Chapter 6:飽くなき倦怠の中で

2012年03月09日 00:11:55 | 【カテゴリー: ファイナルファンタジー・トレーディングカードゲーム
この記事の所要時間: 約 23分7秒

 これは、とあるカードゲーマーの家にある12個のデッキから生まれた物語である。
 もちろん、オールフィクションであり、脳内妄想であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありませんし、精神に異常をきたしてもいません。

FFTCG
Chapter 6:飽くなき倦怠の中で

『いやー、解説のファイナル・大沢さん! 予期せぬ中断を得て、やっと第2戦、第3戦、第4戦が終わりましたねえ! 一時はどうなることかと思いました!』
『実況の古鼬さん! ティファ! すごかったティファ! 3D映像、ぼいんぼいんのたぽんたぽんだったじゃないすか!』
『それしかないんか! えー、それにしてもスメル・木村は強烈でした! おそらく運営も予期してたんでしょうねえ、対戦が始まると同時に透明の壁をステージの周りにおっ立て、客席ににおいが届かないようにしました。しかし! 逆にいえば、ステージの中のプレイヤーたちは逃げ場がなくなってしまった、ということでして。……って、ファイ沢! お前が解説しろよ!』
『ティファの魅力についてっすか? いいっすよ! まずあのおっ
『やっぱ黙れ! なんでこんなやつが解説だよ! もういい、俺ひとりでやる!』
『なにいってんすか、古鼬さん。あんただって、ティファの胸に釘付けだったじゃないすか。一緒に前屈みになってガン見してたじゃないすか』
『んなことねーよ! お前だけだろ! いいから解説しろよ! ティファ以外に目を向けろよ! 報酬カットするぞ!』
『はい、やっと第2戦、第3戦、第4戦が終わりましたね! スメル・木村のにおいにより5人が倒れ、一時はどうなることかと思いましたが、急遽用意された空気清浄機64台、消臭力512個の効果により、無事対戦を終えることができました』
『あこぎか! いきなり詳しいじゃねーか! いつの間に数えたんだよ!』
『資料がきてるっすよ、実況の古鼬さん。ちゃんと仕事してください』
『うるせーよ! 金で態度変わりすぎだろ!』
『というわけで、トーナメントの初戦を勝ち抜いたのは、ダークネス・鈴木、スメル・木村、ソルジャー・村田、クイーン・渡辺の4人っす。次の試合からは、いよいよシードの選手が出てきます。これは楽しみですねー! 先だって、第5戦と第6戦が同時に行われます。ダークネス・鈴木VSダルダル・武藤と、スメル・木村VSロワール・田中です! 前回準優勝のダルダル・武藤は、氷属性のカードをよく使うプレイヤーです。エクスデスを擁するダークネス・鈴木を相手に、どんな戦いを見せてくれるのか! チビッコバイキングのコスプレをしたロワール・田中は、見た目通り水属性をよく使います。大会最年少の彼は女性ファンが多いようですから、スメル・木村が酷いことをすれば、怒り狂った女性客の乱入もありえます! いやあ、どうなるんでしょう! 期待で胸が膨らむっすねー!』
『どんだけ饒舌だよ!』
『実況の古鼬さん。うるさいっす』
『めんどくせーなーもう! おーっとぉ! 今まさに満員のスーパー武蔵小金井ドームに流れ出したのは、「覇王エクスデス」! このテーマとともに現れるのは、もちろんこの男だーっ! ダークネス・鈴木、2度目の入場っ!』
『マジうるさいっす』
『いいんだよ! 実況はこれでいいの! これが俺の生き甲斐なの! おおーっと! ダークネス・鈴木、黒いローブ姿で余裕の足取りだーっ!』
『ああっ! 実況の古鼬さん、たいへんっす! たいへんなことに気付いたっす!』
『なんだよ!』
『この2試合、ティファ出ないっす。興味ないんでうんこしてきます』
『お前もう帰れ!』


