Chapter 5:死屍累々

2012年03月05日 23:18:16 | 【カテゴリー: ファイナルファンタジー・トレーディングカードゲーム
この記事の所要時間: 約 25分38秒

 これは、とあるカードゲーマーの家にある12個のデッキから生まれた物語である。
 もちろん、オールフィクションであり、脳内妄想であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありませんし、精神に異常をきたしてもいません。

FFTCG
Chapter 5:死屍累々


 夜叉がいた。
 角の生えた白面。目がつり上がり、口が耳まで裂けている。
 黒い長髪を振り乱し、恐れおののき逃げ惑う人間を容赦なく屠る。
 暴悪の鬼神。狂乱の破壊者。空が赤く染まり、大地が揺れ、空気が震える。
 その正体は、セーラー服の女子高生だった。血の繋がった姉だった。彼女には、もはや暴れ狂う理由も理性もなかった。姉の目には、もはや敵と弟の区別はつかない。
 その細く綺麗な指が、血にまみれた指が、絶望的な恐怖とともに迫ってくる。

 道房は、飛び起きた。
 全身に汗が噴き出していた。
 眩しい。息苦しい。うるさい。どこだここは。
 口元に違和感を感じる。プラスチック製の透明なマスクがついていた。なんだこれ。マスクから延びるチューブは、横に置かれたボンベつきの装置に繋がっている。
 病院? 目をこすって辺りを見回した。
「……うおわ」
 ここは病院なんかじゃない。スーパー武蔵小金井ドームの中だ。透明な壁の向こうで、6万人の観客がざわついている。
 うるさいのは、観客のざわめきだけじゃなかった。決闘場の周りに空気清浄機がずらりと並び、最大限の力でにおいを浄化していた。ランプは真っ赤だ。あと、消臭力がいっぱい置かれてる。
「頑張ってたんだね、山田さん。……空気清浄機のない密室の中で最後まで戦い抜いたなんて、やっぱり凄いわ」
 くぐもった声の主を見上げると、地味な服を着た地味な顔立ちの女が、カードを持って立っていた。湯布院有樹だ。彼女も酸素ボンベを着けている。
「あたしも頑張るから!」
 そういって、有樹は小走りで去ってゆく。
 自分の顔とか身体とか股間に生えた竜とかべたべた触りながら、道房はだんだん思い出してきた。
 この全身タイツ、この変態ファッション。そうだ。オレはドラゴン・山田なのだ。のっぴきならぬ理由で、主にさっき悪夢に見たシーンを姪に再現させないために、ドラゴン・山田となって戦っていたのだ。
 ゆっくりと立ち上がり、ガラス製デュエルテーブルの向こうを睨む。
 スメル・木村。
 不満そうな顔で、鼻糞をほじっている。
 コノヤロウ。おっかない夢を見させやがって。ちょっとちびったじゃねーか。股間に竜の首つけてなかったら、モロバレになるとこだったぞ。股間の染みを6万人に晒しながら戦うとこだったぞ。
 酸素マスクを取ってみる。……うん。まだくさい。だが、ずいぶんマシだ。オレの足のにおいの方がくさい。
 隣のテーブルを見ると、ソルジャー・村田とニーハオ・佐藤が戦っていた。その向こうのテーブルでは、湯布院有樹とクイーン・渡辺が戦っている。全員、酸素マスク着用だ。
「……あっちが終わるまで、待つんだってさ。……暇だよね」
 自分の脇のにおいをかぎながら、スメル・木村がいった。
 なんて下品なやつだ。
 ……いや、違うな。
 道房は、41年間の人生で蓄積した知識と経験則で、スメル・木村を看破した。
 こいつは、自分のにおいをかぐと安心するのだ。自分のにおいをまき散らしたテリトリーの中で、自宅にいるようなリラックス感を得ている。あのにおいは、安らぎフィールドなのだ。
 なんてかわいそうなやつなんだ。
 家の外にいながら家の中にいる。外出しつつも引きこもっている。結局、自分の殻を閉じて外世界へ一歩たりとも踏み出せていないのだ。多様化するモラトリアムのねじれた症例のひとつ。スメル・木村は、においという壁を挟んでしかひとと接することのできない、孤独で不憫な男なのだ。道房は勝手にそう認定した。
 不潔でさえなければ、においさえなければ、おならの壁さえ作らなければ、可愛げのある礼儀正しい青年なのに。
 いいだろう。真っ正面から受けとめてやろうじゃないか。
 その殻、ぶち破ってやる。
 彼を救い出すことが、勝利に繋がる。
 道房は、酸素マスクを剥ぎ取った。
「……あれ? ……山田さん、マスクつけないの?」
「ああ、いらない。嘘偽りない裸のオレで、お前を受け切ってやるぜ!」
 これからは、ドラゴン・山田ではなく、禿野道房として戦うのだ。
 スメル・木村の表情が曇る。
「……その声。……や、山田さん? なの?」
 道房はあえて頷きもせず否定もしない。
「2戦目が始まるまで、せいぜい安らぎのにおいを吸い込んでおけ。戦いが始まったら、そんな余裕など与えんぞ!」
「……ふうん。そう。……わかった」
 道房とスメル・木村の間で、火花が飛び散る。メタンが引火しそうなほどの睨み合いだ。
 こいつは勝たせてはいけない。勝ち抜かれれば、空気清浄機や消臭力で維持費がかかる。社会人たる者、コスト意識は大切だ。
 GN粒子(自分のにおい粒子)で固めたGTフィールド(自宅フィールド)から引きずり出し、風呂に叩き込んでやる! GじゃなくてJだけどGで通し切る! 死ぬ気で戦ってやる! なにしろこっちはリアルに命がかかってるんだ! 命と書いてタマと読むのだ! 潰されてなるものか! この歳で新宿二丁目デビューはキビシイぜ!



