、カードを確認してはいけない。
     (2-1-9)A、B、C、G、Hの順番でカードを詰み、デッキを作る。
    (2-2)構築の際、故意ではなくともシャッフルしてしまった場合は即失格とする。
    (2-3)対戦が始まってからは、アビリティなどでデッキをシャッフルする機会があればしてもよい。

 非情にめんどくさいルールだが、ハイテクなデュエルテーブルがカードを回収し、勝手に処理してくれる。手作業でなんかやってられるかこんなもん。ほんとにめんどくさい。
 こちらがやらなくちゃいけないのは、Gの部分。どうやら積み込みが可能らしい。最後の最後にワンチャンスを仕込めるのだ。
 だけど、道房は肩を落とした。
 なんもない。
 積めるのは、バックアップばっか。コスモス2枚入ってる。マリアも2枚入ってる。
 まあいい。デッキが尽きる前に勝負を決めればいいのだ。
 逆に相手は、1戦目で主力となるカードをフィールドに展開させていた。手札にも奥の手が眠っていそうだった。それがそのままデッキの下に埋もれる。
 勝負は意外とあっさり決着がつくのではないだろうか。そう考えると、自分のためにあるようなルールであるような気がしてくる。
 道房は、ちょっと泣きたくなった。
『ポジショーン・チェーンジ!』
 どうやら相手と位置を交換するようだ。意味あるのかこれ。股間のポジション直したくなるわ。
 道房は、ダークネス・鈴木とすれ違う。
 その時、道房は気付いた。
 思わず、目を見開く。
「まっ! まさか!」
「……ケケッ。やっと気付いたようだなァ!」
 ダークネス・鈴木が、ババッとフードを取る。
 そのサングラス! レイヴァン! じゃなくてレイベン!
 その腕時計! ローレックス! じゃなくてローラックス!
 そのスニーカー! ナイキ! じゃなくてネイキ!
 その指輪! クロムハーツ! じゃなくてクロスハート!
「そして財布は、ルイヴィトンじゃなくてルイスバトンだぜェ! 全身イミテーションだァ! ケーッケッケッケ!」
「へえ」
 どーでもいい。
 無視してプレイ位置に着いた。ダークネス・鈴木も、そそくさとフードをかぶり直した。