 あーダルい。
 ダルダル・武藤は、憂鬱そうな顔で決闘場に立っていた。
 小柄で猫背の彼は、もっさもさの髪に寝癖がひどく、頭が大きく見える。白い開襟シャツにジーンズというラフな姿。不思議と清潔感があるのは、痩せた身体と血の気のない顔色のせいかも知れない。
 武藤が使うデッキは、プラモデル1/144ガンダムのパッケージが印刷されたスリーブに包まれている。こだわりはない。好きで選んだのではない。たまたま余ってたスリーブに入れただけだ。このスリーブをいつ手に入れたかも、記憶にない。
 テキトーにシャッフルしたそのデッキをデュエルテーブルにセットした武藤は、死んだ魚のような目で床を見つめる。
 対戦相手はもとより、隣のテーブルに誰がいるかも気にならず、声も音も聞こえない。
 ダルい。かなり待たされた。かなり眠れた。けれど、眠ったお蔭で余計に眠くなった。ダルい。シャツのボタンがひとつずれてるけど直すのが面倒くさい。立っているのが面倒くさい。目を開けているのが面倒くさい。早く帰りたい。早く布団の中に入って目をつぶりたい。ダルい。もうどこでもいい。地面さえあれば眠れる。夢の続きを見れる。さっき見た夢、どんな夢だったっけ。ダルいダルいダルい。思い出すのが面倒くさい。あーダルい。
『ディール!』
 天井から轟く大声に、武藤は我に返った。瞳にすうーっと光が戻る。
 人生の90%が面倒くさいことだと思う武藤でも、TCGは残りの10%に入る。TCGは好きだ。プレイするのも、デッキを構築するのも好きだ。だけど、会場へ移動するのは面倒くさい。出かけるために着替えるのが面倒くさい。ひとと会話するのが面倒くさい。朝起きるのも面倒くさい。
 その、数々の面倒くささを乗り越えてここへやってきた。
 やっと楽しめる。
 顔を上げると、デュエルテーブルの向こうに黒いローブを着たダークネス・鈴木がいた。
「ケケケケッ。おはよォう、武藤くん。目は覚めたかなァ?」
「うざっ」
 武藤がそう言い捨てると、ダークネス・鈴木の表情が凍り付く。
「お、おォい。アンタも毒舌キャラかよォ。ゲームなんだ、楽しくやろォぜェ」
「ああ。TCGは楽しい」
「……そう見えねェけどな」
 客席と一体になる「最初はグー」のじゃんけんで、武藤は勝ちを収めた。先攻を選ぶ。
『デュエル、スタート! ターン1! ダァルゥダァルゥ・ムートゥッ! ァエーンド! ルルルロワールゥ・タナーカァ! ドゥロォー!』
 ふたつのテーブルで、対戦がスタートした。
 武藤は配られた5枚のカードを見る。ティナ、ジル・ナバート、幽玄の道化、ヴェイン、ヴェイン。イマイチだが、マリガンするのは面倒くさい。このまま行こう。
「ジル」
 ヴェインをコストにバックアップのジル・ナバートを出し、ターンエンドした。
 浮かび上がるジル・ナバートの立体映像は、武藤の目には映らない。ただの絵だろ。カードにも描いてある。それが感想だ。
「ケケッ。それじゃあ、いかしてもらうぜェ。うたかたの召喚士を切って、魔界幻士! 審判の霊樹エクスデスを切って砲撃士だァ!」
「うざっ」
 叫び声がうるさかったので、つい口に出てしまった。でも相手の反応なんか気にしない。
 武藤のターン。ドローした2枚のカードを引くと、3枚目のヴェインが含まれていた。
「ダルい引きだ。幽玄」
 カトル・バシュタールを捨て、幽玄の道化をバックアップゾーンに出す。これでターンエンド。
「……ケッ。ペース乱されるぜェ」ダークネス・鈴木は、隣のテーブルと武藤を交互に見る。「なにもせず、ターンエンドだッ!」
「ティナ」
 クジャ(4-020R)コストに使い、切ってフォワードゾーンにティナを出す。