 ファイナルファンタジー・トレーディングカードゲーム第4回ワールドプレミアム大会決勝、第2戦、第3戦、第4戦の1回戦目が終わり、2回戦目が開始される。
 隣のテーブルではソルジャー・村田が勝ち、その向こうではクィーン・渡辺が勝利したようだ。
 しかしまだ勝負は決まっちゃいない。ニーハオ・佐藤も、湯布院有樹も、諦めた顔をしちゃいない。
 2戦目が本当の勝負だ!
 この戦いでスペシャルアビリティやEXバーストでポイントを稼ぎつつ勝利し、判定勝ちに持ち込む。前戦でダークネス・鈴木に教えられた手段だ。
『ディール!』
 5枚のカードが、自動で配られる。
「うっしゃ! 行くぜ!」
 1戦目で負けた道房が先攻だ。配られた5枚のカードを、勢いよく手に取る。
 オーディン(1-104U)、竜騎士(2-082C)、オーディン(1-104U)、ヘイスト竜騎士(1-122C)、オーディン(1-103R)。
「なんじゃこりゃーっ! マリガンじゃー!」
 べしっと、カードをテーブルに叩きつけた。
 再度配られた5枚のカードを、勢いよく手に取る。
 リチャード、オーディン(1-104U)、オーディン(1-103R)、ヘイスト竜騎士(1-122C)、賢者。
 べしっと、無言でカードをテーブルに叩きつけた。
 オーディン出たがりか! 孤高の騎士気取ってんのに群れるんじゃないよ!
 賢者がいるだけマシだけど、いきなりオーディンのEXバーストが期待できなくなった。クリュプスに期待するしかない。3連続で出れば、カイナッツォくらいは落とせる。
 それにしても、なんでこんなに手札が悪いんだと思ったら、ノーシャッフルデスマッチのせいだった。この順番、1回戦目で捨てた順番じゃん。選りすぐって捨てたカードじゃん。もうあの時点でこうなること決まってたじゃん。あとフライヤ2枚最後まで持ってたからデッキの下の方に埋まってるじゃん。このルール考えたヤツ死ね。メガネ割れて死ね。
 やばい。負ける。あんだけ見栄きっといて、惨敗する。キンタマが縮んだ。源氏名考えとこう。
 いや、弱気になってる場合じゃない。こうなったら、精一杯やれるだけやるしかない。奇跡とか起こすしかない。モーゼだって切羽詰まって海割ったんだ。ゴルベーザくらい割れるさ。
「……ぼくも、マリガンします」
 そっと、スメル・木村がカードを捨て、新しいカードを手に取った。
 そういや、あいつも序盤苦しんでたよな。フェアリーを3ターン連続で捨ててたよーな気がする。
 ならばよし! 源氏名など、考えぬ!
『デュエル、スタート! ターン1! ドゥラゴン・ヤマーダ! ドロー!』
「オレのターン! 行くぜ! オーディンとヘイスト竜騎士を切って、賢者を出す! 賢者のアビリティで、ヘイスト竜騎士を手札に戻す! ターンエンドだ!」
「……くすっ。すごい気合いだね。……ぼくのターン。フェアリーちゃんを捨てて、バイキングを出します。カードを1枚引きます。……うわ。……えーと、うーん。ハンド6枚か。……リノアちゃんとハシュマリムを捨てて、バルバリシアちゃんを出します」
 ほほう。わざわざ4コストも支払って3コストのバルバリシアを出すとは、相当手札が悪いな。
 とはいえ、こっちも同じようなもんだ。
「オレのターン! オーディンを召喚! 対象は、バルバリシアだ!」
「……はい。バルバリシアちゃんをブレイクします。……くすっ。さっきと同じだね」