『ディール! オープン! デュエル、スタート! ターン1! ミチフサ・ハゲーノ! ドロー!』
 1回戦目で負けた道房が、先攻になる。
 最初の5枚はまずまず。最初のドローにも不満はない。
 これなら行ける! 今度はこっちが最初から飛ばすぜ!
「スコール切ってかりそめの獅子! マリア切ってリノア! リノアのアビリティで、スコールを回収! で、ターンエンドだ!」
 いきなりやってやった。
 カード1枚のコストで、フォワードとバックアップを出してやった。
 ガラステーブルの上に、スコールのイミテーションであるかりそめの獅子と、リノアの立体映像が浮かぶ。リノア可愛いよリノア。惚れそうだ。いやもう惚れてる。メロメロ。たまんない。尻撫でたい。
「ケケッ。相変わらずしょぼいぜェ。マリア捨てちまって大丈夫かァ? やる気あんのかァ?」
 そういって、ダークネス・鈴木はバックアップに魔界幻士(2-090C)を出し、フォワードにうたかたの召喚士を出した。
「そっちだってしょぼ……。なっ!? うたかたの召喚士? ま、まさかそれは!?」
「ケケケケッ。気付いたかァ?」嬉しそうな声でダークネス・鈴木はいう。「悪く思うなよォ。うたかたの召喚士のフィールドアビリティ発動ォ! デッキからコスト4以下の水属性の召喚獣を探すぜェ! キュクレインでいいかァ。こいつを公開して、デッキをシャッフルするッ!」
 デッキをシャッフルだと! 馬鹿な!
 おいおいおい、どういうことだよ。ルールのコンセプトいきなり崩壊かよ。1ターン目からシャッフルしちゃったよ。仕切り直しだよ。デッキの最後に積まれてたはずのいいカードが蘇っちゃったよ。どーすんだよこれ。
 そういえば、オープニングイベントでこいつらコスプレ組はピンマイクをつけていた。このルールのことも知っていた。てことは、こいつら、しっかり対策練ってきてやがったのか!
「おっさん、そんな恐い顔すんなよォ。さ、ワンカットお願いするぜェ」
「……わかった」
 道房は暗黒スリーブに入ったデッキを受け取ると、呪われろ呪われろとつぶやきながら、中央よりかなり下の方でワンカットした。呪われろ。
「ほれ」
「サンキュウ。ケケッ。キュクレインを一番上に置いて、デッキをセットするぜぇ。ターンエンドだァ」
 道房のターン。
 キュクレインか。リヴァイアサンだったら躊躇するところだが、キュクレインならほとんど無害だ。恐くない。まあ、今ならリヴァイアサンだったとしても恐くないけど。
 道房はかりそめの獅子でアタックし、ダークネス・鈴木に1ダメージを与えた。ダメージゾーンには、キュクレイン。EXバーストの効果を処理し、ダークネス・鈴木はカードを1枚引いた。
「まだ終わりじゃねーぜ。カードを2枚切って、リノアを倒して5コス! スコールを出す!」
 1回戦目では出せなかった、このデッキの主人公。フォワードゾーンに、革ジャンを着たスコール(2-023R)が登場した。
 かっちょええ。道房は感動する。後ろに立つリノアもきゅんきゅんしてるに違いない。
「ケッ。そのデッキ、クソカードしか入ってねェのかよ」
「なにっ!?」道房は、ダークネス・鈴木の言葉に憤る。「だったら、倒してみろ!」
「いわれねーでもそうするぜェ。ケケケッ。ターンエンドかァ?」
 道房がターンエンドを宣言すると、ダークネス・鈴木の前にカードが2枚配られる。
「アルマを切って魔界幻士、砲撃士を切って砲撃士を出すぜェ。フォワードの追加はナシだァ」
「……ナメてんのか?」
「さあなァ。ま、無理するこたァねェ。ターンエンドだァ」
「余裕ぶっこきやがって! オレのターン!」道房はカードを引く。「うっし! まずはスコールでアタックだ! 対戦相手のバックアップはすべてダルになる! 魔界幻士なんか恐くねーぞ!」
「吠えるなよォ、おっさん。じゃあ、うたかたの召喚士でブロックするぜぇ」
「うたかたの召喚士をブレイク! 続いてかりそめの獅子でアタックするぜ!」
「ケケッ。うるせェおっさんだなァ。ダメージ喰らうぜェ。……うッ!」
