もちろん、オールフィクションであり、脳内妄想であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありませんし、精神に異常をきたしてもいません。
Chapter 3:奇跡の勝利
ファイナルファンタジー・トレーディングカードゲーム第4回ワールドプレミアム大会決勝第1戦、ダークネス・鈴木対禿野道房の1回戦目が終わった。
結果は、1対8でダークネス・鈴木の圧勝だった。道房はほとんどいいところがなく敗れた。
蟹座スリーブに包まれたデッキに、すまない、と道房は胸の中で謝る。
ファイナルファンタジーVIIIのファンデッキ。たかがファンデッキで世界大会に挑むなんて、といわれれば返す言葉もないが、このデッキでずっと戦ってきた。好きなのだ。好きだからこそ、続けてきてこられた。そもそもベースがファイナルファンタジーなのだから、すべてのデッキはファンデッキであって当然なのだ。
しかし1回戦目では、主力となるはずのスコールがフィールドに出てこなかった。出せなかった。
デッキに宿る魂が、道房の声に答えてくれない。勝つ気力が足りないのか。覇気が満ちてないのか。こんなもんじゃないはずだ、このデッキは。
対するダークネス・鈴木のデッキは、6コストのエクスデスを中心としたイミテーションデッキだった。引きもよく、序盤から圧倒されっ放しだった。
だが、完全に勝敗が決まったわけではない。
勝負は、2回戦で行われる。次の戦いで勝利すれば、五分。1勝1敗に持っていける。
不運は1戦目で使い切った。
残るは幸運のみ!
道房は、自分とデッキを信じることにした。
『デッキクリエイト!』
天の声が叫ぶ。
今回の特別ルールの中で最も異質なルールがこれだ。
2戦目は、カードをシャッフルしないまま行う。その特別ルールは、こうなっている。
(2)2戦目開始時は、デッキのシャッフルを行わない。
(2-1)以下の手順で2戦目のデッキを構築する。
(2-1-1)残ったデッキをAとする。シャッフルしたり、カードを確認してはいけない。
(2-1-2)ダメージゾーンのカードをBとする。シャッフルしたり、カードを確認してはいけない。
(2-1-3)ブレイクゾーンのカードをCとする。シャッフルしたり、カードを確認してはいけない。
(2-1-4)フィールドに置かれたフォワードのカードをDとする。
(2-1-5)フィールドに置かれたバックアップのカードをEとする。
(2-1-6)手札をFとする。
(2-1-7)D、E、Fを任意の順番でまとめ、Gとする。
(2-1-8)除外エリアのカードをHとする。シャッフルしたり、カードを確認してはいけない。
(2-1-9)A、B、C、G、Hの順番でカードを詰み、デッキを作る。
(2-2)構築の際、故意ではなくともシャッフルしてしまった場合は即失格とする。
(2-3)対戦が始まってからは、アビリティなどでデッキをシャッフルする機会があればしてもよい。
非情にめんどくさいルールだが、ハイテクなデュエルテーブルがカードを回収し、勝手に処理してくれる。手作業でなんかやってられるかこんなもん。ほんとにめんどくさい。
こちらがやらなくちゃいけないのは、Gの部分。どうやら積み込みが可能らしい。最後の最後にワンチャンスを仕込めるのだ。
だけど、道房は肩を落とした。
なんもない。
積めるのは、バックアップばっか。コスモス2枚入ってる。マリアも2枚入ってる。
まあいい。デッキが尽きる前に勝負を決めればいいのだ。
逆に相手は、1戦目で主力となるカードをフィールドに展開させていた。手札にも奥の手が眠っていそうだった。それがそのままデッキの下に埋もれる。
勝負は意外とあっさり決着がつくのではないだろうか。そう考えると、自分のためにあるようなルールであるような気がしてくる。
道房は、ちょっと泣きたくなった。
『ポジショーン・チェーンジ!』
どうやら相手と位置を交換するようだ。意味あるのかこれ。股間のポジション直したくなるわ。
道房は、ダークネス・鈴木とすれ違う。
その時、道房は気付いた。
思わず、目を見開く。
「まっ! まさか!」
「……ケケッ。やっと気付いたようだなァ!」
ダークネス・鈴木が、ババッとフードを取る。
そのサングラス! レイヴァン! じゃなくてレイベン!
その腕時計! ローレックス! じゃなくてローラックス!
そのスニーカー! ナイキ! じゃなくてネイキ!
その指輪! クロムハーツ! じゃなくてクロスハート!
「そして財布は、ルイヴィトンじゃなくてルイスバトンだぜェ! 全身イミテーションだァ! ケーッケッケッケ!」
「へえ」
どーでもいい。
無視してプレイ位置に着いた。ダークネス・鈴木も、そそくさとフードをかぶり直した。
(さらに…)