‘プレミアムパック’ タグのついている投稿

待ちに待った、この時

2007年6月15日 金曜日
この記事の所要時間: 約 6分36秒

 親しくしているFD君からレポートがきたので、載せようと思います。
 FD君、お疲れ!


 2007年6月14日。
 朝。
 電車の中で嫁と別れると、僕はいつもの駅では降車せず、そのままJR新宿駅に向かった。
 久しぶりの、高揚感。会社へは、遅刻のメールを出してある。ネットで下調べも済んでいる。準備は万全だ。
 9時10分。
 JR新宿駅到着。
 西口を出て、地下通路を進む。自然に、足が速くなる。
 焦っていた。行列ができていたら。そう思うと、いてもたってもいられない。会社の帰りに寄るという策も考えられたのだが、売り切れが不安だった。できる限り、確実にしたい。
 ビックカメラ西口店へ到着。
 さっと、辺りを見回す。
 僕は――苦笑いをこぼす。そう。行列など、あるわけもなし。
 開店まで、50分ある。胸をなで下ろした僕は、「ファイナルファンタジーXII レヴァナント・ウイング」をプレイしながら、油断なく辺りの様子を窺う。
 それらしき若者を、1名発見。そうだろう。僕だけじゃない。ひと知れず、ほくそ笑む。
 気づくと、開店1分前。「ファイナルファンタジーXII レヴァナント・ウイング」に集中し過ぎたようだ。
 自動ドアの前には、いつのまにか数人。僕も、開店を待つ集団の中に混ざる。
 周りに――それらしきひとの息づかい。
 2?3名、いる。
 いつの間に。
 負けられない。そう、思う。
 自動ドアが、開いた。
 店員の「いらっしゃいませー」の声に、僕らは何故か頭を下げる。
 早足で、エスカレーターへ。
 僕の前に、若者が1名。こいつ、なかなか速い。しかし2位につけていれば、隙が見えるだろう。いつでも抜ける。
 ――しかし。
 前方から、それらしきひとたちが数名、なだれ込んできた。
 迂闊だった。他の入り口の方が、エスカレーターに近い。僕の広い額に、汗が流れる。
 全員素知らぬ顔をしているが、わかる。目の輝きが、違う。平静を装うその表情とは裏腹に、彼らの胸の奥では熱いものがみなぎっている。
 もちろん――僕も同じだ。
 4位というポジションで、僕はエスカレーターを歩く。それらしきひとたちも、油断なくエスカレーターを歩いている。走り出しこそしないが、みんな鼻息は荒い。まるで鼻息を使って、速度を増しているかのようだ。
 前を行く1名が、PC売り場に入った。気恥ずかしくなったのだろうか。愚かな。僕は冷笑を浮かべた。
 前を行く1名が、途中の階で困惑した表情を浮かべ、足を止めた。これもまた、愚かな。ビックカメラ新宿西口店が初めてなのだろう。売り場がわからない、何階なんだろう、といった顔をしている。悪いが、無視させていただく。同情はしない。
 ポジションを2位に上げた僕は、1位の奴と肩を並べるように――ゲーム売り場に突入した。
 それは、目の前に陳列されていた。
 一番目立つ位置だ。
 緑色の、ファンタジー。
 ――「トラスティベル ?ショパンの夢?」
 僕は、立ち止まる。
 それらしきひとたちは、我先にと、パッケージを手にレジへ向かう。わくわくしているのが、平静を装うその口元から見て取れる。
 けれど、僕は立ち止まる。
 すでに、決めていた。十分、考えていた。それなのに――「Xbox 360 コアシステム トラスティベル ?ショパンの夢? プレミアムパック」を買うか、ソフト単品と「Xbox 360通常版」を買うか、迷っている。
「Xbox 360通常版」を買うべきなのだ。D端子 HD AVケーブルが付いてるし、20GBのハードディスクも付いている。それに、プレミアムパックに付属の「Xbox 360コアシステム」は、DVDドライブの質が悪いらしい。通常版を選ぶべきだ。
 だが、悩む。
 僕は、悩んでしまう。
 何故なら、プレミアムパックには、なんと初回購入特典として、目覚まし時計とフェイスプレートが付くという。