「仕方ないだろ。これしかないんだ。で、ターンエンドだ!」
「……ぼくのターン。……第1メインフェイズは飛ばします。……アタックフェイズ。バイキングでアタックします」
「ダメージを受ける! フォワードいないしな。ダメージゾーンは、……くそっ。先制竜騎士だ」
「……おわり」
「うっし。オレのターン」バックアップはまだこない。「ヘイスト竜騎士と、ちび竜騎士を出す! で、ヘイスト竜騎士でアタックだ!」
「……はい。ダメージは、……うわ。シャントットだ」
「うっしゃ! ターンエンドだ!」
「……ぼくのターン。……んー、困ったな。……ルビカンテを捨てて、赤魔導師を出します。おわり」
「いいのか、四天王捨てて? オレのターン!」1戦目でバックアップいつ捨てたっけ?「しゃーない。もったいないけどオーディン召喚! 対象は、バイキングだ!」
「……はい。バイキングはブレイクされます」
「更に、ヘイスト竜騎士でアタック! ちび竜騎士もアタックだ!」
「……はい。……これで3ダメージです」
 ダメージゾーンに、スカルミリョーネが出た。いいぞ。四天王滅びろ。
「……ぼくのターン。……ハシュマリムを捨てて、セルフィちゃん出します。……あと、ヴインセントとリノアちゃんを捨てて、赤魔導師を倒して、ジェクト出します。おわり」
「うぐ。ジェクトもうきたか。オレのターン!」バックアップきたけど、出しても意味ない。だったら使う。「シーモア切って、エントリーのカインだ! ターンエンド!」
「……ぼくのターン。……第1メインフェイズは飛ばします。……アタックフェイズで、ジェクトがアタックします」
「そうですよねー。きますよねー。受けるっ!」2ダメージ目だ。めくれたのは、イデア。ちょっと欲しかったかも。
「……あと、セルフィちゃんを捨てて、ルビカンテを出します。おわり」
「オレのターン! ……ぐぬぬ」なんでさっきシーモア捨てちゃったんだ。「エントリーのカイン切って、先制竜騎士を出す! ターンエンドだ!」
「……ぼくのターン。……第1メインフェイズは飛ばします。……アタックフェイズで、ジェクトがアタックします」
「受けるぜ! 3ダメージ目だ!」
「……くすっ。……魔界幻士を出します。おわり」
「オ、オレのターン!」シーモア2枚目きた。なんでこう重なるかな。「シーモア切って、砲撃士だ! ターンエンド!」
「……くすくす。……ぼくのターン。……第1メインフェイズは飛ばします。……アタックフェイズで、ジェクトがアタックします」
「う。ちびの竜騎士でブロックするぜ! ジェクトのアタックでブレイクする!」
「……はい。くすっ。おわり」
「笑ってんじゃねーぞ! オレのターン! 砲撃士切って、今度はシーモアだ! 対象はルビカンテ!」
「……うわ。3枚目持ってたんだ。……ルビカンテはブレイクされます」
「うしゃ! カイン、ヘイスト竜騎士、先制竜騎士の3体でパーティアタックだ!」
「……はい。4ダメージ目です」
「フォワードの追加はなし! ターンエンドだ!」
「……ぼくのターン。……アーヴァインを出します。対象は、先制の竜騎士です」
「ぐう。先制竜騎士ブレイク!」
「……アタックフェイズです。……ジェクトでアタックします」
「うぐう。受ける! こっちも4ダメージ目……、うおわ!」ダメージゾーンに、ウォーリアオブライト(1-151R)が出た。「そんなとこに出ちゃダメえええ!」
