この記事の所要時間: 約 24分22秒
これは、とあるカードゲーマーの家にある12個のデッキから生まれた物語である。
もちろん、オールフィクションであり、脳内妄想であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありませんし、精神に異常をきたしてもいません。
もちろん、オールフィクションであり、脳内妄想であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありませんし、精神に異常をきたしてもいません。
Chapter 4:荒ぶる竜の咆吼
『さあ! ファイナルファンタジー・トレーディングカードゲーム第4回ワールドプレミアム大会決勝、第1戦が終わりました! 解説のファイナル・大沢さん、白熱した戦いでしたねー!』
『そうっすか? 退屈な試合だったよーな』
『あっはっはっは。いい加減にしろよコラ』
『実況の古鼬さん。マイク入ってますってば』
『もういいよ! というわけで、これからいよいよ第2戦が行われようとしております! しかし、戦いの舞台に上がったのは6人! 解説のファイナル・大沢さん、これはどういうことでしょうかね?』
『編集で切るつもりっすか。まあいいや。えーっと、これは3試合を一気に行うみたいっすね』
『3試合一気に! おおーっと! ステージに、テーブルが2つ追加されました! なるほど! 3つの戦いが、同時に行われるのですね!』
『そういってるじゃないすか』
『うるせーよ! なにちょっと切れてんだよ!』
『……ティファ出なかったんで』
『しょーがねーだろ! どんだけティファ好きだよ! えー、しかし、第1戦はそれほど注目のカードではなかったと思うんですけど、何故あの戦いだけ個別に行われたんでしょうか?』
『やってみて気付いたんじゃないすか?』
『気付いた、とは?』
『ほら、ひとり持ち時間15分、ってルールでしょ。だからまあ、2回戦で最大60分。入場もろもろいれると、1戦80分。それが11戦ともなると、最大880分、14時間以上にもなっちゃう。大会時間長すぎでしょ。だから縮めたんすよ』
『は、はあ。これは、運営の手落ちということでしょうか?』
『いや、作者が
『メタ厨死ね! というわけで、これからいよいよ第2戦、第3戦、第4戦が一気に行われようとしております! スメル・木村対ドラゴン・山田! ソルジャー・村田対ニーハオ・佐藤! そしてクイーン・渡辺対湯布院有樹です! どうぞ!』
なにやってんだろオレ。
道房は、41年の人生を振り返っていた。
こんな訳のわからんことになったことなど、かつてあっただろうか。6万人の観衆に囲まれたステージで、股間に竜の首をつけ、尻に竜の尾っぽをつけ、紫色の全身タイツに身を包み、紫色の竜騎士マスクで頭を隠し、腰を前後に振って踊りながら、ドラゴンのスリーブに包まれたカードをシャッフルしてる。
意味わからん。
だが仕方がない。確かドラゴン・山田はこんな風だった。道房は、のっぴきならない理由でドラゴン・山田に化けているのである。
凄まじく恥ずかしいが、バレないように振る舞わないといけない。中のひとが第1戦で負けたおっさんだと見破られたら、二度とFFTCGの大会に参加できなくなる。ていうか、警察呼ばれる。
しかし気持ち悪い。道房が着る全身タイツは、さっきまで他人が身に着けていたものだった。しかもノーパンで。いくらなんでもそのまま着る気にはならず、シャツとももひきを脱がずに着込んだが、お蔭でやたら暑い。
最悪なのが、この竜騎士マスクだ。
血のにおいがする。
暑いのに、キンタマがキューっとなるほど背筋が寒くなった。
こええ。あの姪、確実に姉の血を引いてた。引いちゃいけないもんディスティニードローしてた。学生時代、”ひとり世紀末覇者伝説”と呼ばれ、”ノストラダムスが予言した恐怖の大女王”と恐れられ、”キンタマ潰し数ギネス世界記録保持者”の称号を得た姉の正当後継者だった。今までは、怒らせてもグーパンチが顔面に飛んでくる程度だったのに、完全に目覚めさせちゃった。目覚ましガンガンに鳴らしちゃった。そんなに期待させちゃってたのか。
すまない、ドラゴン・山田。犠牲にしちゃって申し訳ない。姪が夜叉でごめんなさい。キミのためにも、オレのキンタマのためにも頑張るから、ロッカーの中で静かに眠っていてくれ。フルチンで。
「ふふ。山田さん? 今日はいつもより動きが激しいんですねー」