「ケッ! オレ様のターン! ……し、仕方ねェ。バック2枚倒して青魔導士切って賢者! 賢者の効果で、うたかたの召喚士を戻すぜェ! ……で、フェアリー切ってうたかたの召喚士だァ! こいつの効果で、デッキから召喚獣を探してェ……」しかし武藤のフォワードゾーンにいるティナは、召喚獣には選ばれないという特性を持っている。「ケッ! デッキの一番上に、フェアリーをセットするぜェ!」
「へた」
 ぽろっと、武藤の口が滑る。
「はァ? し、仕方ねェっていってんだろォ! 引きが事故ってんだよォ! ターンエンドだァ!」
「モンク」
 武藤はバックアップを2枚倒し、バックアップゾーンにモンク(1-100C)を出す。
「ケッ! オレ様のターン! 赤魔道師を出すぜェ! ターンエンドだァ!」
「ジェネシス」フォワードを出し、うたかたの召喚士を指さす。「ティナ、アタック」ダークネス・鈴木に1ダメージを与え、ダメージゾーンにはシーモアがめくれた。
「ケケケッ! オレ様のターン! ジェネシス出すの早かったんじゃねェのかァ? シーモアは、手札にもあるぜェ! 対象は、ジェネシスだァ!」
 アビリティで消すなら、召喚獣に耐性を持つティナだろう。ジェネシスなんていつでも落とせる。アホか。
 ダークネス・鈴木がターンエンドを宣言し、武藤のターン。面白いカードを引いた。
「ジタン」
「……ゲエッ!?」
 武藤がフォワードゾーンに置いたのは、旧環境で最強を誇っていた風属性のジタン(1-060S)ではなく、光輝くジタン(4-099R)だった。
 そのアビリティは、相手の手札を公開させ、好きなカードを捨てさせるという盗賊らしいものだった。つまり、相手は奥の手を晒した上でそれを破棄されてしまう。たまったものではない。
「ハンド見せろ」
「……うぐゥ」
 ダークネス・鈴木の手札には、やはり闇エクスデス(3-103S)が混ざっていた。武藤はそれを指定する。
 ファンデッキでもコンセプトデッキでもいいが、主力を数枚捨てられた程度で勝てなくなるようなデッキはダメだ。主力を強化するためのカードなんていらない。それ単体で仕事をするカードのみが、デッキに入る価値がある。
 頼むから、これしきで弱体しないでくれよ。
 武藤は更にティナでアタックし、ダークネス・鈴木に2ダメージ目を与えた。
「……ひでェな」
 ダークネス・鈴木が、ぼそっとつぶやいた。
「なに」
「アンタじゃねェよ。……隣がよォ」
「隣? 関係ないね」
 他人のことに注意を向けている場合か。まじめに戦え。集中しろ。
「冷てェなァ。ケッ。オレ様のターン!」
 ダークネス・鈴木は、うたかたの召喚士を切ってかりそめの魔女を展開。ティナを指定し、次の武藤のターンにアクティブにさせなくする。
 次に自分のシーモアを犠牲にして砲撃士(4-078C)のアビリティを使い、でジタンをブレイクした。そしてうたかたの召喚士でアタック。武藤は1ダメージ目を受けた。
「どうだァ! エクスデスがいなくても、これくらいのことはできんだぜェ! ケケケケケ-ッ!」
「やっぱへた」
 武藤は苦笑する。
 今のダークネス・鈴木の攻撃は成立しない。プレイミスだ。なぜなら、こちらのバックアップにジル・ナバートがいるからだ。バックアップからのダメージは受けない。
 隣のテーブルなんかに気を向けてるからだ。まあいい。突っ込むのが面倒くさい。ハンデをやろう。そうでもしないと面白くない。
 武藤はジェネシスを出す。アビリティの対象は、かりそめの魔女。
「ケッ! 2枚目か……。今出すカードじゃねェんじゃねェか? 魔界幻士出して、ターンエンドだァ!」