 ここで初めて、ダークネス・鈴木の顔色が曇る。
 ダメージゾーンに、スペシャルレアのエクスデス(3-103S)が出たのだ。
「うおっ! やっぱ入れてやがったか! ははっ。残念だったな!」
「……まぁいい。ターンエンドかァ?」
「いや、バックアップにジル・ナバートを出すぜ! うほっ! いい女! じゃない。これでターンエンドだ!」
 ダークネス・鈴木のターン。カードを2枚引くも、使ったのは召喚獣のファムリートのみだった。道房は、かりそめの獅子をブレイクゾーンへ置く。そのまま、ダークネス・鈴木はターンエンドを宣言した。
 流れが変わった。道房はそう確信した。おそらく、ダークネス・鈴木の手札は悪い。引きも悪い。
 この勝負、勝てるぞ!
「オレのターンだな! スコールでアタックだ! おおっ!?」
 道房のダメージが通り、ダークネス・鈴木のダメージゾーンにめくれたのは、またしてもスペシャルレアのエクスデス(3-103S)だった。
 奥の手のカードが、ダメージゾーンに2枚。
 決まった。
 この流れで負けることはありえない。このままスコールで押し切るぜ! 道房の鼻息は荒くなる。
 だが、刻の運は気まぐれだった。
 ダークネス・鈴木のターン。彼はフードを勢いよく外し、手札のカードをフォワードゾーンへ叩きつけた。
「そこまでだァ、おっさんよォ! こいつこそが、オレ様の本領ォ! イミテーションではない本物の力ァ、とくと思い知れェ! エクスデスッ! 暗黒の力に恐怖しろォ!」
 ドォン!
 道房は絶句した。相手のフォワードゾーンに現れたのは、なんだかよくわからないものだった。つまりモザイクだった。大人の問題で表示してはイケナイものだった。
 気まずい空気が流れる。
 カッコつけたダークネス・鈴木は、絶句しただけじゃなくて顔まで赤くなった。
「……タ、ターンエンドだァ」
「……う、うむ。わかった」
 視線を外しつつ、道房は眉間にしわを寄せる。
 モザイクだけど、あれは間違いなくスペシャルレアのエクスデス(3-103S)だ。残りの1枚がまさか手札にくるとは。これはまずいぞ。まだ6コスのエクスデスが残ってる。スペシャルアビリティを撃たれたら、非情にまずい。今の内に、稼げるだけ稼いでおこう。チャンスはある。
 でもこんな時に限って、手札にフォワードがない。
 1回戦目といい、どーなってんだこのデッキ。
「うっし! スコールでアタックするぜ!」
「通すぜェ! ダメージは、かりそめの魔女だァ!」
「それで4点目だな。よし。バックアップを出してターンエンドだ!」
「オレ様のターン! エクスデスでアタックだァ!」道房はダメージを受ける。「ターンエンドだァ!」
「……へ? いいのか? フォワード追加しなくて」
「いらねェよ。おっさんのターンだァ。好きにしやがれェ」
 そうか。苦肉の策でエクスデスを出したものの、まだ手札は事故ったままなのか。
 それに比べ、こちらはフォワードを引いた。行ける!
「こっちはダメージ1。そっちはダメージ4。ここは攻めるしかない! スコールでアタックだァ! バックアップを倒せ!」
「ケケケッ! 気が早ェんだよォ」ダークネス・鈴木が嬉しそうに笑う。「2コスでフェアリー召喚! スコールのアビリティにスタックするぜェ。そっちに割り込みがなけりゃあ、エクスデスをアクティブにし、デッキから1枚カードを引くぜェ!」
「な、なにっ!? ……な、なにもない!」
「それじゃあフェアリーの効果を処理するぜェ!」
「おう! エクスデスがアクティブになったな。で、ブロックするのか? スコールがアタックすればバックアップ3枚が倒れるから、パワー9000で先制だぞ!」
「だから、待てよォ。ケケケケケッ。フェアリーの効果を処理した後、そちらになにもなければ、ここでまたアビリティをスタックするぜェ!」
「な、なんだとぉ!? ……な、なにもない!」
 ひびのはいったサングラスが、怪しく輝く。
