2012年2月 のアーカイブ

Chapter 3:奇跡の勝利

2012年2月28日 火曜日
この記事の所要時間: 約 24分5秒

 これは、とあるカードゲーマーの家にある12個のデッキから生まれた物語である。
 もちろん、オールフィクションであり、脳内妄想であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありませんし、精神に異常をきたしてもいません。

FFTCG
Chapter 3:奇跡の勝利

 ファイナルファンタジー・トレーディングカードゲーム第4回ワールドプレミアム大会決勝第1戦、ダークネス・鈴木対禿野道房の1回戦目が終わった。
 結果は、1対8でダークネス・鈴木の圧勝だった。道房はほとんどいいところがなく敗れた。
 蟹座スリーブに包まれたデッキに、すまない、と道房は胸の中で謝る。
 ファイナルファンタジーVIIIのファンデッキ。たかがファンデッキで世界大会に挑むなんて、といわれれば返す言葉もないが、このデッキでずっと戦ってきた。好きなのだ。好きだからこそ、続けてきてこられた。そもそもベースがファイナルファンタジーなのだから、すべてのデッキはファンデッキであって当然なのだ。
 しかし1回戦目では、主力となるはずのスコールがフィールドに出てこなかった。出せなかった。
 デッキに宿る魂が、道房の声に答えてくれない。勝つ気力が足りないのか。覇気が満ちてないのか。こんなもんじゃないはずだ、このデッキは。
 対するダークネス・鈴木のデッキは、6コストのエクスデスを中心としたイミテーションデッキだった。引きもよく、序盤から圧倒されっ放しだった。
 だが、完全に勝敗が決まったわけではない。
 勝負は、2回戦で行われる。次の戦いで勝利すれば、五分。1勝1敗に持っていける。
 不運は1戦目で使い切った。
 残るは幸運のみ!
 道房は、自分とデッキを信じることにした。

『デッキクリエイト!』
 天の声が叫ぶ。
 今回の特別ルールの中で最も異質なルールがこれだ。
 2戦目は、カードをシャッフルしないまま行う。その特別ルールは、こうなっている。

   (2)2戦目開始時は、デッキのシャッフルを行わない。
    (2-1)以下の手順で2戦目のデッキを構築する。
     (2-1-1)残ったデッキをAとする。シャッフルしたり、カードを確認してはいけない。
     (2-1-2)ダメージゾーンのカードをBとする。シャッフルしたり、カードを確認してはいけない。
     (2-1-3)ブレイクゾーンのカードをCとする。シャッフルしたり、カードを確認してはいけない。
     (2-1-4)フィールドに置かれたフォワードのカードをDとする。
     (2-1-5)フィールドに置かれたバックアップのカードをEとする。
     (2-1-6)手札をFとする。
     (2-1-7)D、E、Fを任意の順番でまとめ、Gとする。
     (2-1-8)除外エリアのカードをHとする。シャッフルしたり、カードを確認してはいけない。
     (2-1-9)A、B、C、G、Hの順番でカードを詰み、デッキを作る。
    (2-2)構築の際、故意ではなくともシャッフルしてしまった場合は即失格とする。
    (2-3)対戦が始まってからは、アビリティなどでデッキをシャッフルする機会があればしてもよい。

 非情にめんどくさいルールだが、ハイテクなデュエルテーブルがカードを回収し、勝手に処理してくれる。手作業でなんかやってられるかこんなもん。ほんとにめんどくさい。
 こちらがやらなくちゃいけないのは、Gの部分。どうやら積み込みが可能らしい。最後の最後にワンチャンスを仕込めるのだ。
 だけど、道房は肩を落とした。
 なんもない。
 積めるのは、バックアップばっか。コスモス2枚入ってる。マリアも2枚入ってる。
 まあいい。デッキが尽きる前に勝負を決めればいいのだ。
 逆に相手は、1戦目で主力となるカードをフィールドに展開させていた。手札にも奥の手が眠っていそうだった。それがそのままデッキの下に埋もれる。
 勝負は意外とあっさり決着がつくのではないだろうか。そう考えると、自分のためにあるようなルールであるような気がしてくる。
 道房は、ちょっと泣きたくなった。
『ポジショーン・チェーンジ!』
 どうやら相手と位置を交換するようだ。意味あるのかこれ。股間のポジション直したくなるわ。
 道房は、ダークネス・鈴木とすれ違う。
 その時、道房は気付いた。
 思わず、目を見開く。
「まっ! まさか!」
「……ケケッ。やっと気付いたようだなァ!」
 ダークネス・鈴木が、ババッとフードを取る。
 そのサングラス! レイヴァン! じゃなくてレイベン!
 その腕時計! ローレックス! じゃなくてローラックス!
 そのスニーカー! ナイキ! じゃなくてネイキ!
 その指輪! クロムハーツ! じゃなくてクロスハート!
「そして財布は、ルイヴィトンじゃなくてルイスバトンだぜェ! 全身イミテーションだァ! ケーッケッケッケ!」
「へえ」
 どーでもいい。
 無視してプレイ位置に着いた。ダークネス・鈴木も、そそくさとフードをかぶり直した。