「くすっ。……ハシュマリムを捨てて、バックアップ1枚倒して、バルバリシアちゃんを出します。おわり」
「オレのターン! ルールーを出すぜ! これでフォワードはすべて+1000だ!」気休めだ。どうせジェクトには適わない。「カインとヘイスト竜騎士でパーティーアタック!」
「……受けます。5ダメージ目」ダメージゾーンに、またしてもスカルミリョーネ。「……あう」
「うっし! ターンエンドだ!」
「……ぼくのターン。……第1メインフェイズは飛ばします。……アタックフェイズで、ジェクトがアタックします」
「どんどんこい! 受け切ってや」ダメージゾーンに、フライヤが出ちゃった。「……る、……ぜ」
「くすっ。おわり」
 まあいい。どうせフライヤの2枚目と3枚目はデッキの底だ。スペシャルアビリティ撃てないフライヤなど、ただのネズミ女だ。
「でえい! オレのターン! リチャードを出す! もういいや! ちび竜騎士も出す! おるぁ! ターンエンドだ!」
「……ぼくのターン。はい、ゴルベーザ」
 ドーン!
 きちゃった。ついに出ちゃった。間に合わなかった。
 これであちらのフォワードは、ゴルベーザ(2-105S)、ジェクト、バルバリシア。
 こちらのフォワードは、カイン(2-070E)、リチャード、ヘイスト竜騎士(1-122C)、竜騎士(2-082C)。
 嫌な予感がぷんぷんする。
「……アタックフェイズで、ジェクトがアタックします」
「う、受ける! 6ダメージ目!」
「……あと、エアリスちゃん出します。おわり」
 こうなったら、奇跡だ! 奇跡を起こすんだ! 海よ割れろ!
「オレのターン!」クリュプス引いた。「ヘイスト竜騎士出すぜ! ターンエンド!」
「……ぼくのターン。カイナッツォを出します。ルビカンテを出します。……アタックフェイズです。ジェクトがアタックします」
「ちび竜騎士どーん!」竜騎士(2-082C)がブレイクされる。「オレのターン!」クリュプス引いた。「またちび竜騎士出すぜ! ターンエンド!」叫びすぎて喉が痛くなってきた。
「あ。エンド前に、ゴルベーザのアビリティを使います。カイナッツォをブレイクして、カインをブレイクします」
「ブレーイク! 今度こそターンエーンド!」声が震えてきた。
「……ぼくのターン。……スカルミリョーネ出します。……アタックフェイズです。ジェクトがアタックします」
「ダメージセブン!」声がかすれてきた。
「……更に、ゴルベーザのアビリティを使います。スカルミリョーネをブレイクして、リチャードをブレイクします。……予言士出します。全員アクティブにします。……あと、カイナッツォ出します。おわり」
 どんだけ出てくるんだ四天王。ご主人様に蹴っ飛ばされるために出てくるなんて、ドMか。公開SMプレイか。
「オレのターン!」3連続クリュプス引いた。奇跡おこった。「タァァァーンエンドォォォォーん!」泣き声になってきた。
「あ。エンド前に、ゴルベーザのアビリティを使います。……カイナッツォをブレイクして、ヘイスト竜騎士をブレイクします」
「ブレーイク! うわあーん、えーん、ド!」泣いた。
「……ぼくのターン。くすくす。ジェクトでアタックします。くすくす。ゴルベーザでアタックします。バルバリシアちゃんでアタックします。くすくす」
「ジ・エンド!」終わった。
 おなら出るまでもなく終わった。
 道房は、膝から崩れ落ちた。