地味な服着た湯布院有樹が、苦笑いしながら話しかけてきた。
やばい。知り合いなのか。声出したらバレるよな。
つか、知り合いなら何故見た目で見破らない。本物は、こんなに腹出てなかったろう。ああ憎々しいビール腹。なにこれもう目立ちすぎだろ。生きてるの嫌んなるわ。
「今日はお互い、頑張りましょう!」
道房はコクリとうなずいた。笑顔はイマイチだし、なんかくねくねしてるけど、声は可愛いじゃないか。なんかちょっとときめいちゃう。
「……でも、やっぱりにおうね」
湯布院有樹が、鼻に指を当てて顔をしかめる。
道房は、テーブルを挟んだ向かい側を見る。
小太りの男、スメル・木村。今回の対戦相手だ。女の子のキャラクターが描かれたスリーブを、丁寧な手つきでシャッフルしている。
まず感じるのは、強烈な汗のにおい。校庭を何十周したんだよ、ってくらいの汗くささ。それに混じる、カビが腐ったようななんともいえないフレーバー。主食ドリアンとかじゃないだろうなこいつ。とにかく、鼻にこびりついたらしばらく取れないであろう悪臭だ。
テーブルを間に置いてさえこのにおい。隣で戦うニーハオ・佐藤は、もっときついだろう。まともに戦えるのか?
と思ったら、ニーハオ・佐藤は鼻に洗濯ばさみをつけていた。シュノーケルまで咥えている。その上、ヌンチャクを猛烈な勢いで振り回してにおいを拡散している。
なるほど。一度ノックアウトされただけのことはある。対策を練ってきたか。ていうか、お前も汗くさいぞ。
鼻の穴のでかいソルジャー・村田は? 見たところ、平気な顔してるが……。あ。よく見たら鼻毛がすごい! カッコつけて金髪いじってるけど、鼻毛すごい!
胸毛を露出した半裸のクイーン・渡辺は、高音域の声で雄叫びを上げ、踊り狂っていた。なにしてんだこいつ。
『プレイヤー、レディ! デッキ・セット!』
天井から降り注ぐ声が、そう叫んだ。
道房たち6人は、ガラス製のテーブルの前に立ち、おのおのデッキをセットした。
睫毛の長い目で対戦相手にウィンクしまくる半裸の筋肉男、クイーン・渡辺。
腕を組んで余裕の表情を浮かべいい女っぷる地味女、湯布院有樹。
ダンボールのしょぼい剣を背負いでかい鼻の穴から鼻毛をそよがせるコスプレイヤー、ソルジャー・村田。
鼻に洗濯ばさみをはさみシュノーケルを咥えるハイテンション拳法家、ニーハオ・佐藤。
全身から黄色いオーラを放出する小太り不潔大王、スメル・木村。
そして、股間から竜を生やした全身タイツの変質者、ドラゴン・山田。
変態コンテストかこれ。
股間の竜、すっごい邪魔なんですけど。
『ディール!』
道房の、決して負けられない戦いが始まった。
一応、事前にデッキをあらためていた。
どんなカードが入っているか。どんな戦い方をしたらいいか。短時間のうちに、ざっと確認していた。藻衣のいうとおり、ドラゴン・山田のデッキは単純明快であり、それ故の強さともろさを秘めていた。
しかし。
どんなデッキであろうと、道房の手にかかれば同じである。
ヘイスト竜騎士(1-122C)、竜騎士(2-082C)、フライヤ、オーディン(1-104U)、オーディン(1-103R)。
なにこれ。
バックアップ16枚入ってるよね。ちゃんと数えたよね。召喚獣9枚中2枚がすでに手の中にあるっておかしいだろ。確率無視しすぎだろ。今なら神様なんかいないっていえるね。断固いえる。
しかし、マリガンするわけにはいかない。オーディンはまだしも、フライヤがないと成立しないデッキなのだ。たぶん。
『デュエル、スタート! ターン1! スメル・キムーラ! ドロー!』
「……よろしく」
ぺこりと、スメル・木村がお辞儀した。道房も、股間の竜ごとお辞儀する。
ほう。なかなか礼儀正しい子じゃないか。
「……ヴィンセントを捨てて、セルフィちゃんを出します。おわり」
女の子キャラにちゃんづけするなんて、きも、いや、可愛いぞ。可愛いじゃないか。
道房は股間の竜でうなずき、ドローされた2枚のカードを手に取る。
バックアップなし。
後攻ならなんとかなるかと思ったが、想像以上だぞオレの運。厄日か。いや、厄年だった。
なんかもう、最強のデッキクリエイターが作りし最強のデッキでも負ける気がしてきた。
仕方なく、道房はオーディン(1-104U)を切って竜騎士(2-082C)をフィールドに出した。可愛らしい竜騎士が、立体映像として姿を現す。
「……ぼくのターン。……アスラを捨てて、バルバリシアちゃんを出します。おわり」
バ、バルバリシアだと!? ほぼ全裸じゃないか!