「7コスッ! プラス、エクスデスッ! 発動ォッ! グランドクロスーッ! 宇宙の彼方へ吹っ飛びやがれェーッ!」ダークネス・鈴木が叫ぶ。
「う、うっそぉーん!?」
 グオオオォーン!
 相手のフォワードゾーンに立つモザイクから暗黒のオーラが広がると宇宙になり、複数の惑星が十字型に並ぶ。
 最悪最強のアビリティの発動だ。
 エクスデス以外のすべてのキャラクターと、ブレイクゾーンにあるすべてのカードを、ゲームから除外する。
 道房の前に並んだキャラクターたちが、暗黒に飲み込まれて消える。ブレイクゾーンには、1枚のカードも残らない。
 ダークネス・鈴木のキャラクターも消えるが、ただひとり、宇宙の支配者たる魔導師のみが、その場に居続けていた。モザイクだけど。
「ケケケケッ。アタックは不成立だなァ。さァ、どォぞ。アンタの第2メインターンだぜェ」
「……くっ。手札2枚切って、かりそめの銃士を出してターンエンドだ!」
「オレ様のターン! シーモアを出してかりそめの銃士をブレイク! エクスデスでアタックするぜェ!」
「うぐぅ!」
 道房のダメージゾーンに出たのは、ピン差しのハーデス。ここぞのときに役に立つ召喚獣が、失われた。
「オ、オレのターンだな。……ここは我慢だ。リノアを出して、スコールを回収する! ターンエンドだ!」
「ケケッ。けなげだねェ。エクスデスでアタックッ! 3点目だァ!」
「これくらいじゃ、へこたれねーよ!」道房のターン。手元のスコールではなく、もうひとりの主人公を出す。「ラグナだ! こいつから、再び攻勢に出るぜ!」
 スペシャルレアにはスペシャルレアだ。ラグナ(2-031S)だったら、戦える。道房はそう信じた。
「ケッ。貧弱なカードばっか出しやがってェ。オレ様のターン! バックアップを1枚出すぜェ。ターンエンドだァ!」
「ラグナにびびってんじゃねーか!」とはいえ、こちらからも迂闊には攻められない。「バックアップを1枚出して、ターンエンド!」
 ダークネス・鈴木のターン。「……ターンエンドだァ!」
 道房のターン。「5コスのスコールを出してターンエンド!」
 ダークネス・鈴木のターン。「バックアップを1枚出してェ、ターンエンドォ!」
 この数ターンの攻防で、いったんクリアされた戦場が徐々に埋まってゆく。だが、ダークネス・鈴木の手の方が遅い。
 道房はドローされた2枚のカードを見て、瞳を輝かす。
「ここにきて、やっと役者が揃ってきたぜ! ゼルを出してターンエンド!」
 次のターンから、ラッシュだ。ラグナ(2-031S)、スコール(2-023R)、ゼル。この布陣なら、相手に突っ込める!
「……待ちなァ」
「なんだ? 降参するのか?」
「ケッ。ふっざけんなァ。エンド前にアビリティ使う、っていってんだよォ。なんのためにハンドを溜めてたと思ってやがんだァ。ケケケケケ。頃合いだぜェ!」
「……な、に!?」
 道房の目の前が暗くなる。
 文字通り、真っ暗闇だ。
 エクスデス(3-103S)のグランドクロス、まさかの2発目!
 せっかく並べたフォワードが、宇宙へ飲まれてゆく。
「……くっ」
 しかし道房の目は死んではいない。まだ信じている。流れが自分の方へ傾いていると。
 戦いは続く。
 数ターンが経過した。
 道房はラグナ(2-031S)を出し、スコール(PR-016)で相手の手札を2枚捨てさせるという行為を成功させた。かりそめの銃士、ゼルと、フォワードを充実させてゆく。
 だが、エクスデス(3-103S)のグランドクロス。
 ありえない3発目が、道房を襲った。
 3度目もリセットされるという泥仕合。
 エクスデス(3-103S)ひとりにいいようにやられ、ついにダメージを逆転される。
 道房、6ダメージ。ダークネス・鈴木、4ダメージ。
「どーなってんだそのエクスデス。グランドクロス使いすぎだろ……」道房は口元を引きつらせる。
「ケッ。使わせてんのはアンタだろォがぁ」ダークネス・鈴木も歯を鳴らす。
 グランドクロスは、エクスデス以外のキャラクターを除外にする。フォワードやバックアップを失うのは、ダークネス・鈴木も同じなのだ。