デッキレシピ

■竜騎士デッキ/氷柱ドラゴンスリーブ

フォワード 25枚
 【雷】フライヤ[アンコモン 3CP]3枚
 【雷】カイン[スペシャル 7CP]2枚
 【雷】カイン[エントリー 3CP]2枚
 【雷】リチャード[レア 4CP]3枚
 【雷】竜騎士(ヘイスト)[コモン 3CP]3枚
 【雷】竜騎士(先制)[コモン 3CP]3枚
 【雷】竜騎士(ヘイスト)[コモン 2CP]3枚
 【雷】竜騎士(先制)[コモン 2CP]3枚
 【光】ウォーリアオブライト[レア 4CP]3枚

バックアップ 16枚
 【雷】シーモア[レア 4CP]3枚
 【雷】イデア[アンコモン 4CP]2枚
 【雷】フースーヤ[アンコモン 3CP]2枚
 【雷】ルール-[アンコモン 3CP]3枚
 【雷】賢者[コモン 4CP]3枚
 【雷】砲撃士[コモン 2CP]3枚

召喚獣 9枚
 【雷】オーディン[アンコモン 7CP]3枚
 【雷】オーディン[レア 3CP]3枚
 【雷】クリュプス[アンコモン 3CP]3枚


■ゴルベーザデッキ/輪るピングドラムスリーブ

フォワード 24枚
 【火】ルビカンテ[レア 4CP]3枚
 【火】ジェクト[レア 4CP]2枚
 【風】バルバリシア[レア 3CP]3枚
 【風】リノア[スペシャル 3CP]3枚
 【土】スカルミリョーネ[レア 2CP]2枚
 【土】ヴィンセント[レア 5CP]2枚
 【水】カイナッツォ[レア 2CP]3枚
 【水】ユウナ[スペシャル 3CP]1枚
 【水】バイキング[コモン 2CP]2枚
 【闇】ゴルベーザ[スペシャル 8CP]3枚

バックアップ 18枚
 【火】アーヴァイン[アンコモン 3CP]2枚
 【火】赤魔導師[コモン 2CP]2枚
 【風】エアリス[レア 3CP]3枚
 【風】予言士[コモン 2CP]2枚
 【土】シャントット[スペシャル 6CP]2枚
 【土】セルフィ[アンコモン 2CP]3枚
 【水】ミンウ[レア 3CP]1枚
 【水】魔界幻士[コモン 2CP]2枚
 【闇】カオス[エントリー 2CP]1枚