と、期待した道房だったが、残念ながらモザイクだった。惜しい。ここだけはなんとかして欲しかった。股間の竜も萎えるわ。
道房のターンになり、引いた2枚のカードの中にやっとバックアップが1枚入っていた。
微妙だ。ここで使うカードじゃない。けれど、背に腹は代えられない。
竜騎士(4-081C)と先制竜騎士(1-123C)切り、賢者を出す。回収するのは、先制竜騎士(1-123C)だ。股間の竜で相手をさし、ターンエンドを宣言する。
「……ぼくのターン。……フェアリーちゃんを捨てて、バイキングを出します。バイキングのアビリティで、カードを1枚引きます。おわり」
淡々としてるね。引きが事故ってるっぽいのに。
ま、大炎上しっぱなしで鎮火する気配のないオレの手札ほどではないけど。
ほんとーにどーしよーもない。
道房はオーディン(1-104U)切って賢者を倒し、先制竜騎士(1-123C)を出す。これでターンエンドだ。
「……ぼくのターン。……フェアリーちゃんを捨てて、カイナッツォを出します。おわり」
またモザイクの立体映像だ。色でなんとなくわかるけど、紛らわしい。
道房のターン。炎上は続くよどこまでも。どんだけ引きが悪いんだ。初めて扱うデッキだから、とかそういうレベルじゃない。もうどうしたらいいかわからない。
ヘイスト竜騎士(1-122C)をコストに使い、オーディン(1-103R)を召喚する。股間の竜で、カイナッツォを指定した。
「……わかりました。カイナッツォはブレイクします。……ぼくのターン。……フェアリーちゃんを捨てて、リノアちゃんを出します。おわり」
リノアだと!?
フォワードのリノア(2-045S)が、3Dの美麗な立体映像で現れた。やっぱ可愛いなあ。黒髪最高! 二の腕つんつんしたい。ああ、なんて素敵なんだリノアちゃんは。ちょー可愛い。お尻撫でたい。
とろんとした目で眺めてたら、スメル・木村が首を傾げた。
おおっと、見とれてる場合じゃない。今のオレは、ドラゴン・山田なのだ。
しかし5ターン目になっても、デッキからバックアップが出てこない。
リチャードを切ってオーディン(1-103R)を召喚する。もっとじっくり眺めてたいが、対象としてリノア(2-045S)を選んだ。ごめんねリノアちゃん。
「……ぼくのターン。……んーと。リノアちゃんとハシュマリムを捨てて、セルフィちゃんを倒して、ヴィンセントを出します。おわり」
まずい。バックアップは1枚ずつだが、フォワードの充実度に差がついてきた。
けれど、道房の手札にバックアップの姿が見当たらない。
ヘイスト竜騎士(1-122C)を切り、竜騎士(4-081C)を出す。
「……ぼくのターン。赤魔導師を捨てて、赤魔導師を出します。……アタックフェイズです。ヴィンセントで攻撃します」
道房はブロックせず、股間の竜で自分を指した。
ダメージゾーンにめくれたのは、竜騎士(2-082C)。バックアップじゃなくてよかった。
「……おわり」
道房の前に、2枚のカードが配られる。
よしきた! やっとバックアップを引いたぜ! ……でも賢者じゃないか。
いいやもう。道房は開き直る。ここまできたら、バックアップなんかなくてもいいや。もう行っちゃおう。ラッシュかけちゃおう。そーゆーデッキだよこれ。神様がそういってる。うん。間違いない。
道房は思い切って賢者を捨て、ヘイスト竜騎士(1-122C)を出した。
アタックフェイズに、ヘイスト竜騎士(1-122C)と竜騎士(4-081C)でパーティーアタックを仕掛ける。
「……えーと。……バイキングでブロックします。バイキングはブレイクです」
ブロックしたか。まあいいや。
この時点で、道房のフォワードは先制竜騎士(1-123C)、竜騎士(2-082C)、ヘイスト竜騎士(1-122C)、竜騎士(4-081C)の4体。
スメル・木村のフォワードは、ヴィンセント(1-078R)、バルバリシアの2体。
よーし。意外といけるぞ!