 とはいえ、道房は劣勢だった。
 再びターンが経過するが、道房の前に立つフォワードはラグナ(2-031S)のみだった。
 その向こうには、エクスデス(3-103S)と、たまゆらの雷光が2体。余裕の笑みで立ちふさがる。
 この圧倒的不利な状況においても、道房は勝利を疑わない。信じるだけの根拠がある。
 いちどは諦めかけていたが、数ターン前に引いたコスモスが気付かせてくれたのだ。
 ノーシャッフルデスマッチのルールにより、1戦目で使ったカードはデッキの下の方にある。コスモスは、底に埋もれていたカードだ。
 つまり、終わりが近づいている。
 道房の残り時間は、1分。ダークネス・鈴木は3分。しかし、時間を使い切る前に勝負は決まるだろう。
 やらなくちゃいけないことは、攻めることじゃない。守ることだ!
「ターンエンドだ!」
「……おっさん。アンタ、ずいぶんコスい真似するじゃァねェか」
 ダークネス・鈴木が、諦めたかのように息を吐く。
「気づいてたか。つか、ひと聞きの悪いこというんじゃねーよ。戦略だよ戦略。狙ってたの」
「嘘つけェ!」
 ダークネス・鈴木は、ドローされたカードを2枚取る。
 その瞬間、彼のデッキゾーンに赤いランプがついた。
 デッキ切れだ。
 デッキからカードが引けなくなった時点で負けが決まる。つまりこのターンさえしのげば、ダメージに関わらず。道房の勝ちとなるのだ。
「さあ、くるならこいよ。アタックか?」
「……ああ。アタックしてやるよォ。だがその前にィ」ニヤリと、ダークネス・鈴木が笑う。そのサングラスの奥の目も、まだ諦めていない目だ。「吠え面かきやがれェ! こいつを喰らいなーッ! アシストォーッ! 対象は、ラグナだァ!」
 ダークネス・鈴木、渾身の一手!
 青魔道士(3-085C)だ!
 コスト5以上のフォワードを手札に戻すアビリティが、発動しようとする!
 ラグナを失えば、ブロックできるフォワードはいなくなる。2ダメージを受け、負ける!
 しかし道房は、冷静だった。
「ふん。懲りないやつだな……。通用しねーって。温存してるに決まってんだろ? シルドラッ! 対象は、もちろんラグナっ!」
「なあッ!? ……ば、ばか……なァ!」
 1回戦目と同じく、青魔道士(3-085C)のアビリティが不発に終わる。
「くッ! エクスデスでアタックだァ!」
「ダメージを受ける! これで7ダメージ! 通常ルールならこれで負けだが、1点足りないぜ!」
「ならば、まゆらの雷光2体でパーティアタックだ!」
「それはラグナで受ける! ラグナはブレイクするが、かまわん!」
 ダークネス・鈴木が、がっくりと膝を落とした。
「……タ、ターンエンドォ」
「うっし! カードを2枚引いて……。ターンエンドだ!」
 その瞬間、道房の勝ちが決まった。
 フォワード0体、ダメージ劣勢での勝利だ。ちなみに手札は、シルドラが1枚、他はすべてバックアップだった。
 道房のデッキゾーンも、赤く光っている。タイマーを見れば、20秒を切っていた。
 なんというギリギリの勝利。でも、勝ちは勝ちだ。
『判定に入ります!』
 天から降ってきた声に、道房ははっとする。
 判定? あれ? 1勝1敗だよな。引き分けだよな。この場合、判定になるんだっけ? 判定って?
『5-12、7-11、5-13。0ー3で、ダークネス・鈴木の勝利!』
「え」
 対戦テーブルの向こうを見ると、ダークネス・鈴木は客席に向かって腕を振り上げていた。
 サングラスを取り、三白眼の目で道房を見る。
「なァ、おっさん。スペシャルアビリティとEXバースト。戦いながらポイント稼ぐのも戦略だぜェ」
「ま、まじで? え? オレ負け? こんなに頑張ったのに? 本当に負け? 初戦敗退? ここで終わり?」
「お疲れさァん。アンタの分まで頑張ってやんぜェ」
 だいぶ年下の男に、ぽんぽんと肩を叩かれた。
 まじか。
 オレ、主人公じゃなかったっけ? どーすんの?
 道房は、久しぶりに泣きたくなった。