召喚獣 8枚
 【風】アスラ[レア 1CP]2枚
 【土】統制者ハシュマリム[コモン 1CP]3枚
 【水】フェアリー[コモン 2CP]3枚

FFTCG


 弁髪の拳法家ニーハオ・佐藤は、膝から崩れ落ちた。
 ごとりと、酸素マスクが落ちる。
 自決のつもりだったが、空気清浄機のランプが緑色になっていた。まだ異臭は残るもののスメル・木村のにおいは収束しつつある。
 なんという、屈辱……。
 ニーハオ・佐藤は、あまりの悔しさに歯を鳴らした。
 私のヤンが通用しないとは。9枚もヤンを入れたヤンのためのヤンデッキが、男の中の男デッキが、ガチガチの脳筋デッキが、2連敗してしまうとは。
 ティファの素晴らしい立体映像による、ぷるんぷるんやたぽんたぽんやナマ脚に目を奪われたのは確かだ。スペシャルレアのティファは、そのアビリティ以上に存在自体が最強だった。
 けれど、彼のフォワードを焼き尽くしたのは、ふたりの軟弱男子たち。ホモい男たち、つまりザックスとクラウドだった。
 戦略は完璧だった。
 ケフカを出してからの2コスヤンのアタックでレベルアップし、再び2コスヤンを出す。ケフカをちらつかせた2コスヤンでアタックしてレベルアップし、今度は4コスヤンで娘をリンク、モンクが出そろっていれば5コスのヤンを出して残虐超人時代のラーメンマンをも凌ぐスーパーモンクっぷりを披露する。
 しかし、そんな暇はなかった。
 ケフカを出せたころには、ほぼ勝負が決まっていた。
 唇を噛み血を流しつつ、クールな表情で勝ち誇るソルジャー・村田を睨む。カッコよく酸素マスクを外し、洞窟のように黒々と開いた鼻の穴からキューティクルヘアーの鼻毛をそよがせて、さっと金髪を掻き上げている。
 しかし、真の敵は彼じゃない。
 ニーハオ・佐藤は怒りの矛先を、隣のテーブルで対戦相手に向かってくすくす笑っている小太りの男に向ける。
 スメル・木村。
 こいつだ。こいつの強烈な体臭が、すべてを狂わせた。こいつのにおいでやられた時、脳細胞のほとんどがやられた。なにしろ、2度も息の根を止められそうになったのだ。
 ……殺すか。
 2度に渡る殺人未遂を断罪する。これは正当防衛だろう。
 拳を強く握りしめたニーハオ・佐藤は、細い目を血走らせて立ち上がる。
 今の私は、正義のヤンではない。バロンの酒場で登場したヤンだ。HPカンストのヤンだ。普段たいして強くないのに敵になってる時だけ都合よく最強にパワーアップしたけりを持つ、暗黒のヤンなのだ。
「死ねぇい! どうらぁーっ!」
「あ」
 ぷっすぅ~。
 ニーハオ・佐藤はカウンターを受けて即死した。

デッキレシピ

■ソルジャーデッキ/セフィロススリーブ

フォワード 26枚
 【火】ザックス[スペシャル 5CP]2枚
 【火】ザックス[レア 4CP]3枚
 【火】ザックス[アンコモン 3CP]1枚
 【火】ティファ[スペシャル 5CP]1枚
 【火】ティファ[コモン 2CP]3枚
 【火】クラウド[コモン 2CP]1枚
 【火】レッドXIII[レア 3CP]3枚
 【火】ソルジャー3rd[コモン 3CP]3枚
 【火】バーサーカー[コモン 2CP]3枚
 【光】クラウド[スペシャル 4CP]2枚

バックアップ 15枚
 【火】ビビ[アンコモン 2CP]2枚
 【火】レブロ[アンコモン 2CP]3枚
 【火】砲撃士[コモン 3CP]1枚
 【火】赤魔導師[コモン 2CP]3枚
 【火】黒魔導師[コモン 2CP]3枚
 【火】狩人[コモン 2CP]3枚

召喚獣 9枚
 【火】ブリュンヒルデ[アンコモン 3CP]3枚
 【火】イフリート[コモン 2CP]3枚
 【火】魔神ベアリス[コモン 2CP]3枚


■ヤンデッキ/レッドドラゴンスリーブ

フォワード 26枚
 【土】ヤン[レア 5CP]3枚
 【土】ヤン[アンコモン 4CP]3枚
 【土】ヤン[コモン 2CP]3枚
 【土】アーシュラ[アンコモン 2CP]3枚
 【土】プリッシュ[スペシャル 6CP]3枚
 【土】サラマンダー[アンコモン 6CP]1枚
 【土】エイト[アンコモン 3CP]2枚
 【土】モンク[コモン 2CP]3枚
 【土】いにしえの忌子[コモン 2CP]3枚
 【土】黒衣の男[レア 5CP]2枚

バックアップ 15枚
 【土】シャントット[スペシャル 6CP]2枚
 【土】ケフカ[レア 4CP]3枚
 【土】ムスタディオ[アンコモン 5CP]1枚
 【土】エーコ[アンコモン 2CP]1枚
 【土】モンク[コモン 2CP]3枚
 【土】モンク[コモン 2CP]3枚
 【土】パンネロ[コモン 1CP]2枚

召喚獣 9枚
 【土】ゴーレム[レア 6CP]2枚
 【土】ゴーレム[コモン 1CP]3枚
 【土】カーバンクル[コモン 3CP]2枚
 【土】ヘカトンケイル[コモン 3CP]2枚