手札にあるキーカードをちら見して、道房はわくわくした。
「……ぼくのターン。……第1メインフェイズは飛ばします。……アタックフェイズです。……ヴィンセントで攻撃します」
道房は今度もブロックせず、股間の竜で自分を指す。
ダメージゾーンにめくれたのは、クリュプス。EXバーストが発動したが、ブレイクできるフォワードはいない。
「……第2メインフェイズです。ハシュマリムを捨てて、ルビカンテを出します。おわり」
「うっしゃ! 行くぜ!」
思わず道房が叫ぶと、スメル・木村がきょとんとした顔を上げる。
やば。
疑われてはまずい。道房は股間から生えた竜をぶらんぶらんと左右に振り、尾っぽの着いた尻を見せて上下に振り、乳首をつまんで腹を叩いた。
「……はは。……いつも通りですね」
いつも通りなのか。これでいいのか。いつもどんなプレイしてるんだドラゴン・山田は。そのプレイはなんのプレイなんだ。
まあいい。疑いは晴れたようだ。
コホンと軽く咳払いして、道房は勢いよくカードを出した。
フォワードゾーンに、ネズミ族の竜騎士フライヤが現れる。
ピキーン! と、フライヤの鋭い目が光った。
フライヤはヘイストを持っているので、そのままスペシャルアビリティを使用。フライヤを含めた竜騎士5体で、相手のすべてのフォワードに10000ダメージだ!
「……え。……10000? ……す、すごい。全滅だ」
スメル・木村の前に並んだバルバリシア、ヴィンセント(1-078R)、ルビカンテが、まとめてブレイクされる。
更に、竜騎士4体で4回アタック。スメル・木村に一気にダメージが4点が入った。
気持ちいい!
道房は股間の竜を激しく前後に振った。
このデッキ、すっごい気持ちいいぞ! バックアップが出ないことを除けば、すごい強い!
「……ぼくのターン。シャントットとジェクトを切って、シャントットを出します。おわり」
「え」
ざざーっと、道房の前に立つ竜騎士達が除外ゾーンに駆逐されてゆく。
目が点になった道房がスメル・木村を見ると、にんまりと笑っていた。
こ、この野郎。やってくれるじゃねーか!
道房のターン。イデアとオーディン(1-103R)を切って賢者を出し、フライヤを回収した。
「……ぼくのターン。……バルバリシアちゃんを出します。おわり」
道房はカードを2枚取る。シーモア切ってシーモア。バルバリシアをブレイクする。
「……ぼくのターン。……アスラを捨てて、カオスを出します。……スカルミリョーネを出します。おわり」
道房はちっちゃなカイン(2-070E)を出して、ターンエンド。
「……ぼくのターン。……ルビカンテを出します。おわり」
ふと、道房はめまいを覚えた。なんだ? なにか嫌な予感がする。どんどんどんどん追い詰められて行くような……。
けれど、このデッキにできることは限られている。砲撃士(4-078C)を出してターンエンドした。
スメル・木村のターン。ドローされたカードを引いた時、彼はにんまりと笑った。
その瞬間、道房は気づく。
くさい。
すごいくさい。
さっきまでの強烈なにおいが、もっとパワーアップしている。
興奮してんの? なんか知らないけど、あのひと興奮してるよ。ちょっと顔赤いよ。ほっぺに汗垂らしてるよ。
隣のテーブルを見ると、ニーハオ・佐藤が血相変えてヌンチャクを振りまくっていた。シュノーケルの筒は、2メートルまで伸びている。
ソルジャー・村田は鼻毛を顎まで伸ばし、湯布院有樹はマスクを着用。クイーン・渡辺は顔を真っ赤にして息を止めているようだ。
道房は、スメル・木村をにらむ。
自分の足のにおいをかぐのを日課としているオレでも、これはちょっとだけきついぞ。
「……ぼくのターン。……出しますね。もうぼく、出しちゃいます。ふふ。4コスです」
ぷっすぅ~。
って、なに出してんだ! くっさ! くっさ!