デッキレシピ

■FF8デッキ/蟹座スリーブ

フォワード 23枚
 【氷】ラグナ[スペシャル 5CP]3枚
 【氷】ラグナ[コモン 3CP]3枚
 【氷】スコール[レア 5CP]3枚
 【氷】スコール[プロモ 4CP]3枚
 【氷】かりそめの銃士[コモン 4CP]3枚
 【氷】かりそめの獅子[コモン 2CP]2枚
 【火】ゼル[コモン 3CP]3枚
 【火】ウォード[コモン 3CP]3枚

バックアップ 18枚
 【氷】魔界幻士[コモン 3CP]1枚
 【氷】ジル・ナバート[コモン 2CP]2枚
 【氷】ドクター・シド[コモン 2CP]2枚
 【氷】時魔道師(男)[コモン 2CP]2枚
 【風】マリア[レア 4CP]3枚
 【風】リノア[アンコモン 2CP]3枚
 【火】アーヴァイン[アンコモン 3CP]3枚
 【光】コスモス[エントリー 2CP]2枚

召喚獣 9枚
 【氷】ハーデス[アンコモン 5CP]1枚
 【氷】ムンバ[アンコモン 3CP]2枚
 【風】シルドラ[レア 2CP]3枚
 【火】イフリート[アンコモン 2CP]3枚


■イミテーション(エクスデス)デッキ/暗黒スリーブ

フォワード21枚
 【雷】エクスデス[レア 6CP]3枚
 【雷】たまゆらの雷光[コモン 4CP]3枚
 【雷】見せかけの豪傑[コモン 3CP]3枚
 【水】かりそめの魔女[コモン 3CP]3枚
 【水】うたかたの夢想[コモン 2CP]3枚
 【水】うたかたの召喚士[コモン 2CP]3枚
 【闇】エクスデス[スペシャル 5CP]3枚

バックアップ 19枚
 【雷】シーモア[レア 4CP]2枚
 【雷】賢者 コモン[4CP]2枚
 【雷】フースーヤ[アンコモン 3CP]2枚
 【雷】赤魔道師[コモン 2CP]2枚
 【雷】砲撃士[コモン 2CP]3枚
 【水】アルマ[コモン 3CP]2枚
 【水】魔界幻士[コモン 2CP]3枚
 【水】青魔道師[コモン 2CP]3枚

召喚獣 10枚
 【雷】審判の霊樹エクスデス[アンコモン 5CP]1枚
 【雷】憤怒の霊帝アドラメレク[コモン 3CP]2枚
 【水】リバイアサン[アンコモン 4CP]1枚
 【水】不浄王キュクレイン[コモン 4CP]2枚
 【水】暗黒の雲ファムフリート[アンコモン 3CP]2枚
 【水】フェアリー[コモン 2CP]2枚