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Chapter 2:戦慄のファーストアタック

2012年2月25日 土曜日
この記事の所要時間: 約 18分52秒

 これは、とあるカードゲーマーの家にある12個のデッキから生まれた物語である。
 もちろん、オールフィクションであり、脳内妄想であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありませんし、精神に異常をきたしてもいません。

FFTCG
Chapter 2:戦慄のファーストアタック

 なんだこの入場曲は。
 入場ゲートから決闘場までまっすぐに延びる赤い絨毯の上を歩きながら、禿野道房は憤然としていた。
 なぜ演歌。なぜ吉幾三。年齢で選曲してんのか。41歳だともう演歌なのか。客席からの笑い声は最初だけで、ブーイングすごいぞ。ふざけんな。ウケ狙いだと思われるじゃないか。選らんでないっつーの。こちとら音楽の趣味は若いっつーの。キャリーぱみゅぱみゅ好きだっつーの。恥ずかしげもなく乳毛晒せるっつーの。
 しかしいくら憤ろうとも、緊張は隠せない。心配だ。それにまさかの第1試合。6万の注目。6万の期待。6万の熱い視線。その重圧が、道房を押しつぶそうとしていた。
 やばい。これまじやばい。冷や汗が止まらない。目眩がする。脚が震える。足が重い。トイレには行ってきたけど、腸がうなり声を上げている。虎がうなってる。
「……! ……くーん!」
 大歓声にかき消されつつある声に、道房ははっとした。
 この声は。客席を探す。いた。藻衣だ。現役女子高生カードゲーマーであり道房の姪である藻衣が、柵で覆われた客席の一番前まで出てきて大きく手を振っている。
 道房は駆け寄った。
「藻衣! 無事か! 友吾に変なことされなかったか!」
「大丈夫! されるまえに通報したよ! 今はもうパトカーの中!」
「そうか!」道房はほっと胸をなで下ろした。「……ありがとう、藻衣。これで心配事はなくなった!」
「うん! 頑張ってね、道房くん!」
「おうよ!」
 吹っ切れた道房は、さっきまでとは大違いな足取りで、決闘場へ向かう。親友でありロリコンである友吾に、藻衣を任せたのは失敗だった。そのことをずっと悔いていた。だがしかし、藻衣は思ったよりも大人になっていた。叔父の親友でもふたり切りになるやいなや遠慮なく警察に通報するだなんて、やるじゃないか。さすが母の弟をくんづけで呼ぶだけのことはある。さすがあの姉の娘である。おとなしく観戦しててくれ。
 決闘場に到着した。
 白い階段を上ると、カードショップの対戦室まるまる一部屋分のスペースがあった。中央には、広いガラステーブルが鎮座している。椅子はない。立ってプレイするスタイルのようだ。
 吉幾三の歌声がやんだ。
 続いて流れてくるのは、エクスデスのテーマ「覇王エクスデス」だ。
 ちくしょう。道房の頭に血が登る。なんでオレが吉幾三で相手はファイナルファンタジーの音楽なんだ。差をつけるにもほどがあるだろ。なにこの嬉しそうな歓声。オレ、ヒール確定じゃないか。負け役確定じゃないか。ふざけんな。こっちだって、流して欲しいファイナルファンタジーの曲があったのに。
 対戦相手のダークネス・鈴木が、ゆっくりした足取りで向かってくる。いいね。熱い声援浴びてるね。気持ちいいよね。好きな曲で入場だもんね。
 てめーなんぞにゃ絶対負けねえ。
 道房は歯をガリガリ鳴らしながら熱意を燃やした。