いや、おならだけじゃない。おならとともに登場したのは、黒い甲冑に身を包む魔人、ゴルベーザ(2-105S)だった。従える四天王は放送禁止のモザイク2人だが、圧倒的な存在感を放っている。
こ、これか。これを狙っていたのか!
こんなにくっさいゴルベーザ、初めて見た!
湯布院有樹は逃げ出し、ソルジャー・村田は膝をつき、クイーン・渡辺が倒れ、ニーハオ・佐藤は死んだ。
しかし、道房は耐える。鼻の奥に鋭い痛みを感じ、ほろりと涙がこぼれるが、まだ大丈夫だ。
道房のターンになり、ルールー(1-125U)を出す。残念ながら、今はそのナイスバディな立体映像に鼻の下を伸ばしているような余裕はない。
アタックフェイズに、カイン(2-070E)でアタック。ルールー(1-125U)の効果を入れてパワー6000。さあ、どう出るか。
「……うん。わかりました。ブロックしません。受けます」
スルーしたか。
スペシャルアビリティを使う機会を逃したが、これはこれでOKだ。与えたダメージは計5点。もうちょいだ。
そしてカイン(2-070E)をブレイクゾーンに置いてレベルアップ。レベルアップしたカイン(2-068S)のアビリティで、スカルミリョーネをブレイクした。更に、イデアを切って先制竜騎士(1-123C)を出す。
「……ぼくのターン。……エアリスちゃんを出します。赤魔導師のアビリティで、カインをブロックできなくします。アタックフェイズです。ルビカンテでアタックします」
なるほど。レベルアップしたばかりのカイン(2-068S)はダル状態だが、ルビカンテのアビリティでアクティブになる。だから先に赤魔導師(1-003C)を使ったのか。
先制竜騎士(1-123C)を失うのは惜しいので、道房はブロックせず、3ダメージ目を受けた。ダメージゾーンにめくれたカードはクリュプスで、EXバーストが発動する。
「……んー。おわり」
クリュプスのお蔭でゴルベーザ(2-105S)のアタックを止められた。
いや、違うな。あの野郎、こちらのターンでゴルベーザ(2-105S)のアビリティを使うつもりだな。
だが、道房には策があった。
相打ち上等だぜ!
道房のターン。カイン(2-068S)のスペシャルアビリティを発動! 対象は、ゴルベーザ(2-105S)だ。
「……うわ。……じゃあルビカンテをブレイクして、ゴルベーザのアビリティをスタックします。……対象は先制の竜騎士にします」
悲しそうな顔で、スメル・木村はいった。
なるほど。スペシャルアビリティを使ったカイン(2-068S)は、次のターンもアクティブにならない。竜騎士をブレイクして、アタック可能なフォワードを消すつもりか。
キビシイな。道房は竜騎士(2-082C)を追加して、ターンエンドした。
「……ぼくのターン。……スカルミリョーネを出します。……ユウナちゃんを出します。おわり」
おお、ユウナ(2-092S)だ。青い衣装を着た、ヴォーカリストのユウナだ。テーブルに這いつくばって下から覗き込みたいけど、これ以上スメル・木村に近づくとニーハオ・佐藤のように死体になってしまう。我慢だ。
道房はカードを2枚引くと、マスクの下で笑みをこぼした。
フライヤに頼らない、このデッキのもうひとつの戦い方が、そこにあった。
道房はカードを出す。
ウォーリアオブライト(1-151R)だ!