 売り場にくるまで、知らなかった。
 衝撃の事実だ。
 これは、――欲しい。
 僕は、うろうろと売り場を徘徊し、苦悩悶絶した。冷静になるんだ、通常版の方がいいに決まっている。そう自分に言い聞かせようとしても、目覚まし時計の誘惑に負けそうになる。そんなものいらない。時計なら、間に合っている。だが、限定品だ。フェイスプレートだってついてるよ。初回特典は、なにごとにも代え難いじゃないか。しかし、DVDドライブが。ハードディスクが。ああ、どうしよう。
 ――決断。
 僕は、断腸の思いでプレミアムパックを手に取った。
 初回購入特典の魅力に負けたのだ。初回購入特典にはかなわない。無理だ。勝てっこない。
 半笑いで、周辺機器のワイヤレスLANアダプターとD端子 HD AVケーブルを手に取り、レジへ。ハードディスクを買うか、メモリーユニットを買うかでまた悩むが、結局メモリーユニット(512MB)を選択した。512MBは最近出たばかりだし、おまけでゲームも付いているというから、魅力的なのだ。ハードディスクは、いずれ必要になったら、120GBの奴を買うつもりだ。
 購入完了。
 Xbox 360本体に3年間保証をつけて、47,800円。
 5万円以内に収まった。いい選択、いい買い物をした。充実感、満足感に満たされる。
 だが――重い。
 予想以上に、必要以上に、重い。知ってはいたけど、ここまで重いとは。
 いや、どうってことない。僕の足は浮き足立っていた。つまり、浮いていたのだ。これくらいの重さ、なんてことない。
 鼻歌を唄う勢いで、JR新宿駅に向う。キオスクでVC3000のど飴を買い、小銭を作る。中央線で、JR東京駅へ。
 JR東京駅に到着。コインロッカーを探す。何故なら、こんなにもデカく、しかもビックカメラと書かれた紙袋を抱えたまま、仕事場へなんて行けないからだ。遅刻の理由も悟られてしまう。いくらなんでも、恥ずかし過ぎる。
 だから、コインロッカーだ。東京駅なら、いくらでもある。
 僕は、度肝を抜かれた。なんと、最近のコインロッカーは、Suicaが使えたのだ。小銭を用意することなんかなかったのだ。軽くカルチャーショックを受けながら、荷物を突っ込む。
 あとは、定時で会社を出て、急いで家に帰るだけだ。19時には、始められるだろう。
 僕は、満足げに息を吐き出す。
 準備は整った。
 ――だが。
 残業。
 そして雨。
 現実は無慈悲だ。
 朝、買いにいってよかった。それだけは、幸運だった。
 時計は21時。僕は雨の中を、重い荷物を抱え、家に向かっていた。これしきのことで負けるものか、と思いながら。
 帰宅後、いよいよ開封。
 待ちに待った、この時だ。
 でかい電源アダプターに、嫁が笑う。
 設定を済ませ、DVDドライブを開く。ネットで調べていたので、形状を見るだけでわかるのだが、DVDドライブは――ハズレだった。東芝サムソン製だ。音が大きく、ソフトに傷が付きやすいという。ネットの情報によると、「トラスティベル ?ショパンの夢? プレミアムパック」では、半々の確率で、通常版と同じ日立製らしいのだが、残念ながら僕のXboxは違っていた。期待していただけに、悔しい。
 悔しさのあまり、嫁に「このDVDドライブ、ゲームの音が聞こえないくらいうるさいらしいよー」などと軽口を叩いたのだが、本当にそうだとは思わなかった。本体のファンの音だけでもそれなりにうるさかったのに、DVDドライブが動き出すと、凄まじい騒音だ。テレビのボリュームを上げざるを得ない。
 しかも――ワイヤレスLANアダプターが初期不良だ。ランプが何度か点滅して、消える。本体がアダプターを認識しない。
 まったく、せちがらい世の中である。
 だが、美しい。
 HDTVで見る画面は、素晴らしく美しい。
 僕は、うっとりとした。次世代機は、伊達じゃない。
 ――買ってよかった。
 本気でそう思えた瞬間だった。

Xbox 360



 でも、「エアーキッス」はないと思います。