もちろん、オールフィクションであり、脳内妄想であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありませんし、精神に異常をきたしてもいません。
プロローグ:選ばれし12人のデュエリスト
「ついにやってきたぜ!」
雑踏の中から抜け出した禿野道房は、太陽に照らされた巨大なドームを見上げ、思わず叫んだ。
スーパー武蔵小金井ドーム。
数々の名勝負が繰り広げられた、日本が誇るカードゲームの殿堂。世界中のカードゲーマー達が憧れるデュエルの聖地。その白く眩しい建造物が、眼前に広がっていた。
ターミナルから川のように続くひとびとが、高揚した顔でドームの中に吸い込まれていく。
ドームのぐるりを覆うように設置された巨大電光掲示板には、この日行われる大会名が左から右へと流れていた。
『ファイナルファンタジー・トレーディングカードゲーム 第4回 ワールドプレミアム大会 決勝』
蒼天の空に花火が鳴り、ファイナルファンタジーのメドレーがゆるやかな風に乗って響き渡る。
世界最強のカードゲームと名高く、小学校から老人ホームまで様々な場所でプレイされている大人気カードゲームの、4年に1回しか行われないワールドプレミアム大会決勝。世界各地の予選を勝ち抜いてきたのは、たった12名。
そのひとりが、道房だった。
身体が震えた。握った拳の中に、汗がにじんだ。
嬉しさと相反する、かつてない緊張感と家に帰りたい感。
スーパー武蔵小金井ドームの入り口が、階段の向こうに見える。
魔境の入り口。
あのドアの向こうに一歩でも足を踏み入れれば、そこは決闘場だ。味方のいない戦場だ。
負けることは許されない。
しかも、無様なプレイミスを晒そうものなら、観衆から凄まじいブーイングを浴びるだろう。
……いけるのか。耐えられるのか。戦えるのか。
「ははっ。道房、まさかお前が決勝に進めるとはな」
気楽な声が、道房の肩を叩く。小学校時代からの親友、降木友吾だ。
「なーんかわたし、わくわくしてきちゃった! 道房くん。頑張ってね!」
現役女子高生カードゲーマーの堂出藻衣が、隣に並ぶ。
笑顔に挟まれ、道房の身体から緊張感と家に帰りたい感が抜け落ちた。
ライバルであり親友である、友吾と藻衣。ふたりとの切磋琢磨がなければ、ここまでくることはできなかった。
「ありがとう、友吾。藻衣。……オレ、勝つよ!」
「それでこそだ、道房! 俺たちの分まで活躍しろよな! 1回戦で負けたら許さねーぜ!」
「そーだよ、道房くん。目指すは優勝! だよっ!」
ふたりの励ましに、道房の顔がほころぶ。
負けるものか。
予選で負けたふたりのためにも、ほかのライバルたちのためにも、勝ち続けなくてはいけない。
ふつふつと、胸の奥で炎が燃える。
瞳の奥で、ごうごうと燃えさかる。
腰にぶら下げたデッキケースをぎゅっと握る。
「よっしゃー! いっくぜー!」
禿野道房41歳厄年。
家庭と仕事を放り投げての参戦であった。
(さらに…)