そのりりしい勇姿に、竜騎士が自信満々に胸を張り、槍を持つ手が素早くなる。
あとは、竜騎士を並べてアタックするだけの簡単なお仕事だ。道房は勝利を確信した。
「……ぼくのターン。……もう1回し出ますね。もうぼく、出しちゃいます」
ぷっぷすぅ~。
くっさ! くっさ!
なに食ったらこんなにくっさい屁をこけるんだ! 6万人の観客のまえで何度もおならぶっこくとか、どーいう神経してんだこいつは! そろそろ息ができなくなってきたぞ。
2度目のおならとともに登場したのは、もちろん黒い甲冑に身を包む魔人、ゴルベーザ(2-105S)だ。
待てよ。そういえば、客席は大丈夫か? このおならはある意味毒ガステロだぞ。
道房が観客席を見回すと、まるで問題なさそうだった。
ていうか、よく見たら透明の壁が決闘場を囲っていた。ナイス運営。つか、お蔭でにおいが全然消えないよ! こもりまくってるよ! 密室状態だよ! あ。逃げだそうとしてた湯布院有樹が、あんなとこで壁に張り付いて失神してるよ!
まずいな。早めに決着着けないと。道房は、立体映像が並ぶテーブルを見る。
スメル・木村のフォワードは、ゴルベーザ(2-105S)とユウナ(2-092S)とスカルミリョーネ。
バックアップは、セルフィ、赤魔導師(1-003C)、シャントット、カオス、エアリス。
ドラゴン・山田のフォワードは、カイン(2-068S)と竜騎士(2-082C)とウォーリアオブライト(1-151R)。
バックアップは、賢者、シーモア、砲撃士(4-078C)、ルールー(1-125U)。
微妙に負けている気がする。
道房はドローに賭けるが、状況を打破できるカードがこない。竜騎士(4-081C)出してターンエンドした。
「……ぼくのターン。……ないや。……アーヴァインと魔界幻士を捨てます。おわり」
ど、どういうことだ?
相手のバックアップゾーンには、もう5枚のカードが並んでいる。手札にフォワードがないのか。それとも、召喚獣で埋まってるのか。
まあいい。考えても無駄だ。できることをしよう。
攻める!
このくっさい戦いを、とっとと終わらせるんだ!
シーモアをブレイクして、砲撃士(4-078C)のアビリティを発動! 道房は股間の竜でユウナ(2-092S)を指定した。
「……うん。スタックします。……ハシュマリムを召喚します。……ぼくのフォワードは、全員パワー+1000されます。……属性は、水でいいや。……ジョブは、四天王です」
な、なんだと!?
やばいぞこれは。砲撃士(4-078C)が与えるダメージは7000。パワー7000のユウナ(2-092S)は+1000されるので、生き残ってしまった。
ならば追撃だ!
道房は手札のルールーを切って、フースーヤを出した。対象は、もちろんユウナ(2-092S)だ。
にたぁ。スメル・木村が笑う。
「……スタックします。四天王になったユウナをブレイクして、ゴルベーザのアビリティを使います。対象は、……ウォーリアオブライトです」
やられた!
ハシュマリム1枚で、こうも計算が狂うとは! バックアップ2枚とウォーリアオブライトを、ハシュマリム1枚で持ってかれた!
道房はうなだれ、しょげる股間の竜でターンエンドをゼスチャーした。
「……ぼくのターン。……バルバリシアちゃんを出します。……ジェクトも出します。おわり」
まいった。
相手のフォワードゾーンが凶悪になってきた。
カードを引いた道房の手札には、フライヤが2枚ある。フライヤをフィールドに出せば、そのままスペシャルアビリティを使うことができるが、フィールドに出ている竜騎士はたったの3体。フライヤを入れても4体。全フォワードに8000ダメージしか与えることはできない。
いや、ゴルベーザ(2-105S)がアビリティをスタックすれば、竜騎士が1体やられ、6000ダメージになる。6000では、スカルミリョーネしかブレイクできない。
ていうか、ジェクトだと? こちらのフォワード1体につき+1000だと? フライヤのスペシャルアビリティだったら、竜騎士8体並べないとブレイクできないじゃないか。それなんて無理ゲー?
こういうときのために入れてあるのがオーディン(1-104U)なんだろうけど、序盤で全部捨てちゃったよ!