 次のターン、武藤はジェネシスでアタックする。ブロックできないダークネス・鈴木は3ダメージを受けるが、ダメージゾーンに憤怒の霊帝アドラメレクが出る。EXバーストだ。しかし、対象となるフォワードがいない。アクティブなのは、召喚獣に選ばれないティナのみだった。
「ケッ! EXバーストは使わねェ! アンタ、運がいいみてェだなァ!」
「ハンド1枚」
「わかってるぜェ! ジェネシスのアビリティだろォ! 1枚捨てるぜェ!」
「ティナ、アタック」
「グッ! 受けるぜェ! ……ダメージは、ゲエッ!? どこまでツいてやがるんだァ!」ダメージゾーンに、闇エクスデス(3-070R)が置かれる。
「ヴェイン」
 武藤はヴェインを出してターンエンドした。
「ケッ! ツいてねェぜ……。たまゆらの雷光を出すぜェ! ターンエンドッ!」
 武藤はカードを2枚取る。これで手札は、シヴァ(1-033U)3枚、ゴーレム(1-089C)2枚、ゴーレム(4-057U)1枚、プリッシュ1枚という豪勢なものになった。たいていのことには対応できる。
「まあいいや。ヴェイン、アタック」
「ケケケッ! うたかたの召喚士でブロック! そして割り込むぜェ! ファムフリートだァ!」
 ダークネス・鈴木は自分のフォワードゾーンからうたかたの召喚士を選びブレイクゾーンへ置いた。うたかたの召喚士はいなくなるが、ブロックは成立する。
「待て。まあいいか。ゴーレム」
「……はァ?」
 割り込みだ。6コストのゴーレム(4-057U)を出し、ヴェインを選ぶ。パワー8000に+2000されたダメージを、たまゆらの雷光へ与えた。たまゆらの雷光はブレイク。そうしてから、武藤はジェネシスをブレイクゾーンへ置いた。
 フォワードがいなくなった相手に、ティナでアタック。ダークネス・鈴木に5ダメージ目を与えた。
「ケッ! このまま終わるとか思ってんじゃァねェだろォなァ! ここまでは想定の内ィ! ドらァ、エクスデスだァ!」
 フォワードゾーンに現れたのは、紫色のエクスデス(3-070R)。
「イミテーションは?」
「……訊くんじゃねェよ。察しろォ。ターンエンドだァ!」
「シヴァ」
 武藤はシヴァ(1-033U)を召喚し、エクスデス(3-070R)をダルにする。
 ダークネス・鈴木が白目を剥いた。
 ヴェインでアタックして6ダメージ目。ティナのアタックはかりそめの魔女でブロックされたが、幽玄の道化で+1000されたティナはかりそめの魔女をブレイクする。
 ダークネス・鈴木のターン。
 カードを引いた彼の手が、小刻みに震える。
「……ねェ! ねェよォ! オレ様の負けだァ!」
 どうやらフォワードを引けなかったようだ。ダルになったままのエクスデス(3-070R)だけでは、武藤のアタックを凌ぎ切れない。
 武藤は渋い表情を浮かべる。
 つまらない戦いだった。ティナが最後までもつなんて、初めてかも知れない。こいつともう1戦しなければいけないかと思うと、面倒くさくなってきた。
 確かこいつ、今日1戦勝ち抜いてるんだよな。こいつに負けるなんて、どんだけ弱いやつだったんだ。どんだけへたクソなんだ。どんだけ人類の底辺なんだ。逆にどんなやつか見てみたい。じっくり様子を見ながら戦ってみたい。
 いや、そんなやつと戦っても時間の無駄か。
 本当に戦いたいやつは、この会場内にいる。
 オレをTCGの世界に引きずり込んだ張本人が。退屈という名の底なし沼に沈むオレを救い出してくれたやつが。
 彼の口元に、不敵な笑みが浮かぶ。
 戦いたい。勝ち続ければ、きっと戦えるはずだ。そのためになら、へたクソとも戦ってやろう。
 と、その時。
 ぶぶっぴぷぅ~。
「エンッ!」
 鼻の奥に銃弾を撃ち込まれたような衝撃を受け、武藤は意識を失った。