FFTCG

 敗者にかける言葉などないということなのか、小走りで退場する道房は存在感をまったくなくし、観客からほとんど無視されていた。
 それに比べ、ダークネス・鈴木はまだ決闘場でスポットライトを浴びており、鼻高々で勝利者インタビューを受けている。
 光と闇。寂しいもんだ。
 警備員が守るゲートをくぐると、静かな廊下に出た。
 自分の足音が、壁に響く。
 道房は、嘆息をついた。
 いやあ、しょっぱい戦いだった。
 本音だった。負け惜しみじゃない。
 まず自分のデッキが酷い。スコール(1-038S)抜いて代わりにスコール(PR-016)選ぶとか、正気の沙汰じゃなかった。いくらファイナルファンタジーVIIIで固めたファンデッキとはいえ、もーちょいなんとかなったハズだ。
 そもそも、ファイナルファンタジーVIIIのカードが足りない。
 シド学園長 [光]3 バックアップ [S][無][無][無][ダル]:あなたの手札からSEEDのキャラクターを1枚フィールドへ出す。[無][無][無][無][ダル]:あなたのコントロールするSEEDのキャラクターを1枚選び、フィールドから手札に戻す。
 エルオーネ  [氷]4 バックアップ [S][氷][氷][氷][氷][ダル]:あなたのコントロールするラグナを1枚選んで手札に戻し、手札のスコールを1枚フィールドに出す。または、あなたのコントロールするスコールを1枚選んで手札に戻し、手札のラグナを1枚フィールドに出す。このアビリティはあなたのターンにしか使えない。
 これくらいは欲しい。あと、アンジェロはいいとしても、アデルとか風神雷神が欲しい。
 相手のデッキだって相当酷い。
 なにイミテーションデッキって。SRエクスデス割られたら終わりじゃん。そもそも今時のChapter 4環境ではありえないカードチョイスだろう。アルマとか入れてなかったか?
 プレイ内容は、まあ、あの引きじゃあ、あんなもんじゃないだろうか。巧くできたとも思わないし、失敗したとも思わない。
 ていうか、ルールが酷いと思う。2戦目はいろいろキツかった。ノーシャッフルデスマッチは、絶対に流行らないだろう。なんだよあれ。カードゲームで判定ってなんだよ。
 疲れた。
 とりあえず控え室に戻って、モニタで残りの戦いを観戦しよう。ダークネス・鈴木は、たぶん次で負けるな。
 道房は壁に貼られた指示に従い、誰もいない廊下の角を曲がる。
 その刹那。
「ひんっ!?」
 道房の口から、息が詰るような悲鳴が出た。
 それは笑顔。
 廊下に立ちふさがるのは笑顔。
 道房を待っていたのは、間違いなく笑顔だった。少なくとも、見た目は。
「……も、藻衣? な、なななななにしてんの?」
 笑顔の姪に、道房は後ずさる。
 なんでここに藻衣が? 客席で観戦してたんじゃないのか? このピンと張り詰めた緊張感、なに? 横にうずくまってる重そうなもの、なに? どういうことなの?
 ずっ、ずっ。女子高生は笑顔のまま、重いものを引きずりながら近づいてくる。
 むしっ。ぎちちちち。ずばっ。
 べしっ。
 藻衣は、重いものからはぎとった布きれを、道房の前に叩きつけた。
「ふふっ。道房くん。負けちゃったね」天使のよう笑顔。可愛らしい声。それなのに、なんでこんなに凍えるんだ。「せっかく決勝戦にきたのに、あたしが応援してあげてるのに、あたしが予選で勝ちを譲ってあげたのに、あっさり負けちゃうなんて、道房くんかわいそう」
「ご、ごめんなさい……」
「あたしね、いいこと考えたんだー。……とっとと着替えな」
 台詞の中盤から、だいぶオクターブが下がった。
「え? ど、どういうこ
「こいつに化けて第2戦に出場しろ、つってんだよ。デッキはほら、単純なもんだ。時間ねーぜ。係員が探してる。安心しろ、血の色は目立たねーから」
 恐い。反抗できない。藻衣が片腕で軽々と放り投げた重いものが、彼女の夜叉っぷりを物語っている。
 ぐしゃ。
 ……生きてるよね、このひと。
「つぎ負けたら、わかってるよね、道房くんっ! ……キ○○マ握りつぶすぞ」
 やる。この子は間違いなくやる。できる子なのだ。なにしろ、姉がそうだった。
 道房は、観念した。
 この勝負、絶対に負けられないぜ! 別の意味で!


Chapter 4:荒ぶる竜の咆吼 へつづく。

 

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