FFTCG


「相性が悪かったわ」
 湯布院有樹は酸素マスクを外し、声優のような凛とした声でそういった。
 対戦テーブルの向こうのクイーン・渡辺は、有樹に睨まれると、さっと視線をそらした。ほほが赤い。
 きもい。
 有樹は対戦中、睫毛が濃く口髭が濃く胸毛が濃いクイーン・渡辺に対する生理的嫌悪を払拭できないまま、屈辱的な2連敗を喫した。
 黒チョコボのパーティーアタックでダメージを与え、バッツで守り、1コスト~2コストのフォワードを並べたあとの密告者シュミハザでとどめをさす。それが基本戦略だった。お気に入りのユフィも、コスト1のものを選んで入れてある。
 しかし、クイーン・渡辺のデッキには、マキナがいた。
 使い手の濃い顔にはまったく似合わぬ、イケメンのキャラクターだ。
 マキナのスペシャルアビリティを浴び、有樹のフォワードたちは2戦で3回全滅した。シルドラは意味がない。隠し持ったシュミハザまで、捨てさせられた。
 ヴァルファーレを引いていれば、先にドルガンを引いていれば、結果は変わったかも知れない。
 悔しい。
 たまらなく悔しい。
 有樹は、我慢できなかった。
 微笑を浮かべ、三つ編みの髪を揺らしながら、ゆっくりとした足取りでクイーン・渡辺に近づく。
 上半身裸の衣装を着たフレディ・マーキュリーのそっくりさんは、うつむきながらちらちらと有樹を見て、もじもじと脚をこする。
 ああきもい。すごいきもい。見かけによらず、すっごいシャイじゃん。パフォーマンスで叫んでるのも、照れの裏返しじゃないの? ほんときもい。
 そんなきもいあなたに、死の宣告を与えてあげる。
 声優を目指すボイストレーニングの過程で、彼女の声量は常人の数倍にも達していた。耳元で叫べば、鼓膜をも破る威力を持つのだ。
 有樹は、色っぽく唇を舐めた。
「ねぇ、渡辺くぅん。あなた、すごいのねぇ」
「……べ、別に。普通だし」
 顔を真っ赤にしてこの減らず口。中学生か。
「ふふ。おめでとぉ、渡辺くぅん。ね、こっち向いてよぉ。祝福。してあげちゃうよ?」
「……え? え、そ、れって。……え?」
 前屈みになった。中学生か。
「ふふっ。……あたしの分まで頑張ってね!」
 そっと、クイーン・渡辺の耳元に唇を寄せる。
 そして、思いっ切り息を吸い込む。
 死ねい! このくされ外道がぁ!
「あ」
 ぷっすぅ~。
 有樹はスメル・木村のおならを肺に満たし、即死した。

デッキレシピ

■チョコボデッキ/博士ススリーブ

フォワード 27枚
 【風】チョコボ[プロモ 3CP]3枚
 【風】チョコボ[コモン 1CP]2枚
 【風】黒チョコボ[コモン 1CP]3枚
 【風】イザナ[アンコモン 2CP]3枚
 【風】ジタン[スペシャル 2CP]3枚
 【風】バッツ[レア 5CP]3枚
 【風】白魔導師[コモン 1CP]3枚
 【風】ユフィ[コモン 1CP]3枚
 【光】ドルガン[レア 3CP]2枚
 【光】ミネルヴァ[レア 7CP]1枚

バックアップ 15枚
 【風】マリア[レア 4CP]3枚
 【風】エアリス[レア 3CP]3枚
 【風】リュック[レア 2CP]3枚
 【風】弓使い[コモン 2CP]3枚
 【風】予言士[コモン 2CP]3枚