『アクシデント発生! アクシデント発生! みなさま、よくお聞き下さーい』
 サイレンとともに、会場中にアナウンスが流れた。
 気を失っていた武藤は、はっとして目を覚ます。
 なんかじいちゃんと逢ってた気がする。もっとちゃんと生きろ。そう説教されてた気がする。
『えー、みなさま。総合アナウンスの後藤です。申し訳ありません。この大会のために開発したデュエルテーブルですが、えーと、まあ事故です。事故で、不具合が発生しちゃいました。いやあ、まいりましたねー。困りましたねー。しゃーないんで、ルールの変更を行っちゃいます。えーっと、ノーシャッフルデスマッチを解除します。次のバトルから、ふつーにシャッフルしちゃってください。あ。8ダメージで負けとか、判定のルールはそのままでーす』
 なんのことだ。
 目をこする武藤は、自分の口に酸素マスクが装着されていることに気づく。
 決闘場の周りに、轟音をあげる空気清浄機。身体を起こすと、テーブルの向こうのダークネス・鈴木も、酸素マスクをつけて頭を抑えている。
「……よォ、武藤くん。起きたかァ。お隣さん、やっぱやっちまったようだぜぇ。……ま、相手がいけねーな」
 ダークネス・鈴木が、肩をすぼめてそういった。
「隣?」
「スメル・木村だよォ。……あいつがブチ切れた。それだけだァ」
 隣のテーブルで対戦していたやつか。武藤は興味を引かれない。
「終わった?」
「あァん? ……まあ、終わったんだろォなァ。あれじゃァなァ」
「そうか。2戦目だ」
 武藤がぼんやりした目でそういうと、ダークネス・鈴木は軽く頭を振って苦笑した。
「ケッ。アンタ、目の前の対戦にしか興味ねェのかよォ。イカレてるなァ。……ま、いいかァ。ノーシャッフルデスマッチがなくなったんならァ、オレ様のやる気も戻ってくる、ってもんだぜェ。ケケケケッ」
 ぼさぼさの頭を掻く武藤は、少し嬉しそうにしている対戦相手の言葉を反芻し、気づく。
 ノーシャッフルデスマッチがなくなる? そういえば、さっきのアナウンスがいっていた。そうか。エクスデスか。早いターンでケリがついたから、ダメージゾーンやブレイクゾーンに置かれたエクスデスが使えないまま2戦目を始めなくてはいけなかったのに、それがリセットされる。だからダークネス・鈴木は喜んでいるのか。
 酸素マスクをつけた係員がやってきた。なにやらわめいたあと、詳細な説明を始める。
 聞くのが面倒くさい。だが理解はした。シャッフルする以外は、特別ルールに変化はない。
 確認作業が終わり、やっと係員が引き上げた。
「マスク邪魔だ」
「……まだ取らねェ方がいいぜェ」
 視界の隅に、顔を真っ赤にした小太りの男がいた。あいつか。あの様子だと、確かに油断はできないな。
「わかった。シャッフルだ」
 武藤は、ガンダムスリーブに包まれたデッキをテキトーにシャッフルする。ダークネス・鈴木は、必要以上に何度も何度もシャッフルしていた。
『ディール!』
 開始を告げる声で、武藤の瞳にすうーっと光が戻る。
「ケケッ。先攻は、オレ様だァ。今度は、1戦目みたいに簡単には負けねェぜェ」
「是非お願いします」
 軽く頭を下げると、ダークネス・鈴木の顔が赤くなる。
「……なッ、なめやがってェ! いくぜェ! アドラメレク切って赤魔導師! ダーンエンドだァ!」
「幽玄」
 武藤は気怠そうに、幽玄の道化をバックアップゾーンに出す。
「オレ様のターン! ……ケケケケッ! 行くぜェ! 行くぜ行くぜェ! これがオレ様の本気の戦いだァ! エクスデス、降臨ッ!」
 ダークネス・鈴木は2枚のカードを切って赤魔導師を倒し、闇エクスデス(3-103S)をフィールドに出した。その圧倒的な存在感は、モザイクの立体映像でも健在だ。
「幽玄」
 武藤は気怠そうに、幽玄の道化をバックアップゾーンに出す。
「……ちょっとは反応しろよォ。まあいい。エクスデスでアタックッ!」
「EXバースト。エクスデス」
 ダメージゾーンにめくれたのは、シヴァだ。ダークネス・鈴木は息を飲み込んだ。いきなりシヴァのEXバーストを喰らい、エクスデスがダルにされた。次の自分のターンにも、アクティブにできない。
「ケッ! ま、まあいい。ターンエンドだァ!」
「ジタン。ハンド見せろ」
「なっ!? ……ひ、光ジタンかよォ! ケッ! ……好きなカードを選びなァ!」
 ダークネス・鈴木の手札には、エクスデス(3-070R)が含まれていた。これでグランドクロスを撃つつもりだったのか。だが、封じられる。困るのは、こっちだ。武藤は、審判の霊樹エクスデスを指定した。
「は? ……コイツでいいのか? ケッ! ずいぶんナメた真似するじゃねーかァ!」
 そういいながらも、ダークネス・鈴木は嬉々として霊樹エクスデスを捨てた。
 武藤がターンエンドすると、ダークネス・鈴木は魔界幻士(2-090C)を出してターンエンドする。フォワードの追加はない。
「ヴェイン。ジタン、アタック」
「ぐうッ!?」
 5コスト以上のフォワードをアクティブにさせないヴェインでエクスデスを封じ、光ジタン(4-099R)でアタックする。1ダメージ目が、ダークネス・鈴木に与えられた。
「ヴェインなんざ恐くねェんだよォ! シーモアだァ!」
 シーモアのアビリティで、武藤のヴェインがブレイクされる。けれどフォワードの追加はなく、ダークネス・鈴木はターンエンドする。
「ヴェイン。ジタン、アタック」
 武藤は当たり前のように2枚目のヴェインを出した。そして光ジタン(4-099R)がダークネス・鈴木に2ダメージ目を与える。