『さあ! いよいよ! いよいよ始まりますねー、解説のファイナル・大沢さん! ファイナルファンタジー・トレーディングカードゲーム第4回ワールドプレミアム大会決勝、第1回戦! ついについに始まります! ダークネス・鈴木対禿野道房の戦いの火蓋が、今まさに切って落とされようとしております! 2回戦行い、勝ち数の多い方が勝ち進みます! もーのーすーごい声援です! この6万人の観衆が見守る中、いよいよオープニングアクトです!』
『実況の古鼬さん。オープニングアクトって前座って意味っすよ。一応これ前座じゃなくて本戦ですから』
『さあ! この決勝に駒を進めた12人の選手の中で、いったい誰が最後まで勝ち抜くのでしょうか! 最強は誰だ! いやあ、ファイナル・大沢さん。それにしても「覇王エクスデス」にはシビレましたねえ!』
『流した。ていうか、吉幾三にビビりましたよ。まさかこの会場で、あの日本初のラップ曲のリリックが真っ先に聴けるだなんて思わなかったっす』
『というわけで、ファイナル・大沢さん! いよいよ対戦が始まるわけですが、今回からは特殊な演出が施されているんですよね?』
『また流された。えーと、そうっすね。抽選のときもそうでしたが、フィールドにカードを出すと、3D立体映像がテーブル上にバーンと浮かび上がります。あのテーブル、超ハイテクなんです。さらに、アタック時には攻撃するし、ブロック時には防御ポーズを取ります。3D映像が動くんです』
『それはすごい! 楽しみですねー!』
『ええ。是非、ティファとか出して欲しいっすねー、あと、ティファとかティファとか』
『ティファ! ティファいいですねー、ファイナル・大沢さん!』
『お。まさか古鼬さんもティファ派っすか?』
『モチのロンです! エアリスには悪いですが、ティファ一択です! ゆっさゆさです!』
『まじっすか!? エアリスには悪いけど、俺もっす! たぷんたぷんです!』
『ぷよんぷよん!』
『もゆんもゆん!』
『予期せぬ邂逅! おおーっと! そうこうしているうちに、対戦が開始されるようです!』
『ティファでパーンチ!』

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Chapter 1:衝撃のファーストアタック

2012年2月23日 木曜日
この記事の所要時間: 約 14分30秒

 これは、とあるカードゲーマーの家にある12個のデッキから生まれた物語である。
 もちろん、オールフィクションであり、脳内妄想であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありませんし、精神に異常をきたしてもいません。

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Chapter 1:衝撃のファーストアタック

『さあ! いよいよ始まりました! ファイナルファンタジー・トレーディングカードゲーム第4回ワールドプレミアム大会決勝っ! 実況は、わたくし古鼬射一郎。解説は、第1回第2回FFTCGワールドプレミアム大会で連続優勝したチャンピオン! あの、リビング伝説っ! ファイナル・大沢さんですっ!』
『ちょっと古鼬さん。なんすかリビング伝説って。居間の伝説みたいになってるじゃないすか』
『生ける伝説ってことですよ! ほら、リビングデッドっていいますでしょう!』
『なんすかその例え。余計嫌っすよ』
『まあまあ、そんなこといわず、今日はひとつよろしくお願いします! えー、今日はこのスーパー武蔵小金井ドームに、約6万人の観衆が集まりました。とんでもない注目度です! 今! 観客席のみなさまは、トーナメントの組み合わせが行われようとしている、ドーム中央に作られた戦いの舞台に釘付けです! しかしちょっと残念ですねー、ファイナル・大沢さん。ファイナル・大沢さんも、引退されてなければあの舞台に立っていたでしょうに!』
『……』
『前回の第3回ワールドプレミアム大会、ブルーアイズ・鹿馬との死闘が懐かしいですねー! ファイナル・大沢さん、ストレート完封負けしたんですよね? 引退を決意されたのは、その時でしょうか?』
『……引退してねーよ。予選で負けたんだよ』
『おおーっと! トーナメント組み合わせ抽選会の準備が整いましたか? いや、まだのようですねー。ちょっと準備に時間がかかるようです。しかしファイナル・大沢さん、これは楽しみですねー!』
『……まあいいや。そうっすね。わくわくするっすね、こーゆーのは。ええと、12人のトーナメントですけど、前回優勝者のブルーアイズ・鹿馬と、準優勝のダルダル・武藤は、シードですね』
『そのようです! 前回の決勝戦で我々観客を魅了した激しい戦いが、今回も見れるのでしょうか! しかし! 今回予選を勝ち抜いてきた選手達も、ひと癖もふた癖もある強者ばかり! ズバリ! ファイナル・大沢さんは、あの12人の中で誰が優勝すると予想しますか?』
『んー。とはいえやっぱブルーアイズ・鹿馬なんじゃないっすか? 前回優勝してるし。あと、クイーン・渡辺もいいとこいくと思うっすよ』
『なるほどっ! 無名のくせにとんでもないルックスで阿鼻叫喚の大歓声を浴びた、あのクイーン・渡辺ですか! さすがファイナル・大沢さん! お目がビッグプライスですねー!』
『それ、お目が高いっていいたいんでしょうけど、逆だから。ビッグプライスって大安売りだから。全然すごくないことになってるから。プライスつけちゃダメだから』
『ところでファイナル・大沢さん! クイーン・渡辺は、どのへんに期待してますか?』
『どのへん、っつーか、俺、あいつに負けて予選落ちしたからね。ボコボコに負けたからね。勝ってくんないと困るんだけど』
『なるほど、私怨で応援ですか! HEY YO! って叫びたくなりますね!』
『ならねーよ』
『他に注目の選手というと、どなたでしょうか?』
『そうっすねえ。同じくシードでいうと、ナイト・内藤とロワール・田中も強い、っつーか有利だろーね。1戦少ないすから』
『当たり前じゃないですか。しかしですね! そもそもですよ? 4名もシードになってますが、トーナメントに12名というのは中途半端なんじゃないでしょうか。その点、ファイナル・大沢さん、どうお考えですか?』
『デッキが12個しかないからしょーがな
『おおーっと! 抽選会まで少し時間があるようです! では、ここで特別ルールの説明に入りましょう。ノーシャッフルデスマッチ。聞き慣れないルールですねー、ファイ沢さん』
『変な縮め方しないでください。えー、ノーシャッフルデスマッチ、っすか。2回戦目だけシャッフルしないという特殊なルールっす。でもねえ。これねえ。試してもないのにいきなり前回のエントリで発表したんだけど、いざ試してみたら、これがもうめんどくさいめんどくさい。フィールドや手札のこと忘れててアップ後慌ててルール付け足したり、わかりにくいとこちょこちょこ書き直してたりするし、調子に乗らないで通常ルールにしとけばよかったと、ぶっちゃけ後悔
『おおーっと! 抽選会が始まりそうです! 皆さん、大画面のモニターにご注目ください! ファイ沢さんは、あとで便所きてください』
『まじか』