召喚獣 9枚
 【風】シルドラ[レア 2CP]3枚
 【風】ヴァルファーレ[アンコモン 5CP]3枚
 【風】密告者シュミハザ[コモン 1CP]3枚


■クィーン+マキナデッキ/レーシングミクスリーブ

フォワード 25枚
 【氷】マキナ[スペシャル 4CP]3枚
 【氷】マキナ[プロモ 3CP]1枚
 【氷】クイーン[レア 3CP]3枚
 【氷】クイーン[アンコモン 2CP]1枚
 【氷】スコール[スペシャル 3CP]2枚
 【氷】ヴァイス[レア 6CP]2枚
 【氷】ティナ[レア 3CP]2枚
 【雷】ナイン[レア 4CP]3枚
 【雷】サイス[アンコモン 2CP]3枚
 【雷】魔法剣士[コモン 2CP]2枚
 【光】セシル[プロモ 4CP]3枚

バックアップ 18枚
 【氷】ジル・ナバート[アンコモン 2CP]2枚
 【氷】ドクター・シド[アンコモン 2CP]1枚
 【氷】ハーディ[レア 2CP]2枚
 【氷】魔界幻士[コモン 3CP]2枚
 【氷】学者[コモン 2CP]2枚
 【雷】シーモア[レア 4CP]2枚
 【雷】ガーディ[コモン 2CP]3枚
 【雷】黒魔導士[コモン 2CP]3枚
 【雷】砲撃士[コモン 2CP]1枚

召喚獣 7枚
 【氷】背徳の皇帝マティウス[コモン 5CP]1枚
 【雷】クリュプス[アンコモン 3CP]3枚
 【雷】オーディン[アンコモン 6CP]3枚

FFTCG


 くぐもった歓声が、背後から響いてくる。
 決闘場をあとにする道房は、失神した湯布院有樹を背負い、死体になったニーハオ・佐藤を引きずりながら、警備員が守る退場ゲートをくぐった。
 重い。
 弁髪のおっさんは手汗でぬるぬるするし、背負ってる女の子はゴツゴツした感触でちっとも楽しくない。股間にぶら下がる竜も、すっかりしょげている。
 あの野郎。
 道房は、スメル・木村の最後の言葉を思い出す。
「……誰だか知らないけど。くすっ。……最初からおかしいと思ったんだ。いつものアイーンやらないから。……偽物なんでしょ? 本物の山田さんは、もっと強いしね。くすっ。……まあいいや。……なんかぼく、今日のあなたを見て、……考えが変わりました。あなたみたいなひとでも、恥ずかしげもなく生きていけるんですね。ちょっと自信出ました。くすくす。……もうぼく、ひとまえでおならしません。あなたみたいに、笑われたくないですから。くすくすくす。あ」
 ぷっすぅ~。
 屁こきやがった。
 決意表明と同時にケツ意が崩れやがった。
 と同時に、なんかこの二人が倒れた。
 溜まってたにおいが凝縮した濃厚で重厚な屁ではあったが、気絶するほどではない。ソルジャー・村田やクイーン・渡辺は、一命を取り留めている。こいつら、よほど思い切り吸い込んだのだろうか。
 お蔭でドラゴン・山田に化けた道房が、ふたりを抱えて退場しなくてはいけなくなった。係員まるで役にたたねえ。敗者に厳しすぎ。
 しかし、無事に控え室まで戻れるだろうか。
 ひとけのない廊下の角を、おそるおそる曲がる。
 待ち伏せに遭ったら有樹と佐藤を放り投げて逃げるつもりだったが、そこに夜叉の姿はなかった。
 ほっと胸をなで下ろす。
 諦めたのか、呆れたのか。
 どちらにせよ、命が助かった。もちろん、命と書いてタマと読む。
 とっとと着替えて退散しよう。姪もまさか家の中までは追ってくるまい。この変態衣装も早く脱ぎたい。
 湯布院有樹とニーハオ・佐藤をそれぞれの控え室の前に捨て、自分の控え室に入る。
「道房くん、おつかれさまっ!」
 可愛い女子高生が、笑顔で出迎えてくれた。
 道房は、膝から崩れ落ちた。


Chapter 6:飽くなき倦怠の中で へつづく。

 

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コメント / トラックバック2件

  1. PIYO より:

    タグがFF14になってるヨ!

  2. stonecold より:

    へぶう!
    まだFF14に未練があるということか! だが直した!

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