くらくらしてきた。とりあえず、竜騎士を溜めよう。道房は、リチャードを出す。
「……おわりですか? だったら、エンド前に、スカルミリョーネをブレイクして、ゴルベーザのアビリティ使います。対象は、……リチャードです」
まじか。
「……あと、スカルミリョーネ出します。……おわりですか?」
まじか。
道房は股間の竜でうなずく。おわりっつーか、終わりだよもう。どうすんだこれ。
「……ぼくのターン。……アタックフェイズです。……ジェクトでアタックします」
ずっとお前のターンじゃねえか。
耐えるしかないのか。においだけじゃなく、猛攻にも耐えなくちゃいけないのか。
道房は我慢してダメージを受けた。これで4ダメージだ。めくれたカードは、先制竜騎士(1-123C)。何故そこに出る。
「……おわり。くすくすくす。あ。出ちゃった。くすくすくす。あ」
ぷすっ。ぷすぷひぃ~。
スメル・木村が笑う。笑いながら屁をこく。
コノヤロウ、プレイヤーごとブレイクする気か。そろそろ致死量だぞこれ。
道房のターンになり、カードを2枚取る。
この手札でなにができる? ……まずい。においで思考能力がなくなってきた。
でえい、やれるだけのことをやってやれ!
道房はフースーヤをブレイクし、砲撃士(4-078C)のアビリティでバルバリシアを狙う。
しかしスメル・木村は当然のようにバルバリシアでゴルベーザ(2-105S)のアビリティを使い、カイン(2-068S)をブレイクした。さらにエアリス(1-053U)のスペシャルアビリティを使ってジェクトとゴルベーザ(2-105S)をアクティブにすると、スカルミリョーネをブレイクして再度ゴルベーザ(2-105S)のアビリティを使い、道房の竜騎士(2-082C)をブレイクした。
なにそれ。どんだけゴルベーザ頑張るんだよ。働き過ぎだろ。四天王ぶっぱなしすぎだろ。もっと部下のこと考えてあげて。
道房はフースーヤのアビリティで出しやすい竜騎士(4-081C)を拾ってきたので、フィールドに出す。
残ったフォワードは、竜騎士(4-081C)が2体だけ。
「くすくすくす。あ。くすくすくす。あ。おわりですか?」
ぷぴぃ~。ふすぷぽぃ~。ぺぴ~。
屁こきすぎだから。いろんな音鳴らしすぎだから。ヘ長調のメロディ奏ですぎだから。目がかすんできたじゃないか。
道房はよろけながらターンエンドする。人生もエンドしそう。
「……ぼくのターン。……アタックフェイズです。……赤魔導師のアビリティで、竜騎士を1体ブロックできなくします。くすくすくす。……ジェクトでアタックします。くすくすくす。……ゴルベーザもアタックしちゃいます」
ぷぺぴ~。ぽふ~。ぴへぴ~。
ゴルベーザのアタックだけ竜騎士(4-081C)でブロックしたが、5ダメージになった。いよいよ後がない。デッキも残り少ない。頼みの綱のウォーリアオブライト(1-151R)が、ダメージゾーンで失神してる。
道房のターン。仕方がない。フライヤを出した。相手のフォワードはがら空きだが、アタックしている状況ではない。
しかし、もつのか?
もつわけがなかった。
「……ぼくのターン。……ルビカンテを出します。くすくすくす。……ルビカンテをブレイクして、ゴルベーザのアビリティを使います。対象はフライヤです。くすくすくす。……予言士を出します。アクティブにします。くすくす。……アタックフェイズです。……赤魔導師のアビリティで、竜騎士をブロックできなくします。くすくすくす。……ジェクトでアタックします。……ゴルベーザでアタックします。くすくすくす。あれれ? もうデッキにカードがないですね。あ」
ぷっすぷすぷぷ~う。ぷすぺぽぴぺ~。ブペ。
「……終わりだ」
7ダメージ目は、デッキ切れでめくれず。代わりに白目むいた。
ドラゴン・山田、失神KO負けである。
Chapter 5:死屍累々 へつづく。
ada live demo gak dari ownernya gan? misal mulai dari beli domain, keyword research, sampe buat konten dan masuk index dan akhirnya pekj&na#8230;walo hanya tulisan2 doang udah banyak di google…