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プロローグ:選ばれし12人のデュエリスト

2012年2月21日 火曜日
この記事の所要時間: 約 15分56秒

 これは、とあるカードゲーマーの家にある12個のデッキから生まれた物語である。
 もちろん、オールフィクションであり、脳内妄想であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありませんし、精神に異常をきたしてもいません。

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プロローグ:選ばれし12人のデュエリスト

「ついにやってきたぜ!」
 雑踏の中から抜け出した禿野道房は、太陽に照らされた巨大なドームを見上げ、思わず叫んだ。
 スーパー武蔵小金井ドーム。
 数々の名勝負が繰り広げられた、日本が誇るカードゲームの殿堂。世界中のカードゲーマー達が憧れるデュエルの聖地。その白く眩しい建造物が、眼前に広がっていた。
 ターミナルから川のように続くひとびとが、高揚した顔でドームの中に吸い込まれていく。
 ドームのぐるりを覆うように設置された巨大電光掲示板には、この日行われる大会名が左から右へと流れていた。
『ファイナルファンタジー・トレーディングカードゲーム 第4回 ワールドプレミアム大会 決勝』
 蒼天の空に花火が鳴り、ファイナルファンタジーのメドレーがゆるやかな風に乗って響き渡る。
 世界最強のカードゲームと名高く、小学校から老人ホームまで様々な場所でプレイされている大人気カードゲームの、4年に1回しか行われないワールドプレミアム大会決勝。世界各地の予選を勝ち抜いてきたのは、たった12名。
 そのひとりが、道房だった。
 身体が震えた。握った拳の中に、汗がにじんだ。
 嬉しさと相反する、かつてない緊張感と家に帰りたい感。
 スーパー武蔵小金井ドームの入り口が、階段の向こうに見える。
 魔境の入り口。
 あのドアの向こうに一歩でも足を踏み入れれば、そこは決闘場だ。味方のいない戦場だ。
 負けることは許されない。
 しかも、無様なプレイミスを晒そうものなら、観衆から凄まじいブーイングを浴びるだろう。
 ……いけるのか。耐えられるのか。戦えるのか。
「ははっ。道房、まさかお前が決勝に進めるとはな」
 気楽な声が、道房の肩を叩く。小学校時代からの親友、降木友吾だ。
「なーんかわたし、わくわくしてきちゃった! 道房くん。頑張ってね!」
 現役女子高生カードゲーマーの堂出藻衣が、隣に並ぶ。
 笑顔に挟まれ、道房の身体から緊張感と家に帰りたい感が抜け落ちた。
 ライバルであり親友である、友吾と藻衣。ふたりとの切磋琢磨がなければ、ここまでくることはできなかった。
「ありがとう、友吾。藻衣。……オレ、勝つよ!」
「それでこそだ、道房! 俺たちの分まで活躍しろよな! 1回戦で負けたら許さねーぜ!」
「そーだよ、道房くん。目指すは優勝! だよっ!」
 ふたりの励ましに、道房の顔がほころぶ。
 負けるものか。
 予選で負けたふたりのためにも、ほかのライバルたちのためにも、勝ち続けなくてはいけない。
 ふつふつと、胸の奥で炎が燃える。
 瞳の奥で、ごうごうと燃えさかる。
 腰にぶら下げたデッキケースをぎゅっと握る。
「よっしゃー! いっくぜー!」
 禿野道房41歳厄年。
 家庭と仕事を放り投げての参戦であった。

(さらに…)