 しかし、勝負の女神は気まぐれだった。
「ケケケッ! オレ様EXバーストォ! フェアリーだぜェ!」
 フェアリーのEXバーストにより、封じていたエクスデスがアクティブになる。
「へえ」
「アンタの快進撃も、ここまでだァ! オレ様のターン! 行くぜェ! 発動ォッ! グランドクロスーッ! 宇宙の彼方へ吹っ飛びやがれェーッ!」ダークネス・鈴木が叫ぶ。
 相手のフォワードゾーンに立つモザイクから暗黒のオーラが広がると宇宙になり、複数の惑星が十字型に並ぶ。グランドクロスを使ったエクスデス以外のすべてキャラクターが、除外にされた。ブレイクゾーンごとだ。
「ガイ」
 武藤は何事もなかったかのように、カードを2枚捨ててガイを出した。
「……張り合いのねェ野郎だなァ。1戦目のおっさんの方がマシだったぜェ。まァいい。エクスデスでアタックだァ!」
 武藤に2ダメージ目が入る。
 ダークネス・鈴木はうたかたの夢想を出して、ターンエンドした。
「召喚士。ゴーレム。ガイ。エクスデス」
「……はァ?」
 武藤は召喚士(3-057C)のアシストを使い、6コストのゴーレム(4-057U)をコストなしで使用した。パワー8000のガイに+2000し、その10000を闇エクスデス(3-103S)に与える。
「ぐゥッ! ……エクスデスはブレイクかァ」
「ガイ、アタック」
 ブレイブを持ったガイが、アタックする。ダークネス・鈴木に、3ダメージ目が入った。
「オレ様のターンだァ! エクスデスは死んじゃいねェぜェ! 驚きやがれェ! エクスデス! お供は、たまゆらの雷光だァ!」
 ダークネス・鈴木はカードを3枚切ってエクスデス(3-070R)を出し、そのアビリティでたまゆらの雷光を出した。
「クジャ。エクスデス。ガイ、アタック」
 バックアップにクジャ(4-020R)を出し、エクスデスをダルにした。ガイでアタックすると、ダークネス・鈴木はブロックせず、4ダメージ目を与えた。
「ケッ! ……ハンドを溜めるか。エクスデスでアタックするぜェ! イミテーションが2体いるから、パワー10000だァ!」
 これで武藤は3ダメージ。しかし、まったく負ける気がしない。
「ジタン。ハンド見せろ」
 武藤はしれっと光ジタン(4-099R)を出す。
「ゲェッ! ……アンタ、鬼かァ!」
「アドラメレク。ガイ、アタック」
 たいした手札じゃなかった。武藤は憤怒の霊帝アドラメレクを捨てさせ、ガイでアタックする。ダークネス・鈴木に5ダメージ目が入るが、ダメージゾーンにめくれたカードは暗黒の雲ファムフリートだった。
「ケケケケッ! EXバーストだァ! こっちはうたかたの夢想をブレイクゾーンに置くぜェ!」
「ジタン」
 武藤は即決で光ジタン(4-099R)を捨て、ターンエンドした。
「……3枚目は勘弁して欲しいぜェ。まあいい。うたかたの夢想を出すッ! パワー10000のエクスデスでアタックだァ! これで4ダメージ目ェ! 追い上げるぜェ!」
 うざい。テンション上げすぎだろう。
「忍者。エクスデス」
「……ゲ」
 武藤は忍者(4-065C)のアシストを使い、ダルになったエクスデスをブレイクする。続いてガイでアタック。ダークネス・鈴木に6ダメージ目を与えた。
「……オレ様のターン。……ターンエンドォ」
 ダークネス・鈴木の声が小さくなってきた。無理が祟ってきたのか。
「……スノウ。ガイ、アタック」
 特に意味はなかった。ただ、なんとなく予感がしただけだった。武藤は先にスノウを出し、ガイでアタックした。
 ここでダークネス・鈴木に与えられた7ダメージ目が、暗黒の雲ファムフリート。またしてもEXバーストが発動する。
「……アンタ、読んでたのかァ?」
「さあね」
 ダークネス・鈴木はうたかたの夢想をブレイクゾーンに置き、武藤はスノウを置いた。
「ケッ! まだまだ終わらねェゼ! たまゆらの雷光を出す! ターンエンドだァ!」
「ガイ、アタック」
 武藤がガイでアタックすると、ダークネス・鈴木はたまゆらの雷光で受けた。パワー6000のたまゆらの雷光はブレイクする。
 スノウを出して、武藤はターンエンドした。
 この時の武藤の手札は、プリッシュが3枚、カトル・バシュタールが1枚、ゴーレム(1-089C)1枚。かなりの戦力を温存していた。まったく負ける気がしない。
「オレ様のターン! ケケケッ! 運が向いてきたぜェ! ここから逆襲が始まるぜェ! 驚けェ、エクスデスだァ!」
 ダークネス・鈴木は手札をすべて切り、エクスデス(3-070R)を出した。
「単品?」
「……あ、ああ。……お供のイミテーションは、いねェ」
 終わってる。
 自分のターンになると、武藤はスノウでアタックする。エクスデス(3-070R)をダルにするが、たまゆらの雷光にブロックされてスノウはブレイクされた。続いてガイでアタック。たまゆらの雷光にブロックされ、今度はまゆらの雷光がブレイクする。
「カトル。ヴェイン」
 武藤はカトル・バシュタールと、ヴェインを出した。
 ヴェインのアビリティにより、6コストのエクスデス(3-070R)はアクティブにならない。
「……さ、3枚目、……だと? オ、オレ様のターン。……ねェよ。ねェ!」
 ダークネス・鈴木が叩きつけたカードは、アルマと魔界幻士(2-090C)だった。2枚ともバックアップだ。
「あーダルい」
 すうーっと、武藤の目が死んだ魚のような目に戻る。
 ダルダル武藤、余裕の2連勝だった。


デッキレシピ

■ダルいデッキ/機動戦士ガンダム1/144スリーブ

フォワード 23枚
 【氷】ジェネシス[スペシャル 4CP]2枚
 【氷】ヴェイン[レア 4CP]3枚
 【氷】ティナ[レア 3CP]3枚
 【氷】スノウ[アンコモン 1CP]3枚
 【土】プリッシュ[コモン 6CP]3枚
 【土】ガイ[コモン 4CP]3枚
 【土】カトル・バシュタール[コモン 4CP]3枚
 【光】ジタン[レア 3CP]3枚

バックアップ 18枚
 【氷】ギルバート[アンコモン 4CP]3枚
 【氷】クジャ[レア 2CP]3枚
 【氷】ジル・ナバート[アンコモン 2CP]2枚
 【土】幽玄の道化[コモン 2CP]3枚
 【土】モンク[コモン 2CP]2枚
 【土】忍者[コモン 3CP]3枚
 【土】召喚士[コモン 2CP]2枚

召喚獣 9枚
 【氷】シヴァ[アンコモン 4CP]3枚
 【土】ゴーレム[コモン 1CP]3枚
 【土】ゴーレム[アンコモン 6CP]2枚
 【土】カーバンクル[アンコモン 3CP]1枚

FFTCG

Chapter 7:汚染される大海原 へつづく